1.試料ホルダーを超高真空槽に取りつける前に必要な作業
(1)シリコンホルダーのモリブデンM2ビスが緩んでいないことを
セラミックマイナスドライバーで確認する
(ビスを強く締め付けすぎるとシリコン単結晶が破損するので注意。)
(2)シリコン通電加熱用配線がしっかり固定されているかどうかを
セラミックピンセットで確認する。
(シリコンホルダーとタンタル線のスポット熔接部やタンタル線と銅線を
銅パイプでかしめた部分が取れやすいので注意。)
(3)試料電流測定用配線を使用する場合はしっかりついていることを
セラミックピンセットで確認する。
(現在はシリコン通電加熱用配線で試料電流測定を
代用していると思いますのでこの作業は不要です。)
(4)室温での実験ならば熱電対は接続しなくてよい。
(5)各配線が電流導入まできちんと接続され、かつアースと絶縁されて
いることを確認する。(シリコン単結晶と試料ホルダーを直接テスター
で触れてはならない。シリコン単結晶と試料ホルダーがニッケルで
汚染されると清浄表面は得られない。)
(6)シリコン単結晶の上下に取りつけた電極間の抵抗を確認しておく。
シリコンは半導体なので室温では数kΩのはずである。
2.ベーキング前、ベーキング中に必要な作業
(1) TMPのみの排気により真空度が10^-8Torr台の真空に入ることを
確認する。
(2)シリコン通電加熱用の配線を行なう。電源としては菊水の
電源(正面から見ると正方形をしている電源、架台の
ところにおいてある)と七星の2ピンコネクターのついた
平行ケーブルを用いる。試料ホルダーの他の配線
(熱電対、試料電流、もしあれば)とコインシデンスアナライザーの
配線は外してあることを確認する。サンプルホールダーを
上にあげ(Z=500くらい、蒸発したSiO2などがアナライザー
に付着することを防ぐため)、試料ホルダーついている
ICF70のフランジは浮いているのでアースにつなぐこと
(差動排気型回転導入のところで絶縁されている)。
(3) 菊水の電源は正面パネルの電圧設定を最大値(80V)、
電流設定を最小値(0A)にしたうえで右上のアウトプット
スイッチを押し、電流設定値を0.1Aに上げる。最初は
(80V/シリコンの抵抗値)に相当する電流が流れる
はずである(抵抗値が1kΩなら80Vで0.08A、6.4Wである)。
その後、シリコン温度が通電加熱により200C程度にあがると
キャリアが増えて急速に抵抗が落ちて電圧が低下し、
電流が増大する。このときシリコン表面に吸着していた
分子が脱離するので一時的に真空が悪くなるが、
すぐに回復するはずである。真空度は記録しておく。
(4)0.2〜0.3Aの電流が流すとサンプル温度は600Cくらい
まで上昇し、シリコンがうっすら赤くなるのが見える。
このときシリコンの温度は約600Cである。SiO2は
蒸発しないがシリコンホルダーからガスが放出されるので
真空度は一時的に悪くなる。電圧値、電流値、真空度は
記録しておく。数分で真空度は回復するはずである。
(5)ベーキングは超高真空槽全体を均一に130〜150℃に保ち
24時間以上行なう。ベーキング中はシリコンに0.2〜0.3Aの
電流を流しつづけ、シリコンホルダーを十分枯らしておく。
シリコン表面はSiO2で覆われているので、汚染されることはない。
(6)ベーキング中はチタンサブリメーションポンプのフィラメントにも
蒸発モードでの最小電流(33A程度)を常時通電し、
フィラメントを枯らしておく。
3.ベーキング後に必要な作業
(1)ベーキング後にはシリコンの加熱も止める。
(2)チタンサブリメーションポンプのフィラメントは
ベーキング停止1時間前、停止直後、停止後
1時間、停止後2時間、停止後半日のそれぞれで
44〜45A、1〜1.5分間蒸発させる。
(3)真空度が1×10-8Torrに入ったらイオンポンプを
作動させる。真空度は1時間おきに記録する。
真空度の悪いところでイオンポンプを作動させると
排気性能が落ちるので注意する。
4.シリコンの清浄化の作業
(1)超高真空槽が室温に戻り、超高真空(1〜2×10-10)
に入ったら、シリコン表面の清浄化を行なうこと
ができる。真空度が悪い場合は清浄化してもすぐに
残留ガスで汚染されるので清浄化してはならない。
また、排気能力を増やすためにシリコン清浄化の
1時間くらい前にチタンサブリメーションポンプを
44〜45A、1〜1.5分間蒸発させておく。
(2)2-(2)と同様にシリコン加熱の準備を行なう。
(3)菊水の電源でシリコンに通電し、0.3Aまで達したら
通電を止める。この作業はベーク後の冷却時間に
シリコン表面およびシリコンホルダーに吸着したガスを
放出させるために行なう。
(4)2B1にはシリコン通電加熱用電源として、菊水の電源と
ラックに取り付けられている高砂の黒い電源がある。
高砂の黒い電源の後ろの外部端子1-2,3-4,6-7,10-11,
12-13はショートしておかねばならない。12-13は本来は
分光器のパソコンで加熱の制御に用いられているが、
断線があるのでジャンパーでショートしておく。菊水の電源
は5.6A程度の電流しか出力できないため、シリコンを900C
くらいまでしか加熱できない。高砂の黒い電源は10A以上の
電流を取り出せるが、電圧が低いので、シリコンが室温の
場合には通電できない。このため、1100Cまで加熱してSiO2
を蒸発させる場合は、まず菊水の電源で5.6Aまで加熱し
たのちに電源を切り、直ちにコネクターを高砂の黒い電源に
切り替え10Aまで急速に電流を上げる。10Aで1秒保ったのち、
6Aまで5〜10秒かけて下げ、次いで電流をゼロにする。このとき
真空度が1×10-9Torrよりよければ合格である。
10A以上電流を流すと配線が切れやすい。また、10Aで1秒
以上通電すると試料ホルダーからの放出ガスが増大するので
注意する。また、10Aから6Aまで5〜10秒かけて下げる理由は
急激に冷却すると表面欠陥が増えるためである。試料温度が
800Cまで下がると急冷しても表面欠陥は増えないので0A
まで電流を下げてもよい。この一連の作業は熟練を用するので、
あらかじめ練習しておく。(高砂のズーム電源があれば
室温から1100℃まで加熱できる。PFでは1台購入した。)
(5)シリコン清浄表面を作製し、試料が室温に戻ったら試料ガスを
吸着させる。室温に戻っていないと試料ガスが熱分解するので
注意が必要である。一方、室温に戻りしだい試料ガスを吸着させ
ないとH2Oなどの残留ガスがシリコン清浄表面に吸着するので
注意が必要である。H2Oなど残留ガスの吸着をゼロにするのは
困難であるが、操作に熟練すると吸着量を少なくできる。
(6)シリコン清浄表面に残留炭化水素が吸着し、表面にSiCが
形成されるとSiCを通電加熱で蒸発させることはできない。
SiCが形成されてしまったらシリコン試料を新品に交換する
必要がある。