担当者: 間瀬一彦
6107(PHS4440)
mase@post.kek.jp
BL-13A/Bは,プラナー型アンジュレータ[1]と不等刻線間隔平面回折格子を用いた斜入射分光器[2-4]を備えており,30〜1,600 eVの水平直線偏光した単色真空紫外軟X線を利用することができます[5]。角度分解紫外光電子分光,高分解能内殻光電子分光,高分解能軟X線吸収分光を中心として表面化学研究を推進することを主な目的としております。
図1に第1ブランチの光学系の概略を示します。アンジュレータ放射光は前置集光鏡M1により垂直方向は出射スリット(S)へ,水平方向は光源点から22.4 mの位置へと集光されます。平面鏡M2および平面不等刻線間隔平面回折格子VLSG(300, 1000本/mmの2種が利用可能)からなる分光器によって波長分散され,出射スリットSによって単色化されます[4]。Sを通過した分光光は後置集光鏡M3によって試料位置へと集光されます。M3は曲率半径の違う2枚の切り替え式のトロイダル鏡からなっており,それぞれ第1焦点位置(F1)および第2焦点位置(F2)に集光することができます。 現在,F1にはSES200光電子分光装置が常設されております(4節参照)。F1とF2の中間点(E1)とF2には実験装置持ち込みスペースが設けられております。持ち込める装置の大きさの目安は1 m×1 mです。実験装置を接続するためのダクトと差動排気装置も用意されております。
なお,カバーするエネルギー領域が重なるステーションとして,アンジュレータビームラインではBL-16A,BL-28A/Bなど,偏向電磁石ビームラインではBL-7A, BL-11D,BL-11Aなどがありますので併せて参照ください。
図1.光学系の概略図と実験装置設置エリア
本ビームラインの性能は,
・hυ = 30〜1,600 eVで利用可能、光フラックスは1012〜108 photons/s。(図2)[5]。
・最高光エネルギー分解能(E/ΔE)は表1の通り[5]。
表1.最高光エネルギー分解能(E/ΔE) [5]
光エネルギー | 64.1 eV | 244.3 eV | 401 eV | 867 eV |
Gr=300本/mm、スリット幅30μmでのE/ΔE | 10,000 | 3,600 | - | - |
Gr=300本/mm、スリット幅100μmでのE/ΔE | 6,500 | 2,900 | - | - |
Gr=1000本/mm、スリット幅30μmでのE/ΔE | - | 7,700 | 7,100 | 7,200 |
Gr=1000本/mm、スリット幅100μmでのE/ΔE | - | 5,200 | 5,000 | 4,000 |
・出射スリット幅40 μmでのF2でのスポットサイズは約630 μm(水平)× 120 μm(垂直)(F1におけるスポットサイズはこの1/3程度,約210μm(水平)× 40 μm(垂直)と推定)[4]
・hυ= 244 eVでの光エネルギーのドリフトは 0.02 eV以内[4]。
・炭素K 吸収端(hυ= 275〜295 eV)における光強度の低下は最大2〜4%程度[6]。
です。アンジュレーターギャップとエネルギーは,実験中随時変更することができます。ビームラインマニュアルも用意しております。
図2.BL-13Aの光量とエネルギー分解能[5]。
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図3.光学素子の炭素汚染除去前後の炭素K 吸収端 |
3.光強度モニター,フィルター,放射光エネルギー較正装置
後置鏡チェンバーの直下流に光強度モニター,フィルター用超高真空槽(図4)と放射光エネルギー較正用超高真空槽(図5)を設置しております。Mg,Al,Siフィルターを使いますとhυ= 49,72,98 eV以上の高次光をある程度除去できます。また金メッシュにより相対的な光強度を,Siホトダイオードにより絶対的な光強度をそれぞれ測定することができます。さらに放射光エネルギー較正用超高真空槽でN2,He,Ne,Ar,Kr,Xeガスや高配向熱分解黒鉛(HOPG),Si(111)の吸収スペクトルを測定することによってエネルギー較正や分解能測定を行なうことができます。本装置で測定したHOPGの炭素K吸収端での軟X線吸収スペクトルを図6に示します。
