担当者:阿部 仁
2010年8月30日更新
実験概要
時分割XAFSとは、概ね秒オーダー以下の時間分解能で測定できるXAFS実験法を指します。この手法によって、化学反応の実時間追跡等が行われています。
一方、通常のXAFS実験では、1本のスペクトルを測定するのに数分以上かかります。これは分光器を少しずつ動かして入射X線のエネルギーを次々と変え、各エネルギー点毎に測定して行くためです。
現在、時分割XAFSの手法として、Quick XAFS (QXAFS)法とDispersive XAFS (DXAFS)法が知られています。QXAFS法はその名の通り、ビームラインにある分光器を高速掃引することによって、短時間の内にスペクトルを測定する方法です。また、DXAFS法はモノクロメータを使ってエネルギーを掃引する替わりに、ポリクロメータを用いて、目的とするXAFS領域を同時に測定する方法です。QXAFS法は通常のビームラインの構造のまま行えるので、時間分解能ではDXAFS法に劣りますが、測定は簡便です。
まず、ビームラインにある分光器を高速掃引することによって、短時間の内にスペクトルを測定する方法であるQXAFS法について説明します。通常のXAFS測定では入射X線のエネルギーを変えてはある時間をかけて信号を蓄積し、また次のエネルギーに変える、ということを順次行います。QXAFS法では各エネルギー点でモノクロメータを止めずに掃引しながら信号を測定します。集光系を備えた最近のビームラインでは1011 s-1程度の光子束が得られるので、濃厚な試料の場合には1点当たり10 msも蓄積すれば充分なS/N比が得られます。このため、QXAFS法を用いて1本のXAFSスペクトルを1秒以下から数十秒程度で測定することができます。
左は通常のStep scanでのXAFS測定の概念図、右はQuick scanでのXAFS測定の概念図です。
Step scanでは、モノクロメータがデータ測定時には止められていますが、Quick scanでは1本のスペクトルを測定する間モノクロメータは止めずに測定します。
次に、ポリクロメータを用いて、目的とするXAFS領域を同時に測定するDXAFS法について説明します。この手法では、モノクロメータを用いずに実験ハッチ内まで白色光を導きます。ハッチ内の光学系で湾曲結晶(ポリクロメータ)を用いてエネルギー分散を角度分散に変換し、位置敏感検出器を用いてスペクトル全域を同時に測定します。検出器にはフォトダイオードアレイ(PDA)やX線用CCDが用いられています。測定中に機械的に動く部分が全くないので、安定であると共に高速化が可能です。
DXAFS測定の分光結晶、サンプル、検出器の配置の概念図です。(A)はBragg配置、(B)はLaue配置と呼ばれます。
PFでは時分割XAFSを行うために、上述のQXAFS法とDXAFS法が利用できるビームラインを整備してあります。
QXAFS法はBL-9C, BL-12C, NW10Aで利用可能で、これらのビームラインを合わせて4 — 42 keVのエネルギー領域をカバーしています。DXAFS法はNW2Aで5 — 45 keVの範囲で利用可能です。
通常のXAFS実験でわかることが時間分解能を持ってわかります。時間分解能は利用する手法(QXAFS or DXAFS)や試料の濃度等に依りますが、数秒程度から最高でサブナノ秒程度です。
通常のXAFS実験では、次に示すように、結合距離等が元素選択的にわかります。始めの5つは主にEXAFSから、後の2つは主にXANESから得られる情報です。QXAFS法やDXAFS法によって、これらの情報が時間分解能を持ってわかります。ただし、通常の測定に比べシグナルの積算時間が短いため、ある程度のS/Nの悪化やエネルギー分解能の低下は避けられません。
基本的に通常のXAFS実験が行える形態のものは測定可能です。通常のXAFS測定は固体を対象に行う場合が多いですが、固体、液体、気体、いずれの相での可能です。周期的な構造を有する結晶だけでなく、ガラスのような非晶質の局所構造を調べられることが特徴です。また、基板上の薄膜のようなものの測定も可能です。さらに、X線回折では測定困難な微粒子の測定も可能です。ただし、DXAFS法では透過法のみ利用可能ですので、X線が透過する試料である必要があります。
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