非平衡状態にある油滴の自発的変形運動のメカニズムを解明

2010年1月28日


 東京大学の住野豊博士,千葉大学の北畑裕之講師,KEK物質構造科学研究所の瀬戸秀紀教授らのグループは,水と油の界面の自発的な運動が起こるメカニズムを,PFのBL-15Aを用いたX線小角散乱法により解明することに成功しました。

 平衡状態から遠く離れた系は,散逸構造と呼ばれる時間的,空間的パターンを作ることが知られています。水と油の界面はその良い例で,水に油を滴下した後に自発的に起こる変形は,これまでにも広く研究されてきました。研究グループは,陽イオン性界面活性剤である塩化ステリルトリメチルアンモニウム(STAC)の水溶液上に,パルミチン酸(PA)を加えたテトラデカンの油滴を滴下した直後の形態変化に注目しました。液滴は,収縮・拡大した後に界面が自発的な変形を始めますが(下図左),このような界面の一部がゆっくり膨張して急激に収縮すると言う現象はアメーバの変形に良く似ており,生きている細胞の変形運動との関連性も示唆されます。

 この現象は,STACとPAがそれぞれ水の相と油の相に偏在していて,平衡状態に向かうために界面を通過するために起こると考えられています。すなわち,水と油の界面にSTAC,PAを含むゲル状の会合体が形成され,その厚みが時間とともに増大することが自発運動の原因であることがモデル解析より予測されました。研究グループは,自発変形する水/油界面においてできるゲル状物質の構造をX線小角散乱により調べ,周期が400Å程度のラメラ構造が形成されていることを突き止めました(下図右)。これは,水と油の界面にメゾ構造が形成されることが自発運動の要因であることを捉えた初めての成果です。

 瀬戸秀紀教授は,KEK物質構造科学研究所・中性子科学研究系主幹であり,2009年4月に設立した構造物性研究センター (CMRC)のソフトマター系研究グループのグループリーダーでもあります。CMRCでは,物構研が持つ放射光・中性子・ミュオン・低速陽電子という複数のプローブを総合的に利用し,物性科学分野の独創的・先端的研究を展開しています。

Yutaka Sumino, Hiroyuki Kitahara, Hideki Seto, Satoshi Nakata and Kenichi Yoshikawa : Spontaneous Deformation of an Oil Droplet by the Cooperative Transport of Cationic and Anionic Surfactants through the Interface. J. Phys. Chem. B, 113, 15709-15714 (2009).




(左図)STAC水溶液の上に浮かんだ油滴の形状の時間変化。スケールバーは10mmを表す。(右図)SAXSの実験結果。横軸は波数,縦軸は散乱強度を表す。qm=0.0155Å-1に1st peakが立ち,その整数倍の位置にhigher orderが見られることから,ラメラ構造ができていることが分かる。



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