*****BL-2B1コインシデンス測定マニュアル ver. 2、2001年3月2日*****

1.実験や作業を行なうときにとくに気をつけるべきこと。

  (1) 実験を行なう前にマニュアルとUVSOR施設ハンドブックをよく読んでおく。

  (2) 疲労して注意力、判断力が低下しているときには慣れない作業や実験を
    してはならない。過去のトラブルの多くはこのような状況下で発生している。
    夜遅くの実験をしてはならない。あわてて実験してはならない。

  (3) 経験がなく、マニュアルにも記載されていない作業を行なう場合はビーム
    ライン担当者に事前に相談する。

  (4) 事故などが起きたときは直ちにビームライン担当者に連絡する。

  (5) 500 l/minのターボポンプが稼働しているときにチャンバーを揺らしては
    ならない。ターボポンプが故障する。特にアングルバルブの開閉や試料位置
    の調整を行なう際は気をつけること。これまでこの種の事故で数回ターボ
    ポンプが故障している。

  (6) サンプルシリンダーを交換するときには、バリアブルリークバルブが閉じて
    いることと配管内に有毒ガスが残っていないことを必ず確認する。バリアブル
    リークバルブが開いているとターボポンプが故障したり真空ゲージのフィラ
    メントが切れるので注意。これまでこの種の事故で数回真空ゲージのフィラ
    メントが切れている。

  (7) 測定チャンバー内の圧力が高いにもかかわらず、光入射のバルブを開けては
    ならない。測定は、10-9Torr台以下で行わねばならない。
    1×10-8Torrよりも真空が悪くなるとインターロックが働いて測定チャンバー
    と分光器の間の圧空バルブが閉まる。

  (8) シリコン単結晶などのサンプルにゼロ次光を直接あててはならない。
    サンプル表面が破損したり汚染されたりする。

  (9) ピコアンメータのケーブルを試料電流導入に接続したまま、サンプルの
    フラシュや加熱を行なってはならない。ピコアンメータの入力に大電流が
    流れてピコアンメータが破損する。

  (10) 光入射バルブを開けたまま、ガス導入、フラッシュ、加熱を行なっては
    ならない。操作ミスにより分光器へガスないし、空気が流入する危険がある。

  (11) チャンネルトロンやMCPに高電圧をかけたまま、ゼロ次光を直接
    チャンバーに入れたり、サンプル付け、フラッシュ、加熱を行なっては
    ならない。大量の電子やイオンがMCPに入射してMCPが破損する恐れがある。

  (12) メインチャンバーやCMAの真空内に入る部分を触るときには、手をよく
    洗ったうえできれいな手袋をはめて作業すること。オイルなどが真空槽内
    に付着すると真空度が悪くなり、後の実験に支障が出る。また、その時には
    室内に埃が舞うような作業をしてはならない。

  (13) MCPに高電圧をかけたまま、窓付きバルブを開けた状態のゼロ次光を
    チャンバーに入れたり、サンプル付け、フラッシュ、加熱を行なっては
    ならない。大量の電子やイオンがMCPに入射してMCPが破損する恐れがある。

  (14) フラッシュ、加熱を行なう際には、サンプルは上に上げておくこと(Z=約500)。
    試料から蒸発する物質によってCMAが汚染されることを防ぐ。

  (15) サンプルフラッシュは、10-9Torr台以下で行わねばならない。

  (16) 液体ヘリウムの実験時は、ヘリウム純度が下がらないようによく注意すること。

  (17) 液体窒素でサンプルを冷却しているときに、液体窒素がなくなると、
    メインチャンバーの圧力が上昇するので、注意すること。液体窒素は、
    おおよそ30分ごとに補充する必要がある。ロートの霜が無くなってきたら
    補充の時期である。空気中の水分が氷結して液体窒素の通りが悪くなると、
    サンプルが冷えなくなりメインチャンバーの圧力が増加するので、ロート
    にはビニール袋をかぶせること。

  (18) MCPの高電圧は、押しボタンを押して赤いランプが点いてから徐々に電圧を
    上げる。下げるときは、その逆。高電圧を急に印加すると放電することがある。

  (19) VCR継手を締めるときはガスケットの種類をよく確かめて、必要なぶんだけ
    締める。316ステンレスorニッケルガスケットの場合、手締めから1/8回転。
    銅ガスケットの場合、手締めから1/4回転。締めすぎた場合、シールを形成する
    ビード部が傷ついて真空が保てなくなる恐れがある。アルミニウムガスケットは
    真空用ではないので使用してはならない。

