BL-16A 可変偏光軟X線分光ステーション

ビームライン担当者:雨宮健太
6027(PHS4729)
kenta.amemiya@kek.jp


 

1. 概要

 BL- 16Aは,APPLE-II型アンジュレータを光源とし,円偏光,縦横直線偏光など,軟X線領域の各種偏光が利用できるビームラインです。不等刻線間隔平面回折格子を用いた斜入射分光器[1]により,250-1500 eV程度の単色軟X線を利用することができます。Fe, Co, Niなどの3d遷移金属のL吸収端におけるX線吸収分光法(XAFS)やX線共鳴散乱(XRS)において,磁気円二色性(MCD)や磁気線二色性(MLD)の測定を行うこと,および直線偏光依存XAFSに波長分散型XAFS法を組み合わせることによって固体表面における化学反応の実時間追跡を行うことを主な目的としています。
 2010年夏には2台目のアンジュレータが設置されて直列配置となり,キッカー電磁石と組み合わせることで10 Hz程度の偏光スイッチングが可能になる予定です[2-4]。これによって,MCDやMLDの感度が2-3桁向上し,極微小なシグナルの観測が可能になるとともに,秒以下の時間スケールで起こる表面化学反応中の分子の配向変化を実時間追跡することも可能になります。
 図1に光学系の概略を示します。アンジュレータからの放射光はトロイダル鏡M0で垂直方向は入射スリット(S1)へ,水平方向は回折格子VLSGの直下流へと集光されます。S1を通った白色光は,円筒鏡M1,偏角を変えるための平面鏡M2,および不等刻線間隔平面回折格子VLSG (500, 1000 l/mmの2種が利用可能)からなる分光器によって波長分散され,出射スリットS2(もしくはS2’)によって単色化されます[1]。Mpはビームを振り分けるための平面鏡で,2つのブランチのうち片方を選択できます。なお,波長分散XAFS測定を行う場合にはS2 を5 mm程度にまで開くことで,10-20 eV程度のエネルギー範囲の光を一度に取り出します。S2(S2’)を通過した光はトロイダル鏡M3(M3’)によって試料位置へと集光されます。M3は曲率半径の違う2枚の切り替え式のトロイダル鏡からなっており,それぞれ試料位置F1およびF2に集光することができます。また,M3’は試料位置F3への集光を行いますが,M3’を退避させるとマイクロビーム光学系(図には示していません)に光が導かれ,Fmに集光されます。

図1 光学系の概略図

なお,カバーするエネルギー領域が重なるステーションとして,挿入光源ではBL-2A/B,BL-13Aなどが,偏向電磁石光源ではBL-7A, BL-11Aなどがありますので参照ください。


2. 性能

BL-16Aで利用可能なエネルギー範囲は,偏光モードによって異なり,以下のようになっています。
円偏光: 297 – 1000 eV
水平直線偏光: 180 – 1500 eV
垂直直線偏光: 380 – 1500 eV
楕円偏光: 218 – 1500 eV
これらの偏光モード,およびエネルギーは,実験中随時変更することができます。
図2に,分解能(E/ΔE)を一定にした場合の光子数の計算値を示します。また,図3に窒素ガスを用いた分解能と光強度の測定例を示します。試料位置におけるビームサイズは,ポートによって異なりますが,F1-F3においては,おおむね0.5-0.1 mm(垂直)×0.1-0.3 mm(水平)程度です。

図2 分解能(E/ΔE)を一定にした場合の光子数の計算値

  図3 窒素ガスを用いた分解能と光強度の測定例


3. 実験装置

図4に正しい縮尺での実験ステーションの配置を示します。装置の配置はフレキシブルに行いますが,基本的にはF1には波長分散型XAFS装置と共鳴磁気散乱測定装置が入れ替え式に設置され,F2には超電導電磁石を用いたXMCD測定装置が常設されています。F3は持ち込み装置を含めていくつかの装置を入れ換えて利用することができるポートで,深さ分解XAFS測定装置や共鳴散乱測定装置を設置しています。Fmにはマイクロビームと深さ分解XAFSを組み合わせた3次元XAFS装置が常設されています。

図4 実験ステーションの配置図



[共同利用実験で利用できる実験装置]
1. 超電導電磁石XMCD測定装置
最大磁場 5T,最低試料温度 30K,電子収量法(試料電流)および蛍光収量法(シリコンドリフトディテクター)による測定が可能。

2. 常伝導電磁石XMCD測定装置
最大磁場 1.2T,最低試料温度 30K,電子収量法(試料電流)および蛍光収量法(MCP)による測定が可能。

3. 深さ分解XMCD測定装置 [5,6]
角度分解型の部分電子収量法測定によって,原子層レベルの深さ分解測定が可能。印加磁場はパルスで0.05-0.1T程度(測定中は磁場印加不可),最低試料温度100K。

[利用できる周辺装置]
測定系制御用PC一式(Windows7,STARS使用)
光強度モニター(Auメッシュおよびミラーカレント)
ピコアンメータ
V-Fコンバータ
8チャンネルカウンター

4. 参考文献
[1] K. Amemiya and T. Ohta, J. Synchrotron Rad. 11, 171 (2004).
[2] T. Muro et al., AIP Conf. Proc. 705, 1051 (2004).
[3] T. Muro et al., AIP Conf. Proc. 879, 571 (2007).
[4] T. Muro et al., J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 144-147, 1101 (2005).
[5] K. Amemiya et al., Appl. Phys. Lett. 84, 936 (2004).
[6] K. Amemiya, Phys. Chem. Chem. Phys. 14 10477 (2012).



2015-03-27