直線部増強とビームライン整備

 

直線部増強のための運転停止

 既にPFニュース各号の現状欄や毎年のPFシンポジウムで報告してきたようにPFとしては2.5 GeVリングの直線部増強作業を進めてきている。また文献[1]に全容,進捗状況の紹介がある。この間,関連する基幹チャンネルの改造,電磁石の製造,真空ダクトの製作,基幹チャンネル改造へのビームライン側の対応作業等を進めてきている。当初は2004年度に運転を停止してリングの改造を行う計画であったが,残念ながら予算の制約から行うことが出来なかった。幸い2004年度にはPFの内部努力と機構からの支援を受けたことで,改造に必要な真空ダクト等の製造を行う予算を確保する見通しが付いた。このため,2005年3月から9月の間にリングの改造作業を行うこのため,2005年度は今年と比較して4月から6月の実質約2ヶ月のビームタイム(実質約2.5ヶ月の運転)が例年より少なくなる見込みである。改造作業完了後は1ヶ月程度の立ち上げ,焼き出し作業の後,利用実験を再開する計画である。

 2004年度についてはPF,PF-ARともほぼ例年並みの運転を予定している。また,PF-ARについては2005年度前半も運転することを計画している。より詳細な日程が決まり次第,webやPFニュースで案内する。


増強した直線部のビームライン整備


 上記の様に2005年度にリングの改造は完了し,予算とマンパワーさえ確保出来れば挿入光源ビームラインを整備することが可能になる。また光源系スタッフは改造を終えて,将来の光源についてアイディアを練り,開発研究を進める時間的,予算的余裕が多少なりとも出来てくる。
 
 中長直線部にどのようなビームラインを整備するかについては2003年8月のユーザーミーティングで報告した案[2]を基に検討を進めてきた。要約すると,BL-2,16,13,19,28の5本の直線部の挿入光源を更新して真空紫外から軟X線領域の研究に専用化したビームラインを整備する。また,BL-1,3,15,17の4本の短直線部にはミニポールアンジュレーターを光源とする軟X線からX線域の研究用のビームラインを整備する。

 中長直線部の整備案(真空紫外から軟X線領域の研究に専用化したビームライン)を下記に示すが,これは各種の制約条件がある中,2001年5月に開催された研究会「アンジュレータ放射光による先端研究の展開」[3]をはじめとするPF研究会等でのユーザーの意見を反映したものである。エネルギー域としては10 eVから1500 eVに対応する。BL-19を除き原則として各挿入光源当たり2ブランチラインを設置し,少なくとも一方のブランチには常設の実験装置を置く。これにより実験装置入れ替えに伴うロスタイムを減らすことが可能となり,利用実験者層を拡大出来るものと期待している。BL-19が一ブランチであるのは空間的制約のためである。BL-28のビームライン光学系については先行して既に改造に着手している[4]。この光学系は更新後のアンジュレーターに対応出来るものとなっている。これらのビームライン整備に伴い既設のBL-2A,13A,13B,16Aは移設等が必要になる。

中長直線部に建設するビームライン案
BL 用途 エネルギー域(eV)
U02
表面化学反応、プロセスの光電子分光
100〜1200
SX原子分子、発光分光、SXイメージング
U16
ナノ磁性PEEM、スピン分解光電子
200〜1500
表面磁性ダイナミックス、MCD・NCD
U13
機能性物質の超高分解能光電子分光
10〜600
原子分子
U19
表面界面二次元光電子、レーザー励起時間分解
30〜1000
U28
有機薄膜・複雑系のARPES
30〜1000
量子ナノ構造の光電子、バルク敏感光電子

 

 

 

 

 

 

 

 


 短直線部についてはX線回折実験関係のビームラインと構造生物関係のビームラインを予定している。X線回折用ビームラインは既設BL-16Aの発展系と位置づけている。また構造生物関係については既設BL-18Bの発展系と位置づけ,BL-17とのビームライン交換を予定している。BL-13関係についてはアクティビティをBL-16へ移した後のNE1や既設NW2等でアクティビティを継続,発展させることを予定している。それ以外のミニポールアンジュレーター利用としては,分析/分光実験,位相利用実験,小角散乱実験,反射率測定等が候補に上がっている。他によりミニポールアンジュレーターの特徴を生かした優れた研究提案があれば早急にご提案頂きたい。

 既に気付かれた方もおられると思うが,BL-1,3,15,17には既設のビームラインがあり,これらの中にはミニポールアンジュレーターを光源とするビームラインと空間的に干渉するものが生じる。これらのビームラインについてはアクティビティと今後の展開を見ながら偏向電磁石ビームライン等へ移設/統廃合を検討している。これまでビームラインのカテゴリー分け作業を進めてきたが,今後も各ビームラインのアクティビティを見ながら,限られた資源から最大限の研究成果が得られるように最適化を図ることが求められている。


ビームライン整備の実現に向けて


 上記のビームライン整備をPFの経常経費で進めることは非現実的である。従来も極紫外・軟X線高輝度光源計画との干渉を避けるため「構造生物学研究設備増強」としてリングの改造とミニポールアンジュレーター利用に重点を置いた概算要求を続けていたが,実現しなかった。現時点では3カ年程度の計画として挿入光源,ビームライン,実験装置整備に重点を置いた概算要求を進める予定である。金額的にも大きくなり,概算要求書の作成と平行して,デザインレポートの充実および事前評価作業を進める必要がある。ユーザーの皆様の御協力を御願いする。

 また,リングの改造が完了することによって,各種外部資金を導入してビームラインの整備をすることが可能になる。構造生物の振興調整費によってBL-5を建設でき,腰原先生のERATOプロジェクトによってNW14の建設が進むように,外部資金の導入は直線部増強を生かしたビームライン整備,研究の強力な推進力となる。競争的資金を「共同利用のため」で獲得することは不可能であり,獲得のためには最終的な研究目標が重要であることは自明である。また外部資金獲得の際には計画の間に整合性を保つことが緊要である。共同利用研究所の基盤であるユーザーコミュニティと施設が協力して申請に当たることが求められる。是非「我こそは」と思う方々からのご提案をお願いしたい。


参考文献

[1] 前澤秀樹,Photon Factory News, 21 (1) 7 (2003),野村昌治,ibid 19 (3) 8 (2001),小林幸則,ibid 18 (2) 17 (2000).
[2] 松下正,Photon Factory News, 21 (3) 5 (2003).
[3] 柳下明,柿崎明人,KEK Proceedings 2001-21 (2001).
[4] 小野寛太,Photon Factory News, 21 (2) 8 (2003).


2004-4-21 by pfw3-admin@pfiqst.kek.jp