担当者: 小出 常晴
5673(PHS:4208)
tsuneharu.koide@kek.jp
光学系 | 図1及び図2を参照 |
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エネルギー領域 | 250 eV-1.5 keV(分光器の実質上の利用範囲) |
分解能 | 最高でE/ΔE〜5000(入口と出口スリット=10μm,E=400eV.図3参照) |
円偏光度 | PC≦92%(第1ハーモニックピーク位置で最高) |
ビームサイズ | 〜0.8mm(H)×0.2mm(V) |
ビーム強度 | アンジュレータースペクトルは図4参照(分光器の入口・出口スリット=40μm) |
図1.NE-1Bの分光光学系配置 [1]。分光器は逆Vodar 型の縦分散球面回折格子分光器である。
図2.AR-NE1B 円偏光軟X線分光ステーションの分光器、後置鏡、及びメッシュモニター槽
(中央左奥から右斜下へ)。
図3.N2のN 1s→π*吸収スペクトル。回折格子は1200本/mmで入口スリットと出口スリットの巾はともに10μm。
これより最高分解能がE/ΔE〜5000と見積られる1)。
図4. 典型的なヘリカルアンジュレータースペクトル。基本波エネルギーが〜860 eVの場合。
永久磁石型吸収MCXD測定装置(図5) この装置は,永久磁石を用いて磁場の向きを反転させながら,光吸収又は光電子全収量MCXD測定を行うことを目的とする。 |
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図5.上流側から見たXMCD測定装置 |
4.その他
本節では、AR-NE1Bステーションでの軟X線円偏光とXMCD測定装置を利用した、代表的な研究例を提示する。
4.1 Co/Pt 磁性人工格子のCo L2,3 内殻XMCD
Co/Pt 磁性人工格子は、Co 層が薄くなると垂直磁気異方性(PMA)を示すことが知られている。PMAの起源を解明するために、XMCD実験が行われた。
図6はPt 層厚(7.5 ML)を固定し、Co 層厚を変化させたCo(tCo ML)/Pt(7.5 ML) 磁性人工格子(1.5
≤ tCo ≤ 29 ML)の、偏光依存Co L2,3 内殻XASとCo L2,3
内殻XMCD[2]を示す。図にはtCo=3.5 MLと15 MLの結果だけを示してある。細い実線で示した2段ステップバックグラウンドを差し引き、XASとXMCDの積分が実行された。
XMCD軌道総和則を適用して面直軌道磁気モーメント(m⊥orb)を求めた結果を図7に示す[2]。m⊥orb(tCo)は、tCo = 6-8 MLで極小値を取り、tCoがそれより減少すると急激に増大し、tCoがそれより増加するとゆっくり増大する。実験データは単純な一本の1/tCo則に全く合わない。この不思議な結果は従来のXMCD研究で観測されなかった。このパズルの解答は、図7の挿入図に示される。即ち、tCo ≤ 7 ML におけるm⊥orbの急激な増大は界面Co原子1層程度で生じており、tCo = 6-8 MLでfcc Co→hcp Co 構造相転移が起こる、という最も単純なモデルで良く再現される(図7の太実線)。ここにバルクCoに対して、morb(fcc Co) < morb(hcp Co)とした。フィッティングよりΔm⊥orb(界面Co)=0.064μB/Co, morb(fcc Co)=0.110μB/Co, morb(hcp Co)=0.148μB/Co が得られた。この結果と他の円偏光ビームラインでのVUV域XMCDと合わせて、Δm⊥orb(tCo(界面Co)がPMAを生じさせるが、Δm⊥orb(tCo(界面Co)は界面での3d-5d起動混成に起源があることが示された。
図6. (a) Co(tCo ML)/Pt(7.5 ML) 磁性人工格子のtCo=3.5 MLと15 MLに対する光子ヘリシティ依存Co L2,3 内殻XAS。細い実線はXASのバックグラウンドを示す。 (b) XASにおける820 eV 以上のエッジジャンプで規格化したCo L2,3 内殻XMCD (文献[2]より)。 |
図7. XMCD軌道総和則を用いて、図3のXMCDとXASスペクトルから決定した面垂直方向のCo 軌道磁気モーメントのtCo依存性。
実線は挿入図のモデルに基づいたデータフィッティングを表す。破線は全てのCo 層がfcc と仮定した場合の外挿を示す(文献[2]より)。
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4.2 ペロブスカイト型Mn酸化物のMn L2,3 内殻XMCD
R1-xAxMnO3(R = La, Pr, Nd; A = Ca, Sr,
Ba)で表されるペロブスカイト型Mn酸化物は、巨大磁気抵抗効果、電荷・軌道整列、強磁性金属/反強磁性絶縁体転移などのバラエティーに富んだ物性を示す。これらの現象の起源を明らかにするために、正孔濃度を0
≤ x ≤ 0.8の広範囲に渡って変化させたLa1-xSrxMnO3+δのMn
L2,3 内殻及びO K 内殻XMCDが、詳細に研究された[3]。図8(a)-(f) にB
= ±2 Tの磁場で測定したMn L2,3 内殻XASとXMCDの結果を示す。図8(b)(d)(f) の破線はXMCDのエネルギー積分である。次の点が注目される:(i)
反強磁性相と言われていたLaMnO3とLa0.2Sr0.8MnO3において、強磁性相の1/7〜1/10程度の明瞭なXMCDが観測された,(ii)
Mn L2,3 内殻XMCDは強磁性金属相と強磁性絶縁体相で大差がない、(iii) LaMnO3にわずか6%の過剰酸素導入により、大きなXMCDを示す強磁性絶縁体相が現われ、これは酸素原子がこの物質の磁性に大きく影響することを強く示唆する。
(i) は、2種類の格子歪みに起因するDzyaloshinsky-Moriya 相互作用が働くため、c軸に残った非常に小さい弱強磁性成分の検出を示し、Solovyevの理論的予言を初めて実証した。図8の結果にXMCD軌道総和則と角度平均スピン総和則を適用して、mspin(Mn)とmorb(Mn)のx依存性が定量的に調べられた。さらに、OK
内殻XMCDの結果も一緒に考慮して、この系の磁気モーメント、格子歪み、軌道混成の密接な関連が示された[3]。
図8.
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5.その他
・後置鏡:最下流の平面鏡で出射ビームの方向を調整できる。
・入射光強度モニター:後置鏡(M6)からの光電子イールド、及び後置鏡の直後にある金メッシュから生ずる光電子イールドを測定する。 アンジュレータースペクトルの確認にはM6光電子イールドが、XMCD実験のモニターには金メッシュのイールドを用いる。
・ビームラインの高さ:1200mm(但し±20mm程度の調整範囲が必要)
・出射フランジの大きさ:ICF070
・取扱説明書:A3一枚のマニュアル(クリアファイル入り)およびA4数枚の詳しいビームライン使用マニュアルが備え付けられている。
6. 参考文献
Last modified 2005-04-05