  (20) サンプルホールダーを下におろすときはチャンバーの下の方から見てCMAなどと
    ぶつからないように注意すること。これまでこの種の事故でサンプルホールダーが
    破損している。

  (21) シグナルが弱いからといって安易にMCPの電圧を上げてはならない。現状では
    電子側が440(450でもよい),イオン側が750である。通常の使用方法ではこれ以上に
    電圧を上げなければならなくなることにはならない。平成12年度この種の電圧上昇
    をしたことによって修復に半年を要した。本当に電圧を上げねばならないときは
    CMA自体のバージョンアップの時である。そのような場合は間瀬さんに
    相談すること。

  (22) ロータリーポンプにアイソレーションバルブとフォアライントラップを必ず
    付けねばならない。

 

2.CMA、TOF、サンプルカレント、メッシュカレントの結線

(1) チェンバーの温度が十分下がってから結線すること。結線の前に地落していないか、
  線同士が接触していないかをテスターでチェックすること。

(2) シグナルにつなぐシールド線にはプリアンプがついている。
  CMAシグナル−CMAシグナルの箱−箱のSEMコレクタ−CMAコントローラのSEMコレクタ、
  CMAシグナルの箱のシグナル−プリアンプ−ディスクリ、
  CMAMCPin−箱のSEMin−CMAコントローラのSEMin
  CMAMCPout−箱−CMAコントローラのSEMout、
  TOFMCPシグナル−プリアンプ−ディスクリ、
  TOFMCPin−箱のMCPin−CMAコントローラのMCPin、
  TOFMCPout−箱のMCPout−CMAコントローラのMCPout、
  TOF4ピン−箱−TOFコントローラ(A-TOFin、B-Drift)、
  CMA多ピン−CMA電源という箱−CMAコントローラのCMA外円筒、
  CMAコントローラのVb−パソコンのDAコンバーター、
  パソコンのGPIB−カウンター、
  パソコンのRS232C−分光器パソコンのRS232C、
  とつなぐ。つなぐ意味をよく理解しておくこと。
  シグナル線、高電圧線(MHV)、多ピン線の順で繋ぐとうまく繋がる。シグナル線は束ねると
  ノイズが入りやすくなる。全体を上の方からねじりっこでつるすこと。

(3) 光入射バルブの下流側にある入射光強度モニター用の金メッシュのBNCをKEITHKE
  Y-617に接続する。

(4) サンプルホールダー上部のミニコンについているサンプルカレント測定用の2
  ピン電流導入端子をKEITHKEY-617に接続する。ワニ口クリップのアース線をサンプル
  ホールダーにつなげて接地する。このミニコンの対面の電流導入端子を接地していた
  場合、サンプルの冷却を行うとサンプルがこの電流導入端子に接触するときがある。
  こうなるとサンプルカレントはショートして測定できなくなるので、この電流導入
  端子の接地をやめる。

 

3.サンプルの加熱やフラッシュ

(1) フラッシュとは、シリコン単結晶を瞬間的に加熱して表面の酸化シリコンなどを
  取り除く操作である。

(2) サンプルの加熱やフラッシュをする際には、トップフランジの結線をすべて取り、
  MCPなどの電源をすべて切って、サンプルホールダーを上に上げ(Z=500)、円筒形の
  端子(サンプルカレント測定と併用)に定電圧電源を繋ぐ。一番上のフランジは浮い
  ているのでアースにつなぐこと。

(3) サンプルのフラッシュや加熱をするときにアウトプットスイッチ(正面パネルの
  右上にある)を押すのを忘れないこと。1A流すとサンプルが赤くなるのが見えるが
  (600C)真空度は変わらないはず。

(4) けい素のフラッシュの際には、6-8Aで3秒程度行う。800Cぐらいになり、SiO2が
  飛ぶ。この時、圧力が10-8Torr台に入らないように注意する。完全なフラシュが可能
  なら、6Aにまで電圧を上げていったん下げ、7Aまで上げてまた下げ、10Aで2秒行うと
  よい(1000C程度)。しかし、SiCは飛ばない(飛ぶには1280C程度必要)。

