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Q&A
 講義@XAFSの基礎理論(弘前大学 宮永崇史教授)

Q1. p44の左のグラフのyはなんでしょうか?

A1:y=N(In-In)/(N(In-Ga)+N(In-In))の値で、In原子が集まっている割合を意味します。ただし、Nは配位数。

Q 2. 配位数はXANESでも分かるそうだが、その原理がよく分からない。XANESとEXAFSで同じ配位数になるのか?異なった場合はどちらが正しいのか?

A2:XANESから配位数を求める方法は2つあります。一つは、近接原子の対称性がある程度予測される場合は標準物質とXANESが似ているかどうかで見当がつきます。(たとえばP13)もう一つは、エッジより低エネルギー側は空軌道への遷移に帰属されますが、やや高エネルギー側は光電子の平均自由行程が長いために(約20Å)、多重散乱を起こす過程です。すると、周囲の原子による多重散乱過程の遷移確率を計算することによって、XANESスペクトルを理論的に再現することができます。講義で紹介したFEFFプログラムにもそのコードがついています。スペクトルから一義的に配位数は求まりませんが、ある構造を仮定してXANES構造を再現する配位構造を決めることは可能です。EXAFSから求めた配位数には20%程度の誤差があると言われています。従って、EXAFSの解析から5配位と出た時、本当は4、5、6のいずれか決定することは容易でありませんが、X線吸収原子周りの対称性を反映したXANESを併用することで、配位数を決定出来ることがあります。

Q3. Cr(III)とCr(IV)のXAFS測定において、4配位だと空準位軌道への遷移による吸収は見えるが、6配位だと見えないということをおっしゃっていたように思いますが、それは何故ですか?

A3:これは量子力学的な1s軌道から3d軌道への遷移に対応します。このような電気双極子に対応した遷移は、対称性の高いOh対称性では禁制遷移となります(詳しくは量子力学の教科書をご覧ください)。配位子がOhから外れる(対称性が低下する)と、ピークが現れてきます(同様の現象はTiなどの3d遷移金属のK吸収端でも見ることができます)。

Q4. XAFSのプローブは電子と頂いた位試料の6ページめに書いてあるが、プローブとは何のことですか?場所を探したりするのでしょうか?

A4:これは私の造語のようなところもあって、皆様にはご迷惑をおかけしました。電子といっても、光電子の波動関数が周辺の原子に散乱されて干渉を起こしますので、電子が走りまわって周囲の構造の情報を集めてくるという意味でプローブと呼びました。誤解を与えたかも知れません。

Q5. Μsとは何のことですか?μs=μpre+μpostとはどういうことですか?(資料p22)

A5:まず、すみません、μs=μpre+μ0 の間違いでした。μpreは注目している吸収端(P22の場合はFe-K)以下のエネルギーで励起できる全束縛電子(Feおよびそのほかの物質)による吸収量です。それに、Fe-Kによる吸収量μ0を加えたものがμpostです。

Q6. XANESは構造に敏感と書いてあるが、配位数や距離といった構造はEXAFSから求められるのではないか?構造に敏感とはどういう意味か?(資料p20)

A6:A2と関連しますが、エネルギーの低い光電子は平均自由行程が長い(約20Å)ので、何回も周囲の原子に散乱した結果干渉を起こします。これを多重散乱と呼びますが、多重散乱による遷移確率を計算することによってXANESスペクトルを再現できます。したがって、XANESから一義的に距離や配位数の情報を得ることは難しいですが、ある程度モデルが予測できれば候補の構造の多重散乱計算を行って、スペクトルと比較することにより構造を決めることができます。FEFFにはそのコードがついています。

Q 7. 酸化物の場合、金属元素の隣の元素は酸素になりますが、隣接元素の情報は酸素のものしか分からないですか?金属元素同士の情報は分かりますか?酸化物固溶体の場合、例えばCeO2とZrO2の場合、Ceの周りにはCeが多いとかZrが多いとか分かりますか?

A7:酸素以外のものもわかります。特に、原子番号の大きな原子の散乱能は大きいですので、金属元素同士の情報ははっきりわかります。ただし、結合が遠すぎると難しくなります。Ce-O-CeとCe-O-ZrのCe、Zrがフーリエ変換の結果個別のピークとなるかどうかは即断出来ませんが、定量的な解析を行うことで、それぞれの構造情報を求められます。一般的にはCeの周りのCeとZrの量はEXAFSの研究に適しています。

Q8. EXAFSは1次元情報が分かると書いてありますが、どの方向の1次元ですか?ビームに対して垂直方向?何故1次元情報しか分からないのか?何故XANESは3次元情報が分かるのか?

