田中健一郎氏,河野正規氏が平成20年度日本化学会学術賞を受賞

2009年4月21日


 日本化学会の平成20年度学術賞を,フォトンファクトリーと関係の深い2名の方が受賞されました。日本化学会学術賞は,化学の基礎または応用のそれぞれの分野において先導的・開拓的な研究業績を挙げた者に対して贈られる賞です。

第26回日本化学会学術賞(物理化学系分野(基礎及び応用))
田中 健一郎氏(広島大学大学院理学研究科教授)
化学結合切断の制御に向けた軟X線光化学の研究
Study of Soft X-Ray Chemistry Applied to Control of Chemical Bond Scission

 田中氏は,1985年から1995年までPFの助教授として在職されていた間,またその後広島大学に移られてから現在まで,一貫して軟X線領域の放射光を用いた内殻励起光化学反応の研究を展開し,多くの成果を挙げられました。
PFスタッフ時代には,軟X線領域の大強度・高分解能分光器の設計・製作に尽力されました。また,PFの単バンチ運転化を提案し,これは田中氏の研究分野だけでなく,放射光を利用した多くの分野での時間分解実験に大きく寄与しています。田中氏は,放射光パルスをトリガーとした飛行時間型イオン検出法を開発され,表面に化学吸着した分子の内殻励起イオン脱離反応過程についての研究を推進されました。特に,PMMA高分子薄膜のイオン脱離反応においては,気相分子系では観測が困難であった内殻励起原子近傍での結合切断による「サイト選択的イオン脱離反応」を世界で初めて観測しました。
 このように田中氏は,早い段階から軟X線領域の放射光を用いた内殻励起によるサイト選択的イオン解離反応が,化学結合を自在に切断する「分子メス」の有力な候補であることに着目し,実現に向けた研究を推進されました。その成果の例として,メチルエステル基(COOCH3)を最表面に配列した自己組織化単分子膜(SAM)において,結合切断のサイト選択性を90%以上という高いものにすることに成功しました。また,直線偏光した励起光の照射角度を選ぶことにより結合切断の効率が自由に制御できること,また結合にあずかる原子の選択的励起により,脱離イオンの断片化が激しく進行したり,逆に抑制されたりする切断様式を見出すなど,多くの成果を挙げておられます。

 

第26回日本化学会学術賞(無機化学・分析化学系分野(基礎及び応用))
河野 正規氏(東京大学大学院工学研究科准教授)
結晶空間設計に基づく反応過程や不安定種のX線直接観察
X-Ray Direct Observation of Reactions and Labile Species on the Basis of Crystal Design

 河野氏は,分子が自在に運動できる「結晶空間」を固相反応場として活用することで,固相反応を溶液反応のような自由度で,かつ単結晶性を維持したまま進行させる手法を確立し,これにより反応過程や不安定化学種のX線直接観測が可能になりました。河野氏は,中空構造の錯体や細孔性ネットワーク錯体のつくる結晶空間に着目し,この空間で化学反応を行えば,反応基質の自由度を失わず,また単結晶性を損なわずに反応が進行し,生成物は空間による保護を受け安定化すると考えました。この着想により,さまざまな反応中間体や不安定種をX線で直接観察することに成功しました。この成果は「単離可能で結晶化する化合物でなければ結晶構造解析は行えない」というこれまでのX線構造解析の常識を覆すものであり,この分野に大きな進展をもたらしました。これらの構造解析の一部はPF-ARのNW2Aを用いて行われており,その成果の一部は,News@KEK,PFトピックスなどでも紹介されています(下記リンク参照)。

自己組織化で作成したナノサイズのカプセルにフッ素液滴の閉じ込めに成功

「ナノ空間」をつくる -自己組織化する巨大な分子-


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日本化学会 各賞受賞者一覧

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