(5)いくらフラッシュをしても、すぐに水が吸着してO:1s-H+コインシデンスなどが
  出るので注意。

(6)フラッシュ用の黒い電源の後ろの外部端子1-2,3-4,6-7,10-11,12-13はショート
  しておかねばならない。12-13は本来は分光器のパソコンで加熱の制御に用いられて
  いるが、断線があるのでジャンパーでショートしなければならない。

 

4.液体窒素による試料の冷却

(1) 室温から冷却する場合はMCPの高電圧を落とし、光入射バルブを閉じる。イオン
  ポンプが動作している場合はこれも止める。クライオスタットがすでに冷却されてお
  り、液体窒素を補充する場合はその必要はない。

(2) 真空度を記録。

(3) 漏斗をつけてクライオスタットに寒剤を注入し、しばらく待つ。液体窒素の場合
  15分ほどで基板が冷却される。クライオスタットは冷却されることにより熱収縮する
  ので、測定の際にはマニピュレータのz軸を少し下げる必要がある(Z=75ならば62程
  度)。

(4) 液体窒素でサンプルを冷却した実験後は、イオンポンプが切れていることを確認
  して、銅パイプをトップフランジから中に入れ、圧縮ポンプで空気を入れて液体窒素
  を追い出す。翌日イオンポンプを立ち上げてゲッターポンプをしばらく入れること。

(5) 冷却効果を上げるには、サファイア版を取り外す。その時は、サンプルカレント
  が計れない。しかし、ピコアンメーターはつけておかないとエラーが出る。端子を
  はずしておくとよい。その時、前置鏡の調整はメッシュカレントで、そのほかは光電
  子で行う。

(6) 液体窒素の実験の時はチャンバーの照明用のランプを切ると、液体窒素の保ちが
  よい。

(7) ケイ素用のシリコンホールダーについている熱電対の種類が整合しないので
  温度をラックに乗っているデジタル温度計で測ることはできない。目安として
  CKレンジで-20Cぐらいになれば冷えている。そうならない場合は、サンプル
  ホールダーのねじがゆるんでいて熱伝導が悪いと考えられる。

 

5.液体ヘリウムによる試料の冷却

(1) 壁のヘリウム回収管とヘリウムクライオスタットを直接繋ぐチューブのバルブは
  実験中は閉めること。

(2) 液体ヘリウム冷却システムの構成を以下に示す。
  ヘリウムデュワー---ヘリウムトランスファーチューブ---
  テフロン継手(サンプルロッド)---スエジロック継手---1/4インチ管---
  チューブ---流量計(下から上に流れること)---ダイヤフロムポンプ---
  チューブ---壁のボールバルブ---ヘリウム純度計---ヘリウム回収管

(3) チャンバーとクライオスタットは、トランスファーチューブで繋ぐ。このとき、
  トランスファーチューブのバルブがクライオスタット側になるように繋ぐ。まず、
  トランスファーチューブがチャンバーに刺さるかどうかを確認すること。流量計の
  接続は、太目のチューブで繋いだり、簡単なジョイントで繋いだりの簡易方法でよい。

(4) ヘリウムトランスファーチューブは、通常工具箱が置いてあるあたり(イオン銃
  の隣)、流量計はプレパレーションチャンバーの上、ダイヤフロムはプレパレーション
  チャンバーの台の上(通路と反対側のスペース)に置く。トランスファーチューブを
  クライオスタットに突っ込むときは、トランスファーチューブのバルブを半回転ほど
  開け、トランスファーチューブを少し上の方に固定して、ヘリウムで管の中を置換
  してから(壁のヘリウム純度が98%くらいになってから)、トランスファーチューブの
  先端を液体ヘリウムにつける。そうしないと窒素などがトランスファーチューブに
  詰まるので注意。なお、トランスファーチューブのバルブは3回転以上回しては
  ならない。回すとはずれてしまってダダ漏れになる。

(5) 実験中のトランスファーチューブのネジの目盛りは、山が2個見える程度、流量
  計の目盛りは5.5-6とする。トランスファーチューブでチャンバーにストレスがかか
  っているので、光軸は再調整が必要である。サンプルロッドは縮んでいるので、下目
  にする(Zが小さい)。

