PFリング直線部増強計画について

 

物質科学第一研究系主幹 野村昌治
「PHOTON FACTORY NEWS Vol.19 No.3, November 2001」より
1. はじめに
 PFは1982年から運転を開始し、来年成人式を迎える。当初は400nmradのエミッタンスで運転していたが、1987年、1997年と二度の高輝度化を行い、現在は36 nmradで共同利用を行っている[1]。この高輝度化によりPFは第三世代放射光源に準ずる性能を有することとなった。しかしながら高輝度化の恩恵を最大に享受出来るアンジュレーター光源の数は限られていた。
直線部増強計画は
・ 既存の直線部の長さを延長し、
・ 新たに短直線部を作り出す
ことを目的とした計画である。この改造による挿入デバイスの増加と既存挿入デバイスの再配置等により、挿入光源に対するニーズにある程度応えることが可能になるであろう。
 予算や他の作業等との関係から部分的な改造を含め種々のケースを想定した検討を行ってきたが、一度に全ての必要な改造を行うことが最も効率的で、経済的であるという結論に達した。予算獲得の努力中であり、未確定な要素もあるが、ここでは現在検討している計画の内容、スケジュール、利用実験への影響等について中間報告を行う。
2. 改造の内容
 PFリングの直線部増強計画については既に、小林幸則氏による提案がPFニュースに記され[2]、昨年度のPFシンポジウムでも議論を行った[3]ので既にご承知のことと思う。詳細はこれらを参照して頂きたいが、簡単にまとめると以下のような計画である。
 先の高輝度化ではPFリングの東西の部分(B05−B12、B19−B26)について新型の四極電磁石、六極電磁石を製作し、その数を増すとともにその配列を大幅に変更した。今回の直線部増強では高輝度化時に改造されなかった部分にある四極電磁石、六極電磁石を新製、強化することによって、既存直線部の長さを伸ばし、新たな直線部も生み出す(図1)。利用実験への影響を考慮し、既設の偏向電磁石の位置は変更しない。改造前後の直線部の長さ、現在の用途を表1に示す。表に示されるように9m級の長直線部が生まれ、5m級も8本となる。また新たに1.2m級の短直線部が4本出来る(図2)。この内B03−B04、B17−B18間にはRFキャビティが設置されており、B26−B27間には入射部がある。この部分の直線部を利用するためにはRFキャビティを移設する、入射部を改造する等の追加工事が必要となる。また挿入光源で使える有効長も制限される。
 この様な改造を行うためには、電磁石を製作することは勿論であるが、これに伴い電磁石電源や制御系、真空ダクト、真空ダクトに取り付けられたビームモニター、その制御回路の更新、スクレーパーや蓄積電流値を測定するためのDCCT等各種機器の移設、改良が必要となる。
 放射光を実験装置に導くための基幹部も、四極電磁石との空間的な干渉を避けるために改造を行う。改造を要する基幹部はBL-1〜5、13〜18、27、28の13本に上る。これは先の高輝度化の時を上回る作業量であり、作業に要する時間を考慮して、2002年度から先行して改造を進める。
 短直線部にはミニポール(ミニギャップ)アンジュレーターを設置することが可能になる。山本氏の計算に依るとミニポールアンジュレーターから得られる放射光は、周期長にも依存するが、図3に示すように一次光で1〜3.5keV、三次光で3〜10.5keV、五次光で5〜17keV付近であり、軟X線から硬X線域での利用が可能となる[4]。
 従来のマルチポールウィグラーを光源とするBL-16と比較して、10keV付近ではBL-16の方がtotal fluxは高いが、輝度は一桁の改善が期待される。
 先の高輝度化には額面通りの高輝度化と同程度に1982年以来使用して経年劣化している部分を更新し、運転を安定化すると云う目的も含まれていた。
今回の計画でも、先の高輝度化時に更新できなかった経年劣化した機器を更新する事により、リング全周にわたる更新を実現し、今後の運転を安定化することも期待される。
増強される直線部のリスト
直線部 長さ[m] ビームライン(現状) 備考
B01-B02 5.0→9.2 BL-2(U)  
B15-B16 BL-16(U/MPW)  
B03-B04 4.3→5.7 RF及びBL-4(B) RFあり
B17-B18 RF及びBL-18(B)
B13-B14 BL-14(VW)  
B27-B28 BL-28(HU/EMPW)  
B04-B05 3.7→5.1 未建設  
B18-B19 BL-19(U)  
B12-B13 BL-13(U/MPW)  
B26-B27 入射点及びBL-27(B) 入射点あり
B02-B03 新規1.5 BL-3(B)  
B16-B17 BL-17(B)  
B14-B15 BL-15(B)  
B28-B01 BL-1(B)  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表1.直線部増強後の直線部リストと現在の使用状況

