X線小角散乱

2005年 7月 4日更新


概要:どんな小角散乱・回折実験が出来るのか

ステーションの選択

    どんな小角散乱実験がどのステーションの装置に適しているかを判断するとき、主な要件として
  • 試料の形状:{溶液、ウェット、固体}、あるいは{配向、無配向}、
  • 測定領域:小角優先、小中角、広角(小〜高角)、
  • 2次元像記録の要・不要(検出器のタイプ)、
  • 時分割測定の要・不要(時間分解能)、
  • 必要なビーム強度とサイズ
  • などが挙げられます。

    いずれのステーションも偏向電磁石を光源とするビームラインに建設されていますので入射X線ビームの最大強度には大きな違いはありませんが、採用されている光学系の違いによるビーム断面のサイズや形状、利用できるカメラ距離や検出器の種類で、それぞれの小角散乱装置としての長所が異なっています。ステーションを選択する際の大まかな指針は次表のようになります。

    表 測定条件から見たステーションの特性
     試料の種類・形状可能測定領域2次元像記録
    (使用検出器)
    時分割測定
    (実用分解能)
    焦点サイズ
    (横×縦)
    BL-15A制約なし小、中角(カメラ組換え)IP、II+CCD(事前打合要)最小〜20ミリ秒0.3mm×0.3mm
    BL-10C横配向不適小、中角(カメラ組換え)IP(回折は不向き)最小〜100ミリ秒1.5mm×0.5mm
    BL-9C横配向不適広角(小〜高同時測定)IP、II+CCD最小〜1秒1.1mm×0.5mm

装置の特徴と代表的な実験例

  • X線小角散乱装置(BL-15A)
      特徴
    • 点集光の光学系が採用されているので縦横の空間分解能が高く、2次元回折実験に適しています。
    • BL-10C、9Cに比べてX線ビームの輝度が高いのでスリットによるビームの切り出しが有利となっています。 光学系設定の自由度は高いですが、独自の設定には経験が必要になります.
    • 汎用の検出器として、1次元PSPCのほか、IPとII+CCDの2次元検出器を備えています。 II+CCDを使うことで10ミリ秒オーダーの分解能で2次元SAXS時分割測定ができる唯一のステーションです。
    • X線波長は1.5Åの固定モードで用いられています。

    • 典型的な実験例
       ○筋収縮に伴う筋繊維からの回折像の変化をPSPCやII+CCDを使って数十ミリ秒の分解能で記録する時分割測定実験。
       ○ストップトフローによる酵素反応やタンパク質のunfolding-folding過程の散乱像の変化をII+CCDを使って記録する時分割測定実験。
       ○金属・高分子合金の相変態過程のII+CCD、PSPCによる実時間観測。

  • 溶液用小角散乱実験装置(BL-10C)
      特徴
    • 擬似点集光型の光学系を持つため1次元PSPCによる1次元(縦)方向のデータ収集が基本となっています。
    • IPによる2次元データの取得も可能ですが、この場合、横スリットでビーム断面の縦横比が同じ程度になるまでビームを切り込む必要があります。
    • 合成高分子の熱的相転移やタンパク質集合体の解離・会合など遅い反応に対しては最小100ミリ秒程度の時分割測定が可能です。
    • X線の波長は、通常、1.5Åに設定されていますが波長可変なビームラインなので1.2〜2.4Åの範囲で容易に変更が可能です。 Fe、Co、Ni、CuなどのK-吸収端を利用した異常X線散乱実験が可能です。

    • 典型的な実験例
       ○タンパク質の溶液中の形態とサイズおよび基質の結合による形態変化など静的構造解析のためのPSPCによる一次元SAXS測定実験。
       ○ブロック共重合体のミクロ相分離過程やホモポリマーの結晶化過程のPSPCを使った数十秒分解能での時分割測定実験。
       ○脂質−タンパク質複合体中の脂質ドメインの構造や脂質ミセル・ベシクル構造のSAXSおよびWAXS実験

  • 小中角散乱装置(BL-9C)
      特徴
    • 最大の特徴は、2台の1次元PSPCを同時使用できるようカメラが設計されている点で、小中角測定に加えて高角の回折像測定(WAXS)が行えます。
    • 疑似トロイダルミラー光学系を使用しているため、擬似点収束で1次元(縦)方向のデータ収集が標準ですが、非対称なスリット配置になっておりX線ビームの収束精度は比較的高い。
    • そのため、横スリットでビームの横幅を切り込んだ場合、その分だけ強度は減少しますが、配向構造解析を含めた二次元測定(IP、II-CCD)が可能となります。
    • X線の波長は、通常、1.5Åに設定されていますが、10C同様、0.54〜2.4Åの範囲で波長は容易に変更が可能です。
    • 試料周りの環境は、かなり自由にユーザーが変更することが可能です。

    • 典型的な実験例
       ○結晶性および非結晶性高分子ブロック共重合体の階層構造を求めるためのSAXS-WAXS同時測定
       ○リン脂質−水系の熱的相転移構造のX線回折・熱量同時測定実験(SAXS-WAXS-DSC同時測定)
       ○結晶性ブロック共重合体のミクロ相分離構造中の結晶配向構造解析
       ○油中水滴型(O/W)エマルション中の油滴粒子中の油脂の界面不均一核形成のその場観察(SAXS-WAXS-DSC同時測定)

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