(6) 昼食時などは、ダイヤフロムの流量を1ぐらいにしておくと、融点によっては
  サンプルが蒸発することがある。

(7)実験が終了したら、トランスファーチューブのバルブを閉め、流量計のバルブを閉め、
  ダイヤフロムを止め、クライオスタットに刺さっているトランスファーチューブを少し
  上に上げて液体ヘリウムから離し、ゴムチューブの切れ端を付け、ねじりっ子で括って
  下に落ちないように固定する。ヘリウムクライオスタットの安全弁に繋がるバルブを
  開ける。ダイヤフロムと壁のヘリウム回収管を結ぶボールバルブは閉める。壁の
  ヘリウム回収管とヘリウムクライオスタットを直接繋ぐチューブのバルブは実験中は
  閉めたままにしておくこと。こうするとチャンバー内部などが加圧になり、水などが
  侵入しない。

 

6. 測定用プログラムの起動

(1) 分光器のパソコンでGRAPHキーを押して“ファイル”メニューを開く。“開く”
  を選択し、TABキーでメニューを変更する。ここでRSHOST.BASを選択してRSHOST.BA
  Sを起動する。分光器パソコンの画面に、RS232C...という文字が出ればこのプログラ
  ムにより測定用のパソコンで装置を制御することができる。

(2) 測定用のパソコンのクイックベーシックを起動する。

(3) 測定用プログラムを読み込む。GRAPHキーとTABキーで必要なプログラムを選択
  する。電子・イオン収量スペクトル→TISEYS.BAS、電子分光スペクトル→SRAES2.BAS
  、コインシデンススペクトル→SRTOF-3.BAS。選択後リターン。F5でRUN。

(4) 立ち上げた後、分光器やサンプル位置などのデータを入力し、いったん終了し
  てセーブしてから測定を開始する。パラメータ入力などの画面でパラメータを変更す
  るときは、まずカーソルキーをそのパラメータの上に持っていってリターンし、色が
  反転したところで、シフトキーとリターン機を同時に押し、該当個所を変更する。全
  面的に最初から入力するときは、最初にリターンした後に入力すれば、全部変更にな
  る。新しいパソコンでは実行の段階で立ち上がりに1分ほどかかる。
  グラフの表示でX,Yの最大値の入力のときには、表示したい実際の最大値よりも
  少し小さい値を入力すると、ちょうど考えていた範囲で表示してくれる。実際の
  最大値通りを入力すると、それよりも少し広い範囲を表示する。

 

7.コインシデンス測定のための調整

(1) 光軸の調整、サンプルの導入が終わった段階で「5.測定用プログラムの起動」
  に従い分光器のパソコンでRSHOST.BASを起動して、測定用のパソコンで装置を制
  御する。

(2) 測定用パソコンでSRAES2.BAS(もしくはTISEYS.BAS)を立ち上げてシグナルを
  得やすいように入射光強度の大きいエネルギーに分光器を設定する。(あらかじめ脱
  離効率の大きいことが分かっている励起波長が分かっている場合はそこに設定するの
  も有効)

(3) 測定用パソコンでSRTOF-3.BASをたち上げて、“CMAをマニュアルセットしてシ
  グナルをモニターする”を選択する。

(4) 光電子強度とイオン強度をモニターしながら、サンプルのX軸とY軸を調整する。
  この時光電子強度とイオン強度の積が同時に表示されるのでこれを一つの指標とす
  るのがよい。

(5) 調整後このモードを終了して“測定開始”を選択する。最もシグナル強度が大
  きくなるであろう運動エネルギーでのコインシデンススペクトルを測定するように
  設定する。PEPICO測定の場合コインシデンスシグナルは大きいが、サンプルの
  チャージアップによって光電子ピークの運動エネルギーがシフトする場合があるので
  注意する。

(6) TOF-in、ドリフトの調整をする。また、MCPの高電圧によってもコインシデンス
  シグナルの検出効率は異なるが、放電により壊れる恐れがあるので調整には注意する
  こと。どれか一つのパラメーターを変化させながらコインシデンススペクトルを測定
  し、これにより調整の是非を判断する。これらの値は、パソコンに入力する。現状
  ではTof-in=-100V,ドリフト=-800V(これより大きくすると放電する)である。

(7) コインシデンススペクトルの結果SN比に問題がある場合は電子・イオンのディ
  スクリミネータにはいる信号をオシロスコープで見ながらディスクリレベルを再設定
  する。電子のほうのディスクリミネータはシグナルを10倍増幅するアンプの役割も持
  っているのでディスクリレベルはシグナルの10倍程度に設定すると丁度よい。

