インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼの構造を解明
〜新型インフルエンザウイルスに対する画期的な薬剤設計に期待〜

2009年5月29日


 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の朴三用准教授らおよび筑波大学大学院人間総合科学研究科の永田恭介教授らの共同研究グループは,インフルエンザウイルスの複製に中心的な役割を果たしているRNAポリメラーゼのサブユニット間の構造を,short-gapアンジュレーターを光源とした微小集光ビームラインBL-17Aにおける構造解析により解明しました。この研究は,2008年に同グループより解明された構造と合わせ,インフルエンザウイルスに対する新規薬剤設計・開発に向けた非常に重要な成果です。

  現在,メキシコで発生した新型インフルエンザが世界的に流行しています。幸い今回の新型インフルエンザは死亡率がそれほど高くありませんでしたが,もしこれが全身に強い症状を引き起こす強毒型の新型インフルエンザであったらと想像すると,世界中が脅威を感じました。インフルエンザウイルスは変異を繰り返すため、変異部位をターゲットにした既存のワクチンや抗ウイルス剤では十分に対抗ができません。既にヒトに定着し毎年のように流行を繰り返しているインフルエンザウイルスに対し,変異部位以外をターゲットにした次世代薬剤の開発が急務となっています。

 共同研究グループは,インフルエンザウイルスの増殖に中心的な役割を担っているRNAポリメラーゼに注目しました。RNAポリメラーゼは変異を起こしにくい特徴を持っていることから,抗インフルエンザウイルス薬剤ターゲットとしては理想的です。このRNAポリメラーゼはPA, PB1, PB2と呼ばれる3つのサブユニットから成り,その3つがそろってはじめて機能を示すことから,サブユニット間の結合部位を薬剤ターゲットと考え,構造解析を行っています。共同研究グループは2008年に解明したPA-PB1間結合部分の構造に引き続き,今回新たにPB1-PB2間結合部分の構造解析に成功しました。どんなタイプのインフルエンザウイルスにも効果を発揮する新しい薬剤設計に向けて,一歩前進した画期的な成果です。

 この成果は,EMBO Journal(欧州分子生物学機関誌)オンライン版に2009年5月21日に掲載されました。

Kanako Sugiyama, Eiji Obayashi, Atsushi Kawaguchi, Yukari Suzuki, Jeremy RH Tame, Kyosuke Nagata and Sam-Yong Park : Structural insight into the essential PB1-PB2 subunit contact of the influenza virus RNA polymerase. EMBO Journal, Published online publication 21 May 2009.

より詳しい説明は,横浜市立大学のウェブサイトをご覧ください。

KEKでは,本研究グループによって2008年にPA-PB1サブユニット間の構造が発表された際に,News@KEKに一般向けの解説記事を公開しています。
インフルエンザの薬に手がかり 〜ウイルス増殖タンパク質の構造が明らかに〜 2008.7.31

 

インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼ,PB2-PB1サブユニット間結合部分の結晶構造

 


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