新型高温超伝導体LaFeAsOの電子状態を観測
〜PF 光電子分光ビームラインBL-28Aで〜



2008年10月7日


 東京大学大学院理学系研究科の藤森淳教授、吉田鉄平助教のグループは、PFの高分解能光電子分光ビームラインBL-28Aを用いて最近発見された鉄を含む高温超伝導体LaFeAsOの電子構造解析を行い、銅酸化物高温超伝導体に比べ、電子間の相関が弱い電子状態をもつことを明らかにしました。

 今年2月に、東京工業大学の細野秀雄教授のグループは超伝導転移温度Tcが26Kの新型超伝導体LaFeAsOを発見しました。この発見を受け、中国やアメリカなど世界中で競争が起こり、同じ系列の物質のTcは55Kにまで上昇しました。現在、鉄系超伝導体は、1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体に次ぐ、高い転移温度をもつ物質群として注目されています。

 バンド理論は、多くの物質の電子状態をうまく説明し、半導体素子の設計などに威力を発揮してきましたが、銅酸化物高温超伝導体では、電子同士のクーロン相互作用が強いため、電子は身動きが取りづらく絶縁体に近い状態にあり、このような状態はバンド理論で説明することができません。高温超伝導の原因は、このような相関の強い電子状態と深く関係していると考えられてきました。そのため、新しく発見された鉄の超伝導体も、電子相関が強いのではないのかと多くの専門家は考え、バンド理論が適用できるかどうか意見が分かれていました。

 今回、藤森教授、吉田助教らは、原子ごとの電子が取り出せる共鳴光電子分光法を用いて、電気伝導を担っている鉄の3d軌道の部分状態密度の観測に成功しました。得られた部分状態密度を、東京大学の有田亮太郎准教授、青木秀夫教授,電気通信大学の黒木和彦教授の協力を得てバンド計算と比較した結果、銅酸化物の場合と異なり、電子状態はバンド理論の計算結果に似た結果が得られました。これは電子相関の効果が弱く、金属的な状態が保たれていることを意味しています。
バンド理論と実験結果の間に見られる違いから、電子相関がどのくらい効いているか調べることができます。電子相関のために電子が動きにくくなる効果は、電子の「質量」が重くなると考えると、さまざまな現象を理解することができます。質量が重くなる効果を簡単なモデルで表現して、バンド計算の結果に補正を加えることで、実験結果をよりよく説明することができました。この結果、電子の「質量」が電子相関のために約1.5-2倍になっていることがわかりました。

 電子相関が弱いという結果は、銅酸化物と異なるメカニズムで高いTcが実現している可能性を示唆しています。本研究で得られた電子構造の情報は、鉄系の超伝導体の基礎的理解を与え、今後、超伝導機構の解明に向け、研究が進展することが期待されます。

 本研究結果は、学術誌「Journal of the Physical Society of Japan」から2008年9月10日に発表されました。

Walid Malaeb, Teppei Yoshida, Takashi Kataoka, Atsushi Fujimori, Masato Kubota, Kanta Ono, Hidetomo Usui, Kazuhiko Kuroki, Ryotaro Arita, Hideo Aoki, Yoichi Kamihara, Masahiro Hirano, and Hideo Hosono : Electronic Structure and Electron Correlation in LaFeAsO1-xFx and LaFePO1-xFx. Journal of the Physical Society of Japan, published September 10, 2008.



LaFeAsO1-xFxの結晶構造とFe 3d 軌道の部分状態密度


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