非線形光学 of ERL情報サイト



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時間コヒーレンス特性を活かしたサイエンス

X線非線形光学

 非常に強い光と物質が相互作用する場合、物質の応答は光の電場強度に比例せず、高調波の発生などに代表される、多彩な光学現象が現れます。これを扱うのが非線形光学であり、赤外から可視、紫外光の領域ではレーザーの出現によって大きく発展してきました。一方、X線領域では、時間コヒーレンスを持つX線レーザーが実用化されておらず、X線非線形光学効果の利用研究はまだ限定的です。これまでに高輝度放射光を用いたパラメトリック下方変換の研究例(*1)などが報告されています。

 ERLでは、パルス幅がフェムト秒領域になるため、時間コヒーレンスを実現しやすくなるという利点があります。 現在の第3世代放射光では、パルス幅が100ピコ秒程度であり、時間コヒーレンスを実現するためには、10の-9乗程度のエネルギー分解能が必要となります。これに対して、ERLのパルス幅が2桁程度短いので、10の-7乗程度のエネルギー分解能でパルス幅とコヒーレント長が同程度になります。このエネルギー分解能を実現するには10keV領域のX線に対して、meV分解能の分光器を用いればよいことになります。ERLから得られる時間コヒーレントX線を用いることで、X線領域での非線形光学効果の系統的な検討が可能になると期待されます。

 さらに共振器型X線自由電子レーザー(XFEL-O)が実現すれば、meVのエネルギー分解能で、1パルスあたり、10の9乗個の光子が放出されるため、X線非線形光学効果の利用研究を大きく進展させることが期待されます。たとえば、X線領域の波長可変性を、分光結晶ではなく、非線形光学結晶で実現することが将来可能になるかもしれません。


(1) Kenji Tamasaku and Tetsuya Ishikawa "Interference between Compton Scattering and X-Ray Parametric Down-Conversion"; Phys. Rev. Lett. 98, 244801 (2007)