ピコ秒時間分解X線測定

足立伸一・野澤俊介
2010
916日更新

·  keyword: pump-probe, picosecond pulse X-ray, single-bunch, bunch structure, synchrotron oscillation, bunch length, femtosecond pulse laser, photo-induced phenomena, photochemical reaction, solar cell, photosynthetic reaction

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放射光実験では、一般に放射光を擬似的な連続光源として利用する場合が多いですが、本来放射光は時間幅約100ピコ秒(半値全幅)程度のパルス光源です。放射光のパルス性の起源について簡単にまとめてみます。

蓄積リング中を周回している電子は、放射光を放出することによりエネルギーを失います。失われた電子のエネルギーを補うために、電子は周期的な加速を受けています。この周期的な加速のために、複数個の電子が一箇所に集まった「電子バンチ」と呼ばれる集団が形成され、電子の集団としてリングの中を周回しています。電子バンチの進行方向の長さ(バンチ長)は約30mm程度であり、このバンチ長に対応して、約100ピコ秒の時間幅をもつ放射光が蓄積リングから常に放射されます。これを「放射光のパルス性」と呼びます。

放射光のパルス性の動画Institute for Storage Ring Facilities http://www.isa.au.dk/

Electron Injection, Storage and Synchrotron Radiation Light Generation
in the Storage Ring ASTRID.
(Credit: Coldvision Studio/ISA)

放射光のパルス性を利用することにより、100ピコ秒以上の時間分解能で時間分解X線実験を行うことができます。PF-ARNW14Aで行われている、放射光パルスとレーザーパルス光を組み合わせた時間分解測定についてご紹介します。

実験概要

PF-ARは常時シングルバンチ運転が行われており、電子バンチが蓄積リングを1周すると1回だけパルスX線が放射されます。PF-ARのリング周長(378m)を光の速度で割ると、リング1周にかかる時間は1.26マイクロ秒。つまり、1.26マイクロ秒に1回(周波数794kHz)の繰り返しで放射光が放出されています。

この放射光パルスの周期と、レーザー光の周期を同期させることにより、レーザー光で励起されたものの構造・電子状態などを放射光で時間分解測定することができます。

PF-ARは常時シングルバンチ運転という非常にユニークな運転を行っています。したがって、他の放射光施設と違って、時間分解X線実験を行うためのビームタイムが比較的潤沢に確保できる点がPF-ARで時間分解X線実験を行う大きなメリットとなっています。ビームラインNW14Aでは、このような利点を生かして、X線結晶回折、X線溶液散乱、X線吸収微細構造測定など様々な放射光X線測定法に対して、時間分解測定を適用しています。

パルスレーザー光による励起など、外部からの刺激により、100ピコ秒以上の時間オーダーで時々刻々と変化する測定試料の構造や電子状態を、放射光X線で捉えることができます。例えば、以下のような測定例があります。

 

固体(非晶質・単結晶・粉末)、液体、気体など、基本的になんでもOKです。ただし、レーザー光と放射光を組み合わせた実験の場合、通常の放射光実験ではあまり気にしない実験条件として、「光の侵入長のマッチング」を事前に十分考慮することが必要になります。

「光の侵入長のマッチングについて」 レーザー光と放射光を組み合わせた実験の場合、レーザー光が侵入していないところまでX線では侵入してしまうということが往々にして起こり、測定がうまく行かない原因となります。物質の組成によりX線の侵入長は比較的簡単に計算できますが、励起光の波長における試料への光の侵入長は、事前に吸収スペクトルを測定しておくことを強くお勧めします。

 

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