高輝度・ナノビーム特性を活かしたサイエンス
はやぶさが地球に持ち帰った微粒子の分析
2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還に日本中が沸きたちました。2003年5月の打ち上げ以降、数々のアクシデントを乗り越えて、小惑星イトカワからサンプルを採取する7年間にわたるミッションを遂行し、採取したサンプルカプセルだけを地球上に送り届けて大気圏で燃え尽きたはやぶさの姿に、大きな感動を覚えた方も多かったことでしょう。
はやぶさが地球に持ち帰ったサンプルには、どのような謎を解くカギが隠されているのでしょう。
約四六億年前、地球が誕生する前の宇宙の極低温環境には、鉱物と有機物と氷からなる「塵」が豊富に存在し、この塵が徐々に集まって惑星を形成していったと考えられています。特に、有機物は、炭素、酸素、窒素、水素から成り立っており、地球上の生命の起源と深い関係があります。約四六億年前、地球が誕生する前の記憶が、小惑星には今も残されており、はやぶさが小惑星から持ち帰ったサンプルには、地球誕生・人類誕生の謎を解くカギが隠されていると期待されています。
はやぶさが持ち帰ったのは、大きさが10マイクロメートル以下の微粒子です(*1)。その主要な成分であると考えられている鉱物と有機物が、微粒子の中でどのような組成で、どのように分布しているかを精密に、しかも非破壊で調べるためには、微粒子のサイズよりもさらに小さいX線ビームが必要になるでしょう。ERLを利用すれば、現在最先端の放射光施設で、微粒子の分析に用いられているX線のビームよりも、さらに小さく集光されたX線を実現できます(*2)。ERLが発生する放射光ナノビームは、小惑星探査機によるサンプルリターンのミッションで、今後次々ともたらされる約四六億年前の記憶を解き明かす有効な手段となると期待されます。
(1) 宇宙航空研究開発機構(JAXA)プレスリリース記事 「はやぶさカプセル内の微粒子の起源の判明について」(2010年11月17日)
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101117_sac_hayabusa_j.html
(2) 宇宙航空研究開発機構(JAXA)プレスリリース記事 「はやぶさカプセル内の微粒子の初期分析の中間結果について」(2011年3月11日)
http://www.jaxa.jp/press/2011/03/20110311_hayabusa_j.html