Lys63結合型ポリユビキチン鎖の選択的切断メカニズムを解明
〜PF-AR NW12Aで構造解析に成功〜



2008年9月2日


 東京大学放射光連携研究機構生命科学部門の深井周也准教授のグループでは、PF-ARのNW12Aを用いて得られた構造解析により、Lys63結合型ポリユビキチン鎖を選択的に切断するメカニズムを解明することに成功しました。

 細胞には、合成に失敗したタンパク質や古くなったタンパク質を分解し、タンパク質の原料であるアミノ酸やペプチドに戻してリサイクルするシステムが存在します。分解されるタンパク質には、ユビキチンと呼ばれる小さなタンパク質が鎖状に複数個付加され(ポリユビキチン鎖)、正常なタンパク質と区別するための「ラベル」の役割を果たしています。

 最近、細胞内の様々なプロセスでユビキチンが重要な役割を担っていることが明らかになってきました。タンパク質分解のラベルとなるポリユビキチンは、ほとんどが48番目のリジン残基 (Lys48) を介して連なった鎖ですが、それ以外の結合の仕方で連なったポリユビキチン鎖もいくつか存在します。今回、深井准教授らが注目したLys63結合型のポリユビキチン鎖もそのひとつで、DNA修復、タンパク質合成、免疫や炎症に関わる細胞内シグナル伝達、受容体の分解などのプロセスで働くことが知られています。

 このような形状の異なるポリユビキチンが、細胞内でどうやって区別されているのか、これまで全くわかっていませんでした。研究グループは、Lys63ポリユビキチン鎖だけを選択的に切断する酵素であるAMSHファミリーに着目し、AMSH-LP単体、およびAMSH-LPとLys63結合型ポリユビキチン二量体との複合体の結晶構造を、PF-AR NW12Aを用いて決定することに成功しました。これにより、Lys63結合型のポリユビキチン鎖を認識して選択的に切断するメカニズムを解明しました。これは、特定のユビキチン鎖の認識と選択的切断のメカニズムを明らかにした世界で最初の成果です。

 ユビキチンの付加・脱離は細胞の様々なプロセスに関わっていることから、その阻害剤は抗がん剤などの創薬ターゲットとして注目されています。特に、今回構造決定を行ったAMSHファミリーは、HIVやエボラウイルスの増殖に関係するタンパク質であり、本研究で得られた構造情報に基づいた阻害剤設計により、新しいタイプの抗ウイルス剤の開発が可能になることが期待されます。

 本研究結果は、英国科学誌「Nature」オンライン版で2008年8月31日(日本時間9月1日)に発表されました。

Yusuke Sato, Azusa Yoshikawa, Atsushi Yamagata, Hisatoshi Mimura, Masami Yamashita, Kayoko Ookata, Osamu Nureki, Kazuhiro Iwai, Masayuki Komada and Shuya Fukai : Structural basis for specific cleavage of Lys 63-linked polyubiquitin chains. Nature, published online publication 31 August 2008.

 

AMSH-LPとLys63結合型ユビキチン二量体との複合体の結晶構造

 


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