A8:非偏光のX線を用いたり配向性のない試料を測定した場合、EXAFSではX線散乱実験における動径分布関数に類似した情報(ある距離にどれくらいの原子が存在するかの分布)が得られます。粉末試料など試料に配向性がない場合は、同心円的な1次元情報になります。偏光したX線を用い、薄膜や単結晶、吸着分子のように配向している試料を測定した場合は、X線の吸収確率は結合方向と偏光ベクトルのなす角θの関数(∝cosθ^2)となり、試料の方位を変えることで結合方向に関する情報を得ることが出来ます。

EXAFSから1次元情報しか得られない理由は光電子の平均自由行程によります。EXAFS領域のエネルギーの平均自由行程はさほど長くはなく(約10Å以下程度)で、ほぼ通常の配位状態では1回しか散乱しません。したがって、たとえ光電子が3次元空間に広がっても、1個の光電子の散乱から得られる情報は同心円状の1次元(この場合はr方向ですが)ということになります。XANESが3次元構造を反映することは、上記A2およびA6参照ください。

Q9. Photon FactoryのXAFS測定と市販(リガク等の製品)で測定したデータはどの点が違うのか?(Photon Factoryが必要となるのは、どのような分析サンプル)

A9:標準的な試料(金属ホイルや酸化物)であれば、実験室装置でも時間をかければPFに匹敵するデータがとれると思います。ただし、極端に希薄な試料や薄膜などの試料は入射X線強度の大きいPFなどの放射光施設が有利になります。特に蛍光法を用いる時は使えるX線の強度が重要になります。また、XANESの議論をする時に測定装置のエネルギー分解能が重要となり、その点でも放射光の方が有利です。

Q10. ヘテロポリ酸の測定をしたことがあるということを伺ったので、その知見を聞きたいです。

A10:ヘテロポリ酸のEXAFSでは最近接の酸素原子および骨格の金属―金属結合が見えます。面白いことは、Mo6O19のような対称性の高いホモポリ酸やある種のヘテロポリ酸では、金属−金属結合がはっきり見えるのに、Mo-O結合距離のばらつきが大きく、Mo-O距離がEXAFSでは見えにくいという結果が得られています。

Q11. XANES(~50eV以下)、EXAFS領域の境界線での解析において、生ピークでの振動が無い場合、本当にEXAFS領域の情報はないのでしょうか?

A11:実際にスペクトルを見てみないと正確なことはわかりませんが、XANESとEXAFS領域でたまたま振動が打ち消しあっていることもありますので、やはり最後までEXAFSを測定してみなければ何とも言えないでしょう。

Q12. XANES領域の解析は、標準試料がないとだめか?(シミュレーション解析できるのか?)

A12:XANES領域は空軌道への遷移という考え方と、多重散乱という考え方の2通りが可能です。それぞれの計算方法でシミュレーション計算が可能です。後者の多重散乱計算はFEFFプログラムで計算可能です。

 講義AXAFS実験の基礎(KEK-PF 仁谷浩明助教)

Q 1.測定直前に試料表面をスパッタできれいにすることは可能でしょうか?

A1.実験ハッチ内にX線が透過できる窓を設けた(真空)チャンバー+スパッタ装置の組み合わせで対応可能と思われますが、汎用的に利用可能なものは現在PFにありません。事前に相談していただければ設計・製作等お手伝いできるかと思います。

Q2.もう少し軽元素の方をXAFSで行いたい場合、どうしたらよいでしょうか?

A2.およそ4 keV以下のエネルギーのX線は空気中で大きく減衰してしまうため、測定には一工夫必要です。PF BL-9Aでは光源から実験ハッチまでを真空、実験ハッチ内の電離箱と試料槽をHe雰囲気にすることで大気圧下でPまでの軽元素が測定できるセットアップを組めます。しかし、これ以下のエネルギー領域においてはHe雰囲気でもX線の減衰が大きく、Be窓の吸収も無視できません。そこで、光源から試料槽まですべてを真空で接続したシステムが必要になります。(ただし薄いカプトン膜や短いHeパスであれば透過可能です。)PFではこのような低エネルギー(軟X線)領域でのXAFS測定が可能な汎用ステーションとしてBL-11A(70-1900 eV)およびBL-11B(1760-3910 eV)が利用可能です。

http://pfwww.kek.jp/sxspec/sx/bl11a.html
http://pfwww.kek.jp/sxspec/sx/bl11b.html
真空下でも問題のない試料は比較的簡単に測定できると思われます。ただし、試料をX線が透過できることはまれなので、測定は透過法ではなく、電子収量法か蛍光収量法になる場合がほとんどです。真空中では都合が悪い試料では、試料の状態を維持しつつX線が照射できるシステムが構築できるかどうかを検討する必要があります。

Q3.試料の厚さについてはなんとなく分かりましたが、平面方向のサイズはどこまで小さいのが可でしょうか?また、平板でないと不可でしょうか? X線の径はどこまでしぼれるのか?

