BL-27A 放射性試料用軟X線実験ステーション(建設立ち上げ中)
担当者:宇佐美徳子
5643(PHS:4581)
noriko.usami@kek.jp
1.概 要
BL-27は非密封RI管理区域内に設置され,放射性物質および核燃料物質を試料として用いることのできるビームラインであり,BL-27Aと27Bの2つのブランチがある.BL-27Aは
1.8 - 4keV の範囲の軟X線を得ることができるステーションである.非密封RI管理区域と通常の放射線管理区域(実験ホール)との境界として,ビームライン内にメッシュで裏打ちされたカプトン(ポリイミド膜)があるため,1.8keV
より低いエネルギーの軟X線は実用的な強度では得られない.
現在,生物用単色軟X線照射装置と光電子分光装置の2つの装置がタンデムに常設されている.生物用単色軟X線照射装置では,軟X線ビームを2枚のカプトン(ポリイミド)窓を通して空気中に取り出して用いることも可能である.
図1.BL-27の光学系。
2.性 能
光学系 |
前置集光鏡[Ni-coated Si, bent-cylindrical]+2結晶分光器[InSb(111)平板] |
エネルギー領域 |
1.8 keV - 4 keV[InSb(111)] |
分解能 |
ΔE/E ~ 10-3 |
ビームサイズ |
~ 20 mm (H) ×4 mm (V)(生物照射装置真空槽内)
~ 8 mm (H) ×4 mm (V)(生物照射装置空気中) |
ビーム強度 |
400kR/min(生物照射装置真空槽内)
60kR/min(生物照射装置空気中)at 2.1keV |
図2.生物照射装置空気中で測定したスペクトル.
3.装 置
- 生物用単色軟X線照射装置
真空中,空気中の両方で,試料に単色軟X線を照射することができる.どちらの場合も,ビームサイズより広い面積の試料にも均一に照射できるように試料スキャン機構を有している.
軟X線の強度は通常自由空気型電離箱で空気中で測定し,真空中での強度はこの値を吸収補正して求めている.また試料への照射中は光路中に設置されているアルミニウム蒸着マイラに流れる光電流を常時モニタすることができる.これらの測定値はすべてPCを用いて測定・記録することができる.
また,本ステーションのある非密封RI管理区域内には隣接して生物試料準備室があり,生物試料の調製,分析などが可能である.
図3.生物用単色軟X線照射装置.
S:スリット,IM:強度モニタ,FS:蛍光板,SH:真空照射用サンプルホルダ,
PW:ポリイミド窓,IC:自由空気型電離箱.
- 光電子分光装置
仕様については担当者に問い合わせること.
4.このビームラインでの研究分野および実験例
単色放射光を用いた放射線生物作用誘発機構に関する研究と、光化学あるいは物質科学の研究が主に行われています。それぞれの分野での研究内容および成果は以下の通りです。ウラン等の核燃料物質を用いた実験も行われています。
4a.放射線生物効果の研究
DNAのリン原子や他の元素の内殻吸収によるオージェ効果の生物作用の研究が行われている。
- Kobayashi, K., Hieda, K., Maezawa, H., Furusawa, Y., Suzuki, M., and Ito,
T., Int. J. Radiat. Biol., 59, 643-650 (1991).
- Watanabe, M., Suzuki, M., Watanabe, K., Suzuki, K., Usami, N.,Yokoya, A.,
and Kobayashi, K., Int. J. Radiat. Biol., 61, 161-168 (1992).
- Hieda, K., Hirono, T., Azami, A., Suzuki, M., Furusawa, Y., Maezawa, H.,
Usami, N., Yokoya, A. and Kobayashi, K., Int. J. Radiat. Biol., 70,
437-445 (1996).
- M. Maeda, K. Kobayashi and K. Hieda., Int. J. Radiat. Biol. 80,
841-847 (2004).
4b.内殻電子励起による表面化学反応の研究
固体表面に吸着した分子や有機ポリマー、生体分子などを対象とし、放射光を照射したときの表面化学反応過程を調べることにより、内殻電子励起による高選択的化学反応実現の可能性を探るとともにその反応機構を明らかにする。
- T. Sekiguchi and Y. Baba, Surf. Sci. 433-435 (1999) 849.
- 関口哲弘, 馬場祐治, 放射光 13 (2000) 147.
- Y. Baba, T. Sekiguchi and I. Shimoyama, Surf. Rev. Lett. 9 (2002).
- Y. Baba, Low Temperature Physics 29 (2003) 228.
4c.新規低次元物質の探索と電子構造の解明
炭素以外の元素を含む新しい低次元物質(グラファイト、フラーレン、ナノチューブ構造など)を探索し、その電子構造をX線光電子分光法、偏光XAFSなどにより明らかにする。
- Krishna G. Nath, I. Shimoyama, T. Sekiguchi and Y. Baba, J. Appl. Phys.
94 (2003) 4583.
- Krishna G. Nath, I. Shimoyama, T. Sekiguchi and Y. Baba, Appl. Surf. Sci.
234 (2004) 234.
- Y. Baba, T. Sekiguchi, I. Shimoyama and Krishna G. Nath, Appl. Surf. Sci.
234 (2004) 246.
5.その他
- 使用できる放射性物質核種および量については規定があるので,実験計画を立てる前に担当者に相談すること.
- 放射性物質を用いる実験の場合,最低1ヶ月前に放射線管理室への届け出が必要である.
- 本ステーションは非密封RI管理区域内に存在するので,入退室はゲートモニタを通る必要がある.入退室はすべてIDカードで管理されており,放射性物質を使用しない実験であっても非密封RI区域内での実験のための手続きが必要なため,担当者と事前に相談すること.
6.参考文献
- H. Konishi et al., Nucl. Instrum. Methods A372, 322(1996).
BL27全般.
- K. Kobayashi, Proc. of International School of Physics 'Enrico Fermi' Course
CXXVIII, IOS Press, 333(1996).
生物照射装置および生物試料準備室について記述されている.
Last modified
2010-04-01