軟X線発光分光器

担当者:柳下 明
内線5660(PHS 4449)
akira.yagishita@kek.jp



1.概 要

 この装置は、軟X線領域の発光測定の為に開発された分光器である。放射光を軸として分光器を回転することによって、偏光依存の測定が可能である(図1)。[文献1参照]

 

図1.ビームライン側から見た発光分光器 (a) depolarized配置、(b)polarized配置
   Ein:入射光の偏光、ESXE:発光の偏光方向

 

2.性 能

 この発光分光器は、Rowlandマウントタイプの軟X線分光器を基本としている。擬似的な発光点である入射スリットとグレーティングの位置は固定で、検知器がRowland円上を移動する機構になっている(図2)。検知器の移動は3軸制御になっていて、コンピュータから制御される。検知器は2次元のマルチチャンネル検知器で、検知器面の中心がRowland円に接するように設置される。従って、検知器面の周辺部では収差が大きくなるが、2次元の画像処理によって分解能を維持している。
 分光器にはグレーティングが2枚取り付け可能で、その2枚は真空を破らずに交換できる。グレーティングを選べば20〜1200eVの範囲で測定可能であるが、ビームラインとの兼ね合いで、現在5mと7mのグレーティングが設置されている(図3)。従って、実際の測定範囲は200eV〜1200eVである。ただし、励起光のエネルギー範囲は250〜1400eVである。(ビームラインBL-2C参照)。
 本装置には標準で循環型のHe冷凍機が設置されている。到達温度は約40Kで、連続的温調が可能である。また、本装置には電子エネルギーアナライザーCLAM2(VG社)が設置されている。Au等の光電子を測ることで、励起エネルギーの補正が可能である。また、十分真空を上げれば、発光と光電子の同時測定が可能となる。
 発光は表面敏感で無いので、通常の測定では超高真空で行われていない。標準的な真空度は1×10-9 Torr程度である。これは、検知器や冷凍機のベーク温度が上げられないのも一因であるが、丁寧なベークをすれば10-10 Torr台での測定は可能であると考えられる。
サンプルは準備槽からトランスファーされる。サンプルホルダーの制約から、サンプルの大きさは8×8mm2程度に制限される。


図2.各種グレーティングによる焦点面

 

図3.エネルギー分解能ΔE。スリット幅10μmのときray traceによって得られた値。

 

3.計測器系

 検知器はQuantar Technology社のレジスティブアノードタイプの2次元マルチチャンネル検知器を使用している。上述したように、Rowland円には検知器の中心で接しているので周辺部で収差が大きくなっている。本装置では、収差による像の歪を考慮して積算することで、分解能をあまり落とさずに測定可能になっている。
 分光器をビームラインに設置した際の光源点の位置によって検知器駆動パラメータが変化するので、設置するごとにパラメータの調整が必要である。検知器面におけるエネルギー分散は計算によって求められるが、正確では無い。最終的にはユーザーの責任においてエネルギーの補正をする必要がある。polarizedの配置では弾性散乱が観測されることが多いので、補正は比較的簡単である。しかし、depolarized配置の場合、弾性散乱が全く観測されないこともたびたびであるので、注意が必要である。既に十分測られている標準サンプルを用意するとか、蛍光(特性X線)で補正するとかが必要がある。

 

4.その他

 本装置で用いている検知器にはマルチチャンネルプレートが使用されているので、高圧をかける際には放電等に注意が必要である。特に真空を立ち上げた当初は高圧によるガスの放出があるので、十分ゆっくり昇圧されたい。また、光検知の為に光電面にCsIが塗布されている。吸湿性があるので、長時間大気にさらすことは厳禁である。
 本装置は、施設スタッフに代わって「軟X線発光」ユーザーグループが共同で維持・管理している。本装置を使用する場合、施設スタッフとの相談に加えてユーザーグループとの相談が必要である。初心者のユーザーは、ユーザー代表者と相談するか、習熟したユーザーとの共同実験にされたい。
 特に、偏光依存の実験の際にはユーザー同士の協力が不可欠なので、予めご相談されたい。分光器は偏光を変えたり装置がずれたりすると調整を行わなくてはらない(調整には約1日)。維持管理の都合上、一期のマシンタイムでは偏光の変更はしないことを原則としている。つまり、特別の事情が無い限り変更依存の実験は二期に渡って行わなければならない。あるマシンタイムでの偏光をどちらにするかはユーザー間の話し合いになる。ただし、他のユーザーに影響が無いことを前提に、習熟したユーザーが自己責任で行うのはこの限りではない。

ユーザーグループ代表
弘前大学 手塚泰久
   Tel: 0172-39-3642
e-mail: tezuka@si.hirosaki-u.ac.jp

 

図4.(上)TiO2単結晶の吸収スペクトル[2]。a〜mは共鳴ラマン散乱の励起エネルギーを示している。

 

 

図5.(右)TiO2単結晶の偏光依存共鳴ラマン散乱 [2]。0eVのピークは弾性散乱、点線はラマン散乱を示す。ここでは電荷移動励起によるラマン散乱が観測されている。棒線はTi 3d→2p蛍光。

 

 

 

5.参考文献

1. Harada et al., J. Synchrotron Rad., 5, 1013 (1998)
2. Harada et al., Phys. Rev. B61, 12854 (2000)


Last modified: 2005-04-13