表面研究用コインシデンス分光装置は、超高真空槽、コインシデンス分光器、測定系から構成される。超高真空槽はBL-8A用(高さ1330 mm)、とその他のビームライン用(高さ1200 mm)の2台が用意されている。それぞれ、2段のターボ分子ポンプ、非蒸発ゲッターポンプによって排気されており、到達圧力は1〜2×10-10 Torrである。また、xyzステージと差動排気型中空回転導入から構成される試料マニピュレーターとガス導入ライン、コインシデンス分光器取り付け用の外径203mmコンフラットフランジポートが設置されており、シリコン清浄表面用試料ホルダー(図2)と凝縮分子用試料ホルダーも用意されている。
図2.シリコン清浄表面用試料ホルダー全体の写真(左)と先端部の写真(右)。通電加熱により1200℃まで加熱でき、液体窒素により100Kまで冷却できる。
コインシデンス分光器としては、電子−イオンコインシデンス分光器[1-3]、電子−極角分解イオンコインシデンス分光器[3, 9]、オージェ−光電子コインシデンス分光器[3, 10]の3種類が用意されており、実験の目的に合ったコインシデンス分光器を超高真空槽に取り付けて実験を行なっている。また、測定用モジュール、ソフトウェアも整備されている。電子−イオンコインシデンス分光器は同軸対称鏡型電子エネルギー分析器(分解能:E/ΔE=80〜100、立体角:1.2 sr)とミニチュア飛行時間型イオン質量分析器、xyzステージ、傾き調整機構から構成されている(図3)。光電子あるいはオージェ電子を同軸対称鏡型電子エネルギー分析器で検出し、そのシグナルをトリガーとして脱離イオンの飛行時間スペクトルを測定する。電子放出と同時に脱離したイオンは特定の飛行時間にピークを形成するので、容易に質量と収量を測定できる。
図3.電子−イオンコインシデンス分光器の写真(左)と模式図(右)。
電子−極角分解イオンコインシデンス分光器(図4左)は同軸対称鏡型電子エネルギー分析器とミニチュア極角分解飛行時間型イオン質量分析器(図4右)、xyzステージ、傾き調整機構から構成されている。光電子あるいはオージェ電子を同軸対称鏡型電子エネルギー分析器で検出し、そのシグナルをトリガーとして脱離イオンの飛行時間スペクトルを測定する(図5左)。電子放出と同時に脱離したイオンは特定の飛行時間にピークを形成するので、容易に質量と収量を測定できる。コインシデンス収量をオージェ電子の運動エネルギーの関数としてプロットしたものがオージェ電子−極角分解イオンコインシデンススペクトル(図5右)である。また、アノードは同心円状に分割されているので、脱離イオンの運動エネルギー、脱離極角に関する情報も得られる。
図4.電子−極角分解イオンコインシデンス分光装置の模式図(左)と極角分解イオン検出器の拡大図(右)。
図5.電子−極角分解イオンコインシデンス分光の測定例[3, 9]。凝縮H2OのO 1s内殻準位を4a1最低非占有軌道に共鳴励起したときのオージェ電子−極角分解イオンコインシデンス飛行時間スペクトル(左)とオージェ電子−極角分解イオンコインシデンススペクトル(右)。
オージェ−光電子コインシデンス分光器は同軸対称鏡型電子エネルギー分析器とミニチュア円筒鏡型電子エネルギー分析器(CMA)、xyzステージ、傾き調整機構から構成されている(図6)。オージェ電子を同軸対称鏡型電子エネルギー分析器で検出し、そのシグナルをトリガーとして光電子をミニチュアCMAで測定する(図7左)。オージェ電子放出と同時に放出される光電子は特定の飛行時間にピークを形成するので、容易に収量を測定できる。コインシデンス収量をオージェ電子の運動エネルギーの関数としてプロットしたものがオージェ−光電子コインシデンススペクトル(図7右)である。
図6.オージェ−光電子コインシデンス分光装置の模式図(左)とミニチュアCMAの拡大図(右)。
図7.オージェ−光電子コインシデンス分光の測定例[3, 10]。Si(111)清浄表面のSi LVVオージェとSi 2p光電子をそれぞれ検出して測定したオージェ−光電子コインシデンス飛行時間スペクトル(左)とオージェ−光電子コインシデンススペクトル(右)。