光電子−光イオン同時計測実験装置(EICO)

担当者: 柳下 明
5633(PHS4449)
akira.yagishita@kek.jp


1.概  要

この装置は、内殻励起分子の解離過程において重要な役割を果たすオージェ電子放出による脱励起過程と、解離生成イオンとの相関を解明することを目的として設計された実験装置である1)。その後、対称性分離分光法2)や配向した分子からの光電子角度分布測定3)(図1、2)、或いはイオン−イオン、電子−電子の角相関測定といったフィールドフリーでの同時計測実験に使用され現在に至る。


2.性  能

このEICO装置では、平行平板型静電式エネルギー分析器(PPA)3台、飛行時間型質量分析器(TOF)1台、追い返し電極付きイオン検出器(RID)、セクター型静電式エネルギー分析器(SEA)を、目的に応じて組み合わせて用いることができる。(例えば、オージェ電子−光イオン同時計測実験では、TOFとPPAなど)PPAまたはTOFは、回転台に固定することができる。最近行われた改造により、PPA2台を水平及び鉛直方向に固定した状態でも、回転用PPAは、水平方向を0°として光軸の周りに−10°から100°まで回転出来るようになった。試料ガスの導入には、回転台の軸に固定されたノズルを用いるが、スキーマーを用いた超音速分子線を利用することも可能である。ただし、この場合には、回転範囲が制限される上に、RIDまたはSEAを取り付けることが出来なくなる。



図1.EICO装置のセットアップ例の模式図。
   配向した分子からの光電子の角度分布測定の場合。

3.計測器系

計測器系としては、ORTEC社製の位置敏感型検出器系に必要なNIMモジュールが2式とパルス計測用の標準的なNIMモジュールが2式用意されている。また、必要に応じて、Advantest社製プログラマブル電源、セイコー社製の2次元マルチチャンネルアナライザー(2D−MCA)も利用できる。この2D−MCAのADCは、セイコー社製タイムデジタイザー(マルチストップ型;最大8ストップ)に変更することも可能である。


4.その他

本装置は、気体試料を扱うので、実験中の真空度の悪化は避けられない。検出器(マイクロチャンネルプレート及びチャンネルトロン)の使用環境としては、劣悪な状況なので、実験に際しては、検出器の取扱、特に放電による破壊に注意してほしい。チェンバーを大気圧にした後は、十分に時間をかけて真空を引いた後に電圧を徐々にかけるとか、必要に応じてエージングを行う等の基本的な放電予防策を励行してほしい。装置の改造や計測系の更新を行うこともあるので、実験を計画される場合には最新の状況を担当者に確認されたい。なお、本装置に関する取扱説明書的なものはない。


5.参考文献

  1. E. Shigemasa et. al., Rev. Sci. Instr. 63, 1505 (1992).
  2. 繁政英治, 柳下明, 「日本物理学会誌」Vol. 50, p. 27 (1995).
  3. E. Shigemasa, J. Adachi, K. Soejima, N. Watanabe, A. Yagishita, and N.A. Cherepkov, Phys. Rev. Lett. 80, 1622 (1998).


図2.図1に示したセットアップでの測定例:
   C1s→σ*形状共鳴における配向したCO分子からの光電子の角度分布。
   平行遷移の場合。


Last modified : 2000-03-15