時間コヒーレンス特性を活かしたサイエンス
X線領域の多次元エコー分光
非線形光学を利用した四波混合の測定として、アト秒~フェムト秒オーダーの遅延時間を持つ、時間コヒーレントな2つのX線パルスを利用したX線光子相関分光が理論の立場から提案されています。(*1) この手法では、1つ目のX線パルスで特定の電子を非平衡状態に励起し、2つ目のX線パルスで別の電子を励起・検出することにより、2種類の電子間の相互作用の時間発展を測定するものです。原理的には、この手法はスピンエコーを利用した2次元NMRのX線版といえます。2次元NMRでは、2つ(以上)のラジオ波パルスを用いて、時刻をずらして2つの核スピンを励起し、核スピン間の相関を検出することで、原子間距離等の情報を導きます。2次元X線光子相関分光では、電子間の相関のダイナミクスを直接検出することになります。このような情報の応用範囲はまだ自明ではありませんが、現在の放射光科学が得意としている電子密度分布(Φの2乗)の時間平均の情報を超えて、「波動関数(Φ)の直接観測と量子状態の制御」という新しいサイエンスの方向性が想像されます。
(1) Igor V. Schweigert and Shaul Mukamel; "Coherent Ultrafast Core-Hole Correlation Spectroscopy: X-Ray Analogues of Multidimensional NMR", PRL 99, 163001 (2007)