野末佳伸氏(住友化学株式会社)が日本放射光学会奨励賞を受賞

2007年1月22日


 

住友化学株式会社石油化学品研究所の野末佳伸(のずえ・よしのぶ)さんが,第11回日本放射光学会奨励賞を受賞されました。この賞は,日本放射光学会員である35歳未満の若手研究者を対象に,放射光科学に関するすぐれた研究成果に対して授与されるものです。受賞対象となった研究は「マイクロビームX線小角散乱を用いた高分子材料の構造研究」です。一連の研究には,PFのBL-4A, BL-15A,SPring-8のBL40XUが使われました。

X線小角散乱法は,多様な材料の複雑な階層構造を研究する上で不可欠な手法のひとつであり,その応用分野は高分子・生体膜・筋肉・合金など多岐にわたっています。これらの材料の多くは空間的に不均一な構造を持っており,ナノ構造の空間分布や局所的な構造発展の詳細を知るには,直径数ミクロンオーダーのマイクロビームが極めて有効と考えられています。マイクロビームを用いた小角X線散乱実験の報告は限定された対象にとどまっていました。

結晶性高分子は,静止場では多くの場合「球晶」と呼ばれる構造を形成します。野末さんは,放射光X線マイクロビームを高分子球晶に照射し,ラメラ構造(球晶内部の板状の結晶構造)の空間配置やラメラ間相関などを定量的に解明することに初めて成功しました。また,結晶化過程における球晶構造が発達する様子を,マイクロビームX線小角散乱の高速時間分解測定に基づいて追跡することにも成功しました。一連の研究により,球晶の局所的なナノ構造分布や構造発展に関して,これまでの手法では捉えることのできなかった数多くの知見を得ることができました。野末さんの研究は,マイクロビームX線小角散乱法の技術開発を通じて高分子構造研究分野のさらなる発展に重要な契機を与えたものとして,高く評価されました。

授賞式および受賞講演は2007年1月12〜14日に広島市で開催された第20回日本放射光学会年会で行なわれました。


図1 内部にねじれたラメラ構造を持つリング状球晶の偏光顕微鏡写真(上)
顕微鏡で観察される境界線の左側、右側でマイクロビームを走査。
左下、右下 に示す110反射の方位角分布変化を得た。

 



図2 ポリプロピレン球晶の変形中に、顕微鏡像の赤点領域に
マイクロビームを照射し、小角−広角散乱を同時測定した。



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