平成19年度日本化学会各賞受賞者が決定
-進歩賞を2名のPFユーザーの若手研究者が受賞-

2008年2月1日



 
 日本化学会の平成19年度各賞受賞者が発表されました。化学の基礎または応用に関する優秀な研究業績を挙げた若手研究者に対して贈られる進歩賞を,2名のPFユーザーの若手研究者が受賞されました。受賞対象となった研究成果はいずれもPFで行われた研究です。

鈴木 秀士氏(北海道大学触媒化学研究センター)
元素分析走査プローブ顕微鏡の開発
Development of Surface Elemental Analysis Technique Based on the Scanning Probe Microscopy

 鈴木氏は,これまで走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いた表面研究で活躍されていましたが,原理的に元素種や化学状態を同定することができないSPMでは表面化学プロセスの解明のためには限界があると考え,SPMのひとつである非接触原子間力顕微鏡(NC-AFM)と,放射光X線を組み合わせた新しい原理に基づく顕微鏡 X-ray Aided Noncontact Atomic Force Microscopy (XANAM) を提案しました。これは,NC-AFMの探針先端と表面との相互作用が,元素の吸収端付近のX線により変化することを利用して,元素種や化学状態を識別しようとするものです。鈴木氏は,この原理を実証するために自作の装置をPFに持ち込んで検証実験を行いました。探針と表面の間のわずかな引力を検出するために,装置の改良や注意深い測定を繰り返し,吸収端付近の特定のエネルギーで引力相互作用が急激に変わる新奇な現象を捉えることに成功しました。このようなX線による原子間力の制御という現象を検出したのは,鈴木氏が世界で初めて実現したものです。この技術は,これまで難しかった固体表面上の元素種や化学種がナノレベルで直接に識別できる画期的な手法として期待されています。


唯 美津木氏(東京大学大学院理学系研究科)
選択触媒機能創出を目指した表面を媒体とする高活性金属錯体の構築と反応機構の解明
Surface-Mediated Design and Catalytic Properties of Active Metal Complexes for Advanced Catalysis Creation

 唯氏は,不均一系固体触媒表面において,触媒活性構造と選択的反応場を自由に設計できる複数の表面設計手法を考案し,多くの高活性の新規触媒の設計に成功しました。特に,工業的にも重要であり,最も難しい化学反応のひとつとされてきたベンゼンと酸素からのフェノール直接合成を触媒するレニウムクラスター触媒において,ベンゼン転化率9.9%, フェノール選択性94%というこれまでの触媒性能をはるかに超える性能を実現しています。PFで行われたXAFS実験によって,この触媒はアンモニア存在下で,中心に窒素を持つレニウム10核クラスターという全く新規の構造を取ることが明らかにされました。また,触媒の実際の反応過程における構造の動的変化を捉えるために,in-situ時間分解XAFS法の開発・改良を行い,上記のフェノール合成触媒や,燃料電池触媒などのダイナミックな挙動を分子レベルで解明することに成功しました。唯氏の研究成果は,高活性触媒設計に対して学術面でも応用面でも大きなインパクトを与えています。


財団法人 日本化学会
http://www.chemistry.or.jp/

日本化学会 各賞受賞者一覧
http://www.chemistry.or.jp/prize/winner.html

賞名,受賞対象,受賞件数等について
http://www.chemistry.or.jp/prize/index.html



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