(8) 調整の最終的な判断はかならずコインシデンススペクトルによって行う。

(9) 特に初めてMCPを作動させるときはゆっくりとMCPのエージングを行うこと。

 

8.CMAの取り外し

(1) CMAフランジ面の横に4本の短い棒をつけ、取っ手を取り付ける。下側には2本
  取り付ける。

(2) 治具を用意してから、ボルトをゆるめて、はずす。10kgあるので、2人掛かりで
  行う。治具の上に置き、フランジの下につけた棒にネジ止めする。

(3) CMAをはずしたところに、フランジカバーをつける。

(4) CMAにポリ袋をかぶせ、台車で運ぶ。

(5) CMAのフランジ面の上下左右に4本の長い支柱を取り付ける。どちらかの取っ手の
  支柱をはずして、4本の長い支柱の長さが同じになるように伸ばす。CMAを上、フラン
  ジを下にして台の上に置く。カバーのネジを外して、カバーを外す。終わったら横向
  きに置き直す。

(6) CMAの内部において、シグナルはシールド線で配線されている。一般に右のもの
  は右に、左のものは左の端子に繋ぐように設計されている。

(7) 組み立てたら、端子がアースに落ちていないかテスターでチェックする。

(8) フランジに対してCMAが垂直になっていなければならないが、デジカメで撮影
  して大きな紙にプリントして確認する方法が便利である。

 

9.CMAスリットの交換

原則として交換しないが、交換する場合は以下のように行う。間瀬さんと相談して
から交換すること。

(1) CMAには高感度用スリット(分解能E/ΔE=約60)、高分解用スリット(分解能E
  /ΔE=約100)などがある。自分の実験の目的に合ったスリットを選択する。前のユ
  ーザーの用いたスリットを変更する場合は前の週の金曜日実験後に行うのが望ましい
  。スリットは実験棟の実験室においてある。

(2) CMAの取り外しにしたがってCMAを取り外す。

(3) CMAとTOFを覆っている磁気シールドを取り外す。磁気シールドはフランジを後、
  TOFの入口を前としたとき前側に3本のボルトで固定してある。超高真空用の部品な
  ので必ずきれいな手袋をして作業すること。

(4) スリットはCMAのMCPについているので、MCPを取り外す。MCPは下向きに置いて
  埃などが入らないようにする。

(5) MCPとスリットをはずし、新しいスリットを取り付ける。前に向かって右側にCMA、
  左側にTOFがある。スリットの開いている方向を右側(CMA側)にしてつけること。

(6) 磁気シールドを取り付ける。

 

10.MCP調整方法

(1)放電が無いことの確認
  オフラインでも確認可能。
  TOF_MCPからのシグナルを直接オシロで測定。
  電源からMCPin-out間に正常に電圧がかかることを確認。
  TOF_MCPの電圧(in-out間)を100Vステップで最大定格までゆっくり上げていく。
  最大定格(2stageの場合は2kV)まで上げてシグナルが無ければ大丈夫。
  真空度の悪化、シグナルの検出等があった場合はすぐに電圧を下げる。
  放電があると判断した場合(特に真空度の悪化)、時間をおいて再度確認を行う。
  CMA_MCPもTOF_MCPと同様に確認する。
  現状ではドリフトが-800Vよりも高い電圧を掛けると放電する。放電によって
  イオンが生じ、オシロで見ていると弱いながらもシグナルの波形が現れる。

(2)正常なシグナルがみられることの確認
  オンライン時に行う。(他の光源がある場合は別)
  TOF_MCPからのシグナルを直接オシロで測定。50mV,20ns程度のレンジがよい。
  TOF_MCPの電圧(in-out間)を100Vステップで最大定格までゆっくり上げていく。
  シグナルが検出できていれば大丈夫。
  シグナルが来ない場合は、電場条件(TOF-in、Drift電圧)等を確認する。
  リンギングが大きい場合には浜ホト技術資料p13図23のようにMCP-outとアースの
  できるだけ近いところに1000pF程度のコンデンサを接続しておくとリンギングを
  緩和できる。
  CMA_MCPもTOF_MCPと同様に確認する。

