2002年10月から1年間,挿入光源のギャップをこれまでの19mmから25mmに広げて運転します。

影響

ギャップ19mmの強度に対して,25mmにしたとき,及び25mmにしてアブソーバーを半分にしたとき,強度が何倍になるかを内田さんが計算してくれました。それを図に示します。赤線が02年4-6月期の強度,黒線が03年7月までの強度,水色の線が,順調に行った場合の03年10月以降の強度です。03年10月までは,7keVで1割減,10keVで2割減です。その後は,うまく行った場合は7keV以下のユーザーは得をします。それより上のユーザーは10keVで2割弱の損です。
normaized intensity

変更の理由

BL-16Aの光学系は,上流から次のようになっています。

挿入光源-グラファイトのアブソーバー(0.1mmを二枚)-コリメーティングミラー-モノクロ-ミラー-ハッチ

このアブソーバーを入れている理由は,下流側の光学素子を熱負荷から守るためです。ビームライン建設当初は高エネルギー側に狙いをつけていました。つまり,低エネルギーX線は熱負荷を光学素子にかけるだけで,邪魔である,という扱いでした。そのため,グラファイトを入れて低エネルギーX線をカットし,ギャップを狭くして高エネルギーのX線を取り出せるようにした,という経緯があります。
さて,PFは以前は2.5GeV-300mA運転でしたが,近頃では2.5GeV-450mA運転です。そのため,光学素子にかかる熱負荷も増大しました。アブソーバーも水冷していますが,300mAでは耐えられたアブソーバーが,450mA運転では1年でぼろぼろになってしまう,という事がわかりました。毎年新しいのを使えば良さそうですが,グラファイトがある位置はVUVの真空層と直結しており,グラファイトが痛む事がVUV側の真空悪化に繋がっています。そこで,出てくる元のX線を弱くしよう,という事になりました。

対策

近頃は低エネルギー側のユーザーが多いので,高エネルギーを捨てて熱負荷を下げる,という方針にしました。
そのため,挿入光源のギャップを開き,アブソーバーを2枚から1枚に変える,という手が最も良いだろう,という事になりました。挿入光源のギャップを開くと,高エネルギーX線の量は減りますが,低エネルギー側はあまり影響を受けません。
ギャップの値は,19mmで300mAの時にはアブソーバーにダメージが無かったので,X線の全エネルギーがこの時と同じになるようにギャップを決めました。

予定

2002年10月から1年間,アブソーバーはそのまま,ギャップだけ19mmから25mmに開いて様子を見る

この段階で問題が生じていなければ,アブソーバーを半分にする。

という予定で作業を進めます。熱負荷に長期的に物が耐えられるかどうか,という話なので,ややタイムスケールが長いですが,ご了承ください。

参考までに...

BL-16Aでは,1eVの幅のX線を取り出してみると,計算上10^13(photons/s)以上モノクロに降り注いでいることになります。Siの反射率は,平行ビームに対しては意外と良くて1/3以上は反射します(アナライザーとしてSiを使ったとき,サンプルが良い結晶だとこのくらい反射する,という経験から)ので,どんなに控えめに見ても10^12以上のフォトンがサンプルに降り注いでいます。あちこちの数字を非常に控えめにしているので,もう一桁くらいあると思います。

高エネルギー加速器研究機構
放射光実験施設
当ステーションのPFスタッフ