A3.ステーションにより若干異なりますがますが、硬X線XAFSステーションでは、集光ミラーにより試料位置において1 mm x 1 mmのサイズでX線が集光するようにしてあります。これより小さい面積に照射する場合はI0電離箱前に設置されているスリットによりX線を絞る(切り落とす)ことになります。スリットは手回し式のもので0.1 mm x 0.1 mm程度までは精度良く絞り込めます。ただしスリットに当たったX線は測定に使われないので単純に測定効率は落ちます 。(0.1x0.1だと1/100の強度になる。また、入射ビームには発散があるので、0.1mmまでスリットを絞っても、実際のビームはもう少し大きくなるため、0.5mm角以下は勧められません。強度を犠牲にして絞るなら、集光系の外せるBL-7Cでスリットで切る方法があります。)これ以下のサイズに絞り込む場合は専用の光学系を持ったビームラインを利用することをおすすめします。PFではBL-4AにおいてマイクロビームによるXAFS測定が行えます。

http://pfwww.kek.jp/users_info/station_spec/bl4/bl4a.html
Kirkpatrick-Baez型集光光学系が装備されており、5ミクロン角程度まで絞り込むことができます。 逆に広いビームが必要な場合は上流の集光ミラーを外す必要がありますが、通常は行っていません。 試料は理想的には平板ですが、測定範囲付近の厚みが均一でさえあればその他の(X線が当たらない)部分の形状は問いません。どこにも厚みが均一な部分がない試料の場合は透過法以外の手法が適応できないか検討が必要と思われます。

Q4.全反射の場合は表面はどれくらいの厚さが測定できるのか?

A4.全反射条件でのXAFS測定の場合、物質内部に進行するX線は表面から数nmと言われていますので、得られるXAFSのデータもその領域からのもとなります。X線領域での臨界角は数mrad程度になり、試料へのX線照射面積が大きくなるため、ある程度大きく表面が平らな試料が望ましいです。

Q5.2価と4価が混ざっているような元素の時に、2価と4価の混合状態か3価なのかの判断はできるのか?(ピークシフトなので判断つかないのでは?)

A5.XANESから価数の解析を行う際には、ピークシフトだけではなく、その前後(プリエッジやホワイトラインなど)のスペクトル構造全体を見て判断します。また、価数によってどのようにピークシフトやスペクトル形状の変化が起こるかは測定元素に大きく依存しており、2,3,4価それぞれのスペクトルが全く違うものもあればあまり変化しないものもあります。また、2価→3価と3価→4価のピークシフト量が異なる場合もあります。基本はモデル(理論計算or標準試料)を用いてスペクトルの再現をすることになります。多くの場合は2価+4価混合状態と3価単一状態との分離はできると思いますが、元素とその周囲の構造に依存するところが大きいです。

Q6.有機・無機(粒径single nano)コンポジットで、有機・無機界面の解析に適用できるか? (知りたいのは界面の情報、無機材料がSiO2やAl2O3だと固体NMRで対応できるが、ZnOやTiO2では難しい。他の分析手法を探しているところである。)

A6.XAFSの理論上は5オングストローム程度までの無機粒子表面と有機化合物との結合に関する情報は得られるはずです。ただし、X線は試料全体を透過してしまうので、有機化合物と結合している表面の原子と、結合していない粒子内部の原子との比率(粒子の径や薄膜の膜厚)によっては有機-無機界面のからのシグナルが相対的に弱くなり、解析が難しくなる可能性もあります。

Q7.高調波除去の説明の所に関して、1次光が入るように設定しているのではないのですか?2次光3次光が入ってくる理由が分かりません。

A7.モノクロメーターで白色のX線を単色化する際には、X線の回折現象を利用しています。X線の回折はBraggの式 を満たしたときに起こります。この条件を満たさないX線は回折しませんのでモノクロメーターで捨てられることになります。ここで、dは結晶の格子面間隔ですので定数です。?はX線の結晶への入射角、?はX線の波長(〜エネルギー)です。nは自然数であればなんでも入ります。ここで、?にある数値を入れると、左辺は定数となり (定数) = n? となります。n = 1, 2, 3, …ですので、n =1 の時に求められる波長を?1とすると、n = 2のときは?1/2、n = 3のときは?1/3というように波長が1/2、1/3、…のX線も同時に回折条件を満たします。波長が半分になるということはエネルギーが2倍になるということなので、モノクロメータをある角度に設定すると、基本波(n = 1)とその整数倍のエネルギーを持ったX線がモノクロメーターからやってきます。これが高次光発生の原因です。細かい話ですが回折現象には消滅則というものが存在しており、結晶構造によって回折されない高次光もあります。硬X線ステーションでよく用いられるダイヤモンド構造を持つSi(111)の結晶は消滅則により2次の高次光はでませんが3次の高次光は出ます。


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Last update 2009/11/4