図4.光強度モニター,フィルター用超高真空槽 図5.放射光エネルギー較正用超高真空槽
図6.HOPGの炭素K吸収端軟X線吸収スペクトル。奥平幸司氏(千葉大院融合)提供。 |
4. 実験装置
第1焦点位置(F1)には光電子分光装置(SES-200,Scienta,到達圧力2×10-8 Pa),試料作製用超高真空装置,有機試料蒸着用超高真空装置(図7),試料加熱冷却面内回転トランスファー機構(図8)を常設しております。この装置を用いて,高分解能角度分解光電子分光,高分解能内殻光電子分光,高分解能軟X線吸収分光,高分解能内殻光電子分光を行なうことができます。本装置を用いて測定したSi(100)表面の角度分解紫外光電子スペクトルを図9に示します。また,Si(100)-2×1の Si 2p光電子スペクトルを図10に示します。
図7.光電子分光装置,試料作製用超高真空装置,有機試料蒸着用超高真空装置 | 図8.試料加熱,冷却,面内回転,トランスファー機構 |
図9.SES200で測定した清浄Si(100)表面と汚れたSi(100)表面の角度分解紫外光電子スペクトル。二階微分の強度をプロットした。光エネルギー 150 eV (G 300本/mm) 出射スリット 30 μm,パスエネルギー 20 eV,アナライザースリット No. 500,Low Pass Mode。小澤健一氏(東工大院理工)提供。 | 図10.SES-200で測定した室温におけるSi(100)-2×1の Si 2p光電子スペクトル。Phoibos 100で測定した低温でのSi(100)-c(4×2)の Si 2p光電子スペクトルも併せて示した。小澤健一氏(東工大院理工)提供。 |
5.BL-13B
2013年3-4月に表面化学研究用高輝度真空紫外軟X線ビームラインBL-13Aを分岐して,光電子分光器用光学系(BL-13B,図11)と光強度モニター用超高真空槽を設置しました。光エネルギー範囲と光エネルギー分解能はBL-13Aと同様(図2参照,[5]ですが,2°入射4°振りの高次光除去平面鏡(図12)が設置されているため,クロム蒸着面,ニッケル蒸着面を利用すると,炭素K吸収端領域,窒素K吸収端領域の高次光をそれぞれ除去することができます。4-6月に調整を行ない,7-9月にBL-13Aの光電子分光装置SES-200を移設して第2期から共同利用への提供を始める予定です。
図11.光電子分光器用光学系(BL-13B)。 |
図12.2°入射4°振りの高次光除去平面鏡。 |
6.さらに詳しく知りたい方のために
BL-13AおよびSES200光電子分光装置に関してさらに詳しく知りたい方のために下記の資料を用意しました。参照ください。
BL-13Aの詳細
BL-13Aのマニュアル
SES200光電子分光装置の詳細(小澤健一氏(東工大院理工)提供)
7. 参考文献
[1] S. Sasaki, S. Yamamoto, T. Shioya, and H. Kitamura, Rev. Sci. Instrum. 60, 1859 (1989).
[2] K. Amemiya and T. Ohta, J. Synchrotron Rad. 11, 171 (2004).
[3] K. Mase, A. Toyoshima, T. Kikuchi, H. Tanaka, K. Amemiya, and K. Ito, AIP conference proceedings 1234, 703 (2010).
[4] A. Toyoshima, H. Tanaka, T. Kikuchi, K. Amemiya and K. Mase, J. Vac. Soc. Jpn. 54, 580 (2011).
[5] A. Toyoshima, T. Kikuchi, H. Tanaka, K. Mase, K. Amemiya, and K. Ozawa, J. Phys.: Conf. Ser. 425, 152019 (2013).
[6] A. Toyoshima, T. Kikuchi, H. Tanaka, J. Adachi, K. Mase, and K. Amemiya, J. Synchrotron Rad. 19, 722 (2012).