(3)クロストークがないことの確認
  オンライン時に行う。(他の光源がある場合は別)
  TOF_MCPからのシグナルを直接オシロで測定。
  CMA_MCPの電圧(in-out間)を100Vステップでシグナルの検出できる電圧まで上げる。
  この間、TOF_MCPのシグナルに変化が無ければ大丈夫。
  真空外の配線を見直してみても改善が無ければ真空内でクロストークが起こっている。
  この場合、クロストークによるシグナルが真のシグナルに比べて無視できる大きさ
  (1/3以下)でない限り、装置を取り出す必要がある。
  CMA_MCPもTOF_MCPと同様に確認する。

(4)シグナルとリンギングの比
  シグナルとリンギングノイズの比は、もちろん小さい方がよいが、シグナルが一番
  大きいリンギングに比べて3倍以上あれば大丈夫。

(5)ディスクリレベルの設定
  ディスクリレベルはシグナルとリンギングノイズの中間をカットするように設定する。
  具体的には、プリアンプ後のシグナルとリンギングノイズがそれぞれ15mV,5mVの時、
  10mVにディスクリレベルを設定する。
  リンギングノイズがきちんと切れてないと、シグナル1カウントに対して(数〜
  十数nsずつ遅れて)数カウントするので、特にイオンではピークが分かれたり、
  ブロードになることが予想できる。
  電子のほうのディスクリミネータはシグナルを10倍増幅するアンプの役割も持
  っているのでディスクリレベルはシグナルの10倍程度に設定すると丁度よい。
  現状では電子のディスクリが-226mV、イオンが-35mVである。

(6)ノイズが無いことの確認
  入射光をきってみて、イオン・電子ともカウントが〜0であることを確認。
  数カウントある場合は、真空計等のゲージが影響してないか確認。

 

11.その他の注意

(1) サンプルホールダーの回転機構より上はテフロンでチェンバーと絶縁されている
  ので鰐口クリップ線で下と繋げること。さもないと、チャージアップして光電子
  スペクトルがブロードになる。

(2) 光電子スペクトル測定時の光エネルギーは、(a)引き込み電圧に妨害されない範
  囲、(b)放射光が強いこと、(c)凝縮層の場合は2層目以下の光電子の影響を除くため
  に平均自由行程が短いこと、(d)炭素の内殻を励起する位置でないことを基準に選ぶ。

(3) コインシデンス測定時のイオンカウント数と電子カウント数の積は10+8以下に
  調整すること。多すぎるときは、後置鏡の前のアパーチャーで光を削ること。

(4) コインシデンスの際の1サイクル1点の測定時間は、128-256秒および384秒より
  も長くしてはならない。Real time, Live timeがマイナスからカウントしてしまう。

(5) BL2Aのメカニカルブースターが動いているときには、前置鏡の調整をたびたび
  しなければならない。

(6) コインシデンスの暴走の際には、MCSのリセット(RST)を押すが、データはすべ
  てクリヤーされるので注意すること。

(7) イオン側高電圧をかけたときに、電子カウントが増加をすると放電している可
  能性がある。この時MCP電圧とともにイオンカウントが増えなければMCP内部の問題で
  はない。

(8) 後置鏡とメインチャンバー間のバルブは窓付きである。

(9)オシロでシグナルを直接見てトリガーレベル(これ以上はシグナルというところ)
  の十倍の値をディスクリにするとちょうどいい。

(10)サンプルを冷却すると、ロッドが縮むので、Zの値は小さくしなければならな
   い(95 なら 75)。

(11) 真空計は個々に値が異なり、1桁ぐらいは変わることがある。一般に日本製は、
   高めに出る。何もないときの真空(ベースプレッシャー、到達真空度)は、
   2x10-10Torr未満であることが望ましい。

(12) サンプルを冷却するときの温度は、定かでないが、液体窒素で90+-10K、液体
   ヘリウムで50+-5Kであろう。

(13) 光電子は、表面数層から出てくるが、イオンは上の1層からしか出てこないこ
   とに注意。光電子は光反応に関してあまり敏感でない。平均自由行程はエネルギーに
   よって異なるので、例えばC:1sとSi:2pとでコインシデンスレートを比べるのは
   難しい。100eV前後の電子運動エネルギーにおいて平均自由行程は最小になる。

