陽子ビーム・ミュオンビーム輸送系

  ミュオン科学研究系(MUSE)のビームライン電磁石 RCSで3GeVまで加速された陽子はミュオン標的に衝突し、そこで生成されたミュオンはMUSEビームラインの電磁石によって各実験エリアへ輸送される。 MUSEに建設された4本のビームラインのうち、最初に稼働したのが崩壊ミュオンビームライン(Dライン)である。Dラインでは偏向電磁石(DB2)がミュオンビームを40度曲げて、下流にある2つの実験エリア(D1エリア、D2エリア)にビームを導いている。さらにD1エリアの最下流には3連の四重極電磁石(D1トリプレット)が設置されて、実験試料に照射するミュオンビームの形状を最適化している。

図1. 陽子ビームラインとDライン

 

 ミュオンビームは偏向電磁石によって方向を変え、トリプレット電磁石と呼ばれる3連の四重極電磁石によって収束発散を繰り返しながら実験エリアまで導かれる。これは光学でいう凸レンズと凹レンズの組み合わせによって焦点距離を制御するのに良く似ている。偏向電磁石とトリプレット電磁石はビーム軌道計算(Beam optics)に基づく磁場を満足させるため、3次元電磁場プログラム(OPERA-3d)を用いた詳細設計によって、磁極、リターンヨーク、エンドシム、コイル形状、エンドガード(field clamp)等に様々な工夫が施されている。

 

図2. OPERA-3dを用いて製作したDB2の磁場解析モデル

 

 偏向電磁石のコイル換装 崩壊ミュオンビームライン(Dライン)に設置されている偏向電磁石(DB2)は製造から40年以上経過した電磁石であり、有機絶縁体の含まれるコイルの経年劣化が懸念事項であったため、新コイルへの交換を行うことにした。また、将来的に120MeV/c以上の高運動量ミュオンを用いた実験の需要が生じた場合にも対応できるように、新コイルには冷却水路数を増設(図3)することによって冷却能力を向上させ、大電流を伴う運用が可能となる高度化が行われた。新コイル交換後に磁場測定を行い、コイル換装前後で磁場の相違が無いことを確認した(図4)。

 

 図3. コイル換装前(左)および換装後(右)のDB2

図4. コイル換装前後での磁場測定結果(400A通電時におけるホールプローブを用いた鉛直磁場(By)のビーム軸方向への引き抜き、磁極端がZ=0, フリンジがZ<0, 磁極方向がZ>0)

 DラインのD1実験エリアの最下流に設置されているD1トリプレット電磁石(DQ10-11-12)は最大67MeV/cのミュオンの輸送が限界であったが、90MeV/c以上のミュオンを用いた実験のニーズに対応するため、高運動量のミュオンの輸送が可能なトリプレット電磁石および電源への交換を行った(図5)。新トリプレット電磁石はコイル巻数の増加により、各磁極間のピッチおよびエンドガードの位置が旧トリプレット電磁石と異なるため、染み出し磁場(fingering field)の干渉効果と有効磁場長を考慮した電流の最適化が必要であった。このため、ビーム輸送プログラム(Transport)を用いて励磁電流を最適化し(図6)、D1トリプレット通過後のビームサイズが交換前後で変わらないように最適化電流によるチューニングが行われ、現在稼働中である。

図5. 旧トリプレット電磁石(左)と新トリプレット電磁石(右)

図6. 新トリプレット電磁石設置後の30MeV/cミュオン輸送時のビームエンベロープ

 
(担当:湯浅貴裕)