多電子同時計測手法を用いて内殻外殻光二重イオン化過程の直接観察に成功

2006年8月25日


 分子科学研究所の彦坂泰正助手(元放射光科学研究施設研究機関研究員)とKEK物質構造科学研究所の伊藤健二助教授は、繁政英治助教授(分子科学研究所)、仏国 CNRSのPascal LablanquieおよびFrancis Penent研究員と共同で開発した多電子同時計測手法により、原子や分子の特殊な光二重イオン化過程である内殻外殻二重イオン化過程の直接的観測に初めて成功しました。 実験はPF-AR NE1Bで行われました。

 原子や分子の光吸収により2つの電子が放出される光二重イオン化は、原子・分子中における複数の電子の運動に相関があることを反映して起こります。この電子運動の相関についての理解は、原子分子科学の最も根源的な問題の1つとして、長年関心を集めてきました。伊藤助教授らのグループは、これまでの手法では観測することが難しかった内殻外殻二重イオン化過程について、多電子同時計測手法を導入することにより、従来の方法に比べて直接的ではるかに広範な情報を得られることを示しました。今後、この手法を基本的な原子・分子に展開していくことにより、電子運動の相関の理解が革新的に進むと同時に、原子・分子のイオン状態の電子構造や生成機構の全容が解明されると期待されます。

この研究成果は、米国物理学会刊行のPhysical Review Letters(2006年8月4日号)に掲載されました。

Y. Hikosaka, T. Aoto, P. Lablanquie, F. Penent, E. Shigemasa, and K. Ito: Experimental Investigation of Core-Valence Double Photoionization. Physical Review Letters, 97, 053003 (2006).

詳しい解説記事がPhoton Factory News Vol.24 No.1に掲載されています。
http://pfwww.kek.jp/publications/pfnews/24_1/p22_25.pdf


通常の光電子スペクトル(上図)では観測が困難な内殻外殻二重イオン化による構造が、多電子同時計測手法によって得たスペクトル(下図)では斜めの構造として鮮明に見出される。



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