自己組織化する三次元構造体の構造解析に成功

2004年12月27日


東京大学の藤田誠(ふじた・まこと)教授の研究グループ(富永昌英(とみなが・まさひで)助手,河野正規(かわの・まさき)助教授)らは,東京工業大学の尾関智二(おぜき・ともじ)助教授と共同で,重金属を含む巨大錯体分子単結晶の構造解析に不可欠な高フラックスで短波長のX線ビームを利用できるPF-ARビームラインNW2を用いて,数ナノメートルのサイズを有する三次元チューブ状,球状錯体の構造解析に成功しました.

生体機能の発現にはナノ領域における分子レベルの精密な自己組織化が重要な役割を担っています.近年,このような仕組みを人工系にとりいれ,精密に設計された小分子がナノ領域で自己組織化し,巨大な三次元中空構造体が構築されています.今回,配位結合を駆動力として巨大かつ精密な分子集合体を自発的かつ定量的につくることができました.

3.5 nm長中空チューブ
:2つのトリスピリジン単位をビフェニレン基で連結した有機配位子4分子と(en)Pd(NO3)212分子を錯形成させたところ,ひも状分子を鋳型として,生体膜の厚さに匹敵する3.5 nmの配位結合チューブが定量的に自己集合しました(左下図).この手法によりさまざまな長さのチューブ状構造を設計することが可能です。

球状分子カプセル:折れ曲がった二座配位子とPd(NO3)2から,36成分からなる立方八面体型の球状カプセル構造が定量的に自己集合することを見いだしました.X線結晶構造解析より,立方八面体の各頂点にPd(II)イオンが配置され,配位子が各辺上でPd(II)イオンを架橋している分子径34Åにも達する球状構造でした(右下図).立方八面体は,立方体の各頂点を各辺の中点まで切り落とした形であり,辺の数24と頂点の数12が,それぞれ配位子と金属イオンの数に相当します.


     

このような様々な形状をもつ三次元構造体の特異空間を利用し,内部孤立空間における特異な物質変換,巨大分子(生体分子・金属ナノ粒子)のカプセル化など,新しい「ナノ空間の化学」を展開できることが期待されます.

この研究成果は,2004年のJournal of American Chemical Society(9月発行)およびAngewandte Chemie International Edition(11月発行)で発表されたものです.

Takumi Yamaguchi, Shohei Tashiro, Masahide Tominaga, Masaki Kawano, Tomoji Ozeki, Makoto Fujita: A 3.5-nm coordination nanotube. J. Am. Chem. Soc., 126, 10818-10819 (2004)

Masahide Tominaga, Keisuke Suzuki, Masaki Kawano, Takahiro Kusukawa, Tomoji Ozeki, Shigeru Sakamoto, Kentaro Yamaguchi, Makoto Fujita: Finite spherical coordination networks that self-organize from 36 small components. Angew. Chem., Int. Ed., 43, 5621-5625 (2004)



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