安達弘通博士が第25回本多記念研究奨励賞を受賞

2004年3月15日


 物質科学第一研究系助手の安達弘通さんが、「結晶中のSm3+イオンの磁性に関する研究」に関する業績により、第25回本多記念研究奨励賞を受賞されました。 贈呈式は2004年5月14日(金)に、学士会館(東京都千代田区)にて行われます。

<受賞題目について>
 本多記念奨励賞は、わが国の物理冶金学の先駆者である「本多光太郎博士」を記念する財団法人本多記念会が、理工学特に金属およびその周辺材料に関する優れた研究を行った若手研究者に対し、その成果を顕彰するとともに、今後の発展を奨励する事を目的とする賞です。
 安達弘通氏の受賞題目は「結晶中のSm3+イオンの磁性に関する研究」であり、その内容は1997年から2001年までに発表された主に5編(Phys. Rev. B56, 349(1997), Phys.Rev. B56, R5744(1997), Phys, Rev. B59, 11445(1999), Nature 401, 148(1999), Phys. Rev. Lett. 87, 127202(2001))の論文がその対象となっています。安達氏は、hcp-Smや化合物結晶中のSm3+イオンの特異な磁性とその起源を、それらの磁気測定と理論計算により明らかにしました。その結果、従来の磁性体理論の枠内では記述が困難であったSm3+の磁化−温度特性を見事に説明することに成功しました(Phys. Rev. B56, 349(1997), Phys, Rev. B59, 11445(1999))。そして、その微視的スピン磁化の測定をPF-ARNE1A1ビームラインの円偏光X線を用いた磁気コンプトン散乱を用いて行い、その理論の正当性を検証されました(Phys.Rev. B56, R5744(1997))。さらに、スピン磁化と軌道磁化とが完全に打ち消し合う補償温度を利用して、漏洩磁界を発生させずに全てのスピンを一方向に揃えることが出来る特性がわずかにSm3+を磁性希土類イオンに置き換えることによって可能である事を示し、新しい型の磁性素子を提案されました(Nature 401, 148(1999))。そして、その状態の検証を、世界に先駆けたヘリシテイー反転・磁気コンプトン散乱法(高エネルギーX線(150keV)の円偏光度を交互に逆転させて測定する)によって見事に成功されております(Phys. Rev. Lett. 87, 127202(2001)、http://focus.aps.org/story/v8/st13(この論文は米国物理学会がPhys. Rev. Lettに掲載された論文の中から一般向けに興味がありそうな研究成果を選択しているfocusに取り上げられ、このwebサイトに紹介されています))
 今回の受賞では、同氏の磁性物理学における理論的な成果とそれを検証する形での放射光を用いた磁気コンプトン散乱実験が取り上げられておりますが、安達氏は非共鳴X線磁気散乱を用いた希土類磁性イオンのスピン形状因子の系統的な測定や非共鳴X線回折実験を用いたDy2B2C2の四重極秩序の研究等を一方で進めておられます。現在は1年間、文部科学省在外研究員として Ecole Centrale Paris のCortona教授のもとで研究を進められております。今後益々の安達氏の活躍を期待する次第です。

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