有機超伝導候補が室温超高速光応答材料に変身

2005年1月7日


 

JST戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究ERATOタイプ「腰原非平衡ダイナミクスプロジェクト」(研究総括:腰原伸也、東京工業大学教授)は、有機電荷移動錯体((EDO-TTF)2PF6)結晶が、超高速、超高感度の光応答を室温付近で示すことを発見しました。本研究によってこの種の有機結晶が、室温動作する超高感度かつ超高速の次世代光通信用材料として有望であることが初めて見出されました。この成果は高エネルギー加速器研究機構、レンヌ第一大学(フランス)、東京工業大学、京都大学、及び神奈川科学技術アカデミーとの共同研究によって達成されたものであり、平成17年1月7日付けの米国サイエンス誌に掲載されます。

本研究では、室温付近でこの有機結晶に超短パルスレーザーを照射すると、0.2ピコ秒以内という極めて短時間で、光の反射率が50%以上も変化することを見出しました(1ピコ秒=1兆分の1秒であり、0.2ピコ秒は高速電子デバイスの典型的な応答速度(約10億分の1秒)の約5000倍という高速応答に相当する)。この現象では、1つの構成分子の変化がドミノ倒し的に他の変化を引き起こすため、光子1粒という極微弱な励起光によって、約500分子の変化が誘起されるという超高感度のものです。

この(EDO-TTF)2PF6結晶(構造は図1参照)は、もともとは有機超伝導体を目的として合成されたものですが、超伝導特性は示さないため今日まであまり注目されて来ませんでした。本プロジェクトではこの物質の特殊な電子構造と結晶構造、それに起因する特殊な相転移に着目し、光による相変化が誘起される可能性を探索していたところ、今回の意外ともいえる成果につながりました。

本プロジェクトでは現在、高エネルギー加速器研究機構内の放射光施設PF-ARにて時間分解X線回折実験が可能なビームラインNW14を建設中で、H17年度下期に完成の予定です。この新しいビームラインを利用した光誘起相転移を示す物質の時間分解X線回折実験を通して、次世代に通用する超高速高機能材料の開発を行う予定です。

図1(A)(EDO−TTF)2PF6結晶の絶縁体相(左)および金属相(右)における分子構造と電子状態の模式図。(B)(EDO−TTF)2PF6結晶の金属-絶縁体相転移の自由エネルギーダイアグラム(模式図)。

Matthieu Chollet, Laurent Guerin, Naoki Uchida, Souichi Fukaya, Hiroaki Shimoda, Tadahiko Ishikawa, Kazunari Matsuda, Takumi Hasegawa, Akira Ota, Hideki Yamochi, Gunzi Saito, Ryoko Tazaki, Shin-ichi Adachi, and Shin-ya Koshihara: Gigantic Photoresponse in -Filled-Band Organic Salt (EDO-TTF)2PF6, Science 307 (2005) 86.



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