BL-11Aの概要
BL−11Aには1995年末までGrasshopper分光器が設置されており、様々な実験研究が行われていたが、ビームライン全体の更新が行われ、1996年秋からは部分的に共同利用実験が開始されている。
BL−11Aがカバーする70-1900eVの軟X線領域には、生命体を含む有機物の基本構成元素である炭素・窒素・酸素などの1s電子や鉄・ニッケル・銅など遷移金属の2p電子の結合エネルギーが含まれており、これらの元素を含む物質の内殻励起分光測定に用いられる[伊藤健二,北島義典(編)「ビームラインBL11の更新に関する研究会報告」 KEK Proceedings 94-4 (1994)]。特に偏向電磁石光源であることから、究極の分解能を目指すというよりは、できるだけ幅広いエネルギー範囲の利用が可能であること、炭素や酸素のEXAFS測定が行えるようにすることに重点をおいて分光器の設計を行った[「BL11再構築デザインレポート」 KEK Report 95-4 (1995)、K. Amemiya et al., J. Synchrotron Rad. 3, 282 (1996)、K. Amemiya et al., SPIE Proceedings 3150, 171 (1997)]。これまでに行った性能評価テスト等の結果は文献[Y. Kitajima et al., J. Synchrotron Rad. 5, 729 (1998)、Y. Kitajima et al., J. Elec. Spec. Relat. Phenom. 101-103, 927 (1999)]を参照されたい。なお、BL−11Aの再構築は、PFと東京大学大学院理学系研究科化学教室の太田俊明研究室との共同で設計から立ち上げまでの作業が進められてきている。
新BL−11Aの光学系を図1に示すが、分光系はMonk-Gillieson型の斜入射分光器に不等間隔平面回折格子を組み込んだもので、Hettrick-Koike型と呼ぶべきものである。88度入射の円筒鏡M0およびM0’で反射された放射光(水平方向の取り込みは最大5 mrad)は、入口スリットS1と出口スリットS2の間に置かれた球面鏡M1もしくはM2と不等間隔平面回折格子VLS−PGで構成される斜入射分光器で分光・収束され、後置トロイダル集光鏡Mfによって試料位置に再集光される。なお、S0は垂直方向の取り込みを制限するためのアパーチャーであり、ビーム中心(直線偏光)または非中心(楕円偏光)を取り出すことができるようになっている。
図1. BL−11Aの光学系(ミラーの曲率半径などは設計値を示した)。
本分光器では、利用するエネルギー領域によって2種類の球面鏡M1/M2および3種類の回折格子(300 l/mm、800 l/mm、1200 l/mm)を真空中で切り替え・調整する機構を備えており、70-1900eVの幅広いエネルギー領域の利用が可能である。また、本分光光学系の特徴として、比較的長い領域にわたって安定に軟X線を供給するため、サインバーを用いた回折格子の回転のみによってエネルギー走査を行えるようになっている。このように機構が単純であるため、制御系も簡単なものとなっている。なお、図中には表示されていないが、回折格子と後置鏡の間に高次光除去用の2枚組ミラーMwを挿入することが可能となっている。
Last modified: Aug. 14, 1999