図1.直線部増強後のPFリング

図2.新たに出来る短直線部(B02-B03を例に示す)。現状(a)と改造後(b)の磁石配列。現在は挿入光源を設置する空間はないが、改造後は500mm程度の長さのミニポールアンジュレーターを設置出来る。



図3.ミニポールアンジュレーターから得られるスペクトラル[3]
3. 改造のスケジュール
 改造スケジュールの概要を表2に示すが、電磁石、真空ダクト等のコンポーネントは2002〜2003年度に製作し、予めテストを行う予定である。
 上述したように基幹部の改造を2002年度から開始するための準備作業を2001年度より行っており、2002、2003年度の夏期の停止期間にそれぞれ3〜4本の基幹部の改造を行う。
 2003年3月にはPFの計算機システム更新が予定されており、PFリングを運転することは出来ない。この機会を活用し、2003年3〜5月上旬の間運転を停止して基幹部改造作業を予定している。
 これらの準備を整えた上で、2004年の春から秋にかけて運転を停止してリングの改造を行うことを計画している。

表2.直線部増強スケジュール

4. 改造によるビームラインへの影響
 基幹部の改造では四極電磁石との干渉が厳しくなるため、シールド壁内に設置されていた機器類を下流側に移設したり、小型化や場合によっては撤去することが必要となる。これらの努力をしてもBL-14では必要な機器をシールド壁内に設置することが困難であり、実験ホール側でも一部の機器の再配置、撤去等が必要になる。詳細についてはビームライン担当者を中心に検討中である。
 BL-1、3、15、17にはミニポールアンジュレーターを設置出来る直線部が生み出され、設置が予定される(時期未定)。この場合、既設の偏向電磁石を光源とするビームラインとの干渉が避けられず、再配置が必要となる。
5. 改造後の挿入デバイス
 直線部増強はPFリングにとって最後の大きな改造となる。従って、後継光源が稼働するまでの間、十分な競争力を持って研究成果を出し続けられる研究分野にこれらの資源を配置する必要がある。
 挿入光源の使途は現在議論されている極紫外・軟X線高輝度光源計画の進み方と密接に関係している。この計画は全日本の統合計画として議論されており、計画が進む場合は極紫外・軟X線領域の共同利用実験の大部分は新光源へ移ることが予想される。従って日本放射光学会の「極紫外・軟X線高輝度放射光施設計画に関する提言」にも明記されているように、PFではより高いエネルギー域の研究に適合するように既存挿入光源の改造、再配置を行うことが妥当であろう。
 一方、不幸にして高輝度光源計画が進まないケースでは真空紫外・軟X線領域で世界に互して高い研究成果を上げていくために既存ビームライン、挿入光源の再配置、改造、更新を行うべきである。この記事が皆様に届く頃には結論が出ているかもしれない。
 このような事情から直線部増強後のビームライン整備計画が確定している訳ではない。しかし、PFの寿命を考えるとできるだけ早く着手することが重要である。具体的なビームライン整備計画は研究計画、予算の推移、マンパワー等を総合的に判断した上で策定することになる。現在進行しているPFの外部評価もこの時の参考となる。また、これらを実現するためにPFとしては、予算面、マンパワー面でも総力を直線部増強とそれに関連するビームライン整備に集中する必要があることをご了解頂きたい。
6. 後継光源の開発に向けて
 これらの改造を通して、ミニポールアンジュレーターを用いた時の随時ギャップ変更、軌道安定化等のスタディをし、各ビームライン要素のコストダウンをはかる(値切ると云うことではなく、安価に出来る工夫をする)ことはこの後のPF後継光源の建設、活用にとって極めて重要であり、そのための開発期間ともなる。
 同様にビームライン光学系に関しても、今回の直線部増強に伴うビームライン再編を通して、高輝度光源の特性をフルに生かせるビーライン建設を学習する必要があると考えている。
参考文献
[1] 加藤政博、堀洋一郎編、「PFリング高輝度化計画デザインレポート」、KEK Report 92-20 (1993). 加藤政博、Photon Factory News, 10(2) 7 (1992).
[2] 小林幸則、Photon Factory News 18 (2) 17 (2000). 同文とミニポールアンジュレーター光の計算スペクトルはhttp://pfwww.kek.jp/nomura/futurepf/index.htmlにも掲載。
[3] 第18回PFシンポジウム報告。
[4] リングの条件が異なるので同列には議論出来ないが、最近建設されたSwiss Light Sourceではミニポールアンジュレーターが既に使用されており、13次光の利用まで予定されている。また、低エミッタンスリングの欠点である寿命の短さを補うためtop-up(頻繁に入射して、見かけ上の蓄積電流をほぼ一定に保つ)運転がなされている。