(14) 週初めの実験時には吸着ガスが放出されるため、よくインターロックがかかって
   光入射バルブが閉まるので注意すること。

(15) サンプル電流のチャンバーの端子付近はアルミホイルでよく包むこと(ノイズ
   を避けるため)。

(16) サンプルを液体窒素で冷やすときには、氷によって液体窒素の流れ道が詰ま
   らないように、ビニール袋で漏斗を包むこと。詰まったときは、加熱用銅パイプを差
   し入れて、ヒーターで加熱する。

(17) 実験時にもっとも適した電圧、ゼロ次光の分光器目盛りの値などは、シールに
   書いて貼ってある。

(18) 実験中にパルスドライバーのスイッチのon・offを行うと、ノイズが入る。

(19) 分光器側のパソコンが止まっていることがあるので注意。その場合は、もう
   一度runする。

(20) 日付をファイル名にしているので、日付が変わったら、ファイル名の日付の
   部分をかえるのを忘れないように。

(21) CMA分解能は約100、分光器の分解能は1eV以内であるので、光電子スペクトル
   のピークがそれの程度になっていなければ、どこかに間違いがある。

(22) イオン収量曲線の測定では、イオンカウントや電子カウントをサンプル電流
   で割ると、共鳴ピークが明瞭に出てくることが多い。メッシュ電流はサンプル位置で
   の光強度を必ずしも正しく反映しているわけではない。

(23) 共鳴オージェを測定するときには、2eVづつ光エネルギーを変えながら光電子
   スペクトルを測定する。光電子スペクトルは、2eVづつシフトするが、共鳴オージェ
   は動かない。基板についても同様の実験を行い、差スペクトルが収率スペクトルのピ
   ーク付近で増大することを確認する。

(24) イオン収率スペクトルが、電子収率などの共鳴ピークと同じところににピー
   クを持てば、AEPICOが観測可能であるが、ないとコインシデンスも絶望的である。

(25) AEPICOの測定の際に、光エネルギーがピークからずれるとコインシデンスが
   出なくなる。毎回収量スペクトルで、ピークに光エネルギーがきているかを確認する
   必要がある。

(26) データをセーブするディスクは残り容量をよく把握し、半分ほど使った段階
   で次のディスクを用いる方がよい。AEPICOのマッピングを行った場合、測定終了後デ
   ィスクに自動的にセーブされる。このとき容量が足りないと「ディスクがいっぱいで
   す」のエラーメッセージが出て、残りのデータをセーブできなくなる。ディスクフル
   でプログラムが止まっているときは、書き込みの途中なので単にディスクを取り
   替えただけではだめである。そこでF6でダイレクトモードとし、アクティブな
   ウィンドウを一番下のウィンドウとする。close #1リターン、ディスク交換、
   open #1リターン、F5とする。後は二つのファイルをエディタか何かで読み込んで
   カットアンドペーストで繋げる。

(27) 光電子スペクトルで光電子のピークが測定ごとにシフトする場合はチャー
   ジアップが生じている可能性が大きい。このときはサンプルカレント測定を止めて、
   シグナルをワニ口クリップで接地する。

(28) グラフの表示でX,Yの最大値の入力のときには、表示したい実際の最大値より
   も少し小さい値を入力すると、ちょうど考えていた範囲で表示してくれる。実際の最
   大値通りを入力すると、それよりも少し広い範囲を表示する。

(29) H2O以外のサンプルでAEPICO測定に再現性がない場合はサンプル表面がH2Oで
   覆われている可能性がある。その場合は電子・イオン収率スペクトルを広い範囲で測
   定し、酸素のK端前後でのイオン収量をみて調べる。

(30) 装置周辺や作業台上は常に整理整頓しておく。作業の邪魔にならないように
   ケーブルなどは束ねておく。ただし、シグナル線は束ねるとノイズが乗る場合がある
   ので注意する。

(31) 実験後は原則としてごみなどを捨て装置周辺や作業台上を整理整頓する。

(32) 緑の部分は通路なので椅子や机が邪魔にならないよう注意する。

(33)サンプルホールダーのねじをぎゅっと締めると銅のねじ山をつぶすので注意
   すること。

(34)パルスバルブは漏れることがある。その場合はビームライン担当に申し出て
   パッキンを交換すること。

(35)分光器のパソコンにおいて「Reading Statusしばらくお待ちください」
   という状態が長く続くときはGPIBにつながっている何かが故障で暴走している。

(36)分光器室のイオンポンプは故障気味である。コントローラーの後ろのレンジを
   変えてオンしてから後ろのレンジを元に戻すとスムーズに動く。