酸素のK吸収端でのNiO反強磁性磁区ドメイン観察

2004年10月22日


 

東京大学物性研究所の木下豊彦助教授の研究グループ(脇田高徳、孫海林、松島毅、F.U.Hillebrecht、原沢あゆみ、奥田太一、木下豊彦)と、東京大学大学院工学研究科の尾嶋正治教授の研究グループ(木綿秀行、小野寛太(現PF放射光科学第一研究系助教授)、尾嶋正治)、千葉大学大学院自然科学研究科の上野信雄教授の研究グループ(遠山尚秀、上野信雄)では、PFのBL−2C,11A,13Cなどに光電子顕微鏡装置(Photoemission Electron Microscope; PEEM)を設置し、元素選択的な磁区ドメイン観察実験を行ってきましたが、このほど反強磁性物質として有名なNiO単結晶の反強磁性磁区ドメイン観察を、酸素のK吸収端を使って行うことに成功しました。

この物質に関しては、これまで、NiのL吸収端における磁気線2色性を利用した反強磁性磁区ドメイン観察は良く知られていましたが、酸素のK吸収端でも磁区観察が行えることは予想されておりませんでした。酸素原子は6個のNiイオンに囲まれていますが、そのスピンの向きは3つずつ反対方向を向いており、総計として相殺されるために、酸素には磁気モーメントは誘起されないと考えられるからです。研究グループでは、NiO(100)表面に磁性金属を蒸着し、NiのL吸収端で観察される磁区ドメインは強く影響を受けて違った構造を示すのに対し、酸素のK吸収端で観察される磁区ドメインはほとんど変化を示さないことを見出しました。酸素のK吸収端で観察される非磁気的な線2色性は、酸素の非占有電子状態と、Niの3d軌道との結合に由来する電子状態の異方性に加え、NiOの反強磁性歪が重要な効果を果たしていることを示す成果です。
この研究成果は、Journal of the Physical Society of Japan, Vol.73, No.11に、"Letters of Editors' Choice"として発表されます。近々、JPSJ編集委員会が推薦する、レター論文の中でも特に広く読まれるべき重要な論文としてJPSJ ONLINEのトップページにてオンライン版への直接リンクが張られる予定です。

"Antiferromagnetic domain structure imaging of cleaved NiO(100) surface by using non-magnetic linear dichroism at O K edge: Essential effect of the antiferromagnetic crystal distortion"
by Toyohiko KINOSHITA, Takanori WAKITA, HaiLin SUN, Takahide TOHYAMA, Ayumi HARASAWA, Hideyuki KIWATA,F. Ulrich HILLEBRECHT, Kanta ONO, Takeshi MATSUSHIMA, Masaharu OSHIMA, Nobuo UENO and Taichi OKUDA

Ni及び酸素吸収端で観測された反強磁性磁区ドメイン


 

 


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