2018S1-001
水惑星学創成のためのSTXM分析拠点の形成と応用

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→関連サイト;新学術領域研究「水惑星学の創成」
       BL-19紹介ページ
       物構研「はやぶさ2」微粒子分析 特設サイト

●基本情報

 ●実験責任者:高橋 嘉夫(東大理)
 ●課題有効期間:2019/3〜2023/3
 ●実験ステーション:19A
 ●関連課題:2013S2-003(走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いたサステナブル科学の推進)
       2016S2-002(STXM炭素学: 局所化学種解析による有機物の進化と機能の解明)

●課題の概要
 走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscopy: STXM)は、主に軟X線領域でフレネルゾーンプレート(FZP)を使うことで30 nm以下の高い空間分解能で元素のマッピングを得ながら、局所的にX線吸収微細構造(XAFS)によって元素の化学状態を評価できる手法である。対象元素は炭素などの軽元素から重元素に及び、STXMは非常に汎用性が高くハイスループットな装置である。そのため、対象となる応用分野は、基礎的な物性科学や物理化学から、より応用的な色彩の強い材料科学、地球惑星科学、環境科学、微生物学などに渡る。我々は、2012年度以降、独自の設計・開発による世界最小のコンパクトなSTXM(cSTXM)を開発し、BL-13Aで運用させて頂き、顕著な成果を挙げてきた。一方、これまでの問題点として、BL-13AはcSTXM以外に様々な装置が2つのブランチに配置されており、各研究グループが慢性的にマシンタイム不足の問題を抱えていた。特にcSTXMは30 nmの空間分解能を持つ繊細な装置であり、可能であればcSTXMの運用を主とするビームラインで安定に運転することが望ましい。またBL-13Aは、分析可能なエネルギー範囲が250-1600 eV程度であったが、BL-19建設・APPLE-II型アンジュレータの利用により、利用可能なエネルギー範囲が100-2000 eVに拡がれば、地球惑星科学において重要なリン、イオウ、ケイ素なども新たに対象元素に含められ、分野進展に大きな貢献が期待できる。さらにBL-19Bでは、軟X線領域のマクロビームが利用でき、これはSTXM-XAFSの解析に必須な標準試料のXAFSを得る上で極めて有効である。
 このような中で、我々は科研費・新学術領域研究「水惑星学の創成」とKEK-PFの産業利用イノベーションの資金により、BL-19の建設とそのcSTXMへの運用をPFと共同で進めることになった。特に「水惑星学」への応用に当たっては、100-2000 eVという幅広いエネルギー範囲の利用が重要な要素となる。また、BL-19Bに新設される軟X線領域のバルクXAFS分析システムも、STXM解析に必要な標準試料分析を行う上で強力な武器になると期待される。
 本S1課題では、この新BL-19AにおけるSTXM分析拠点の構築を進めると共に、「水惑星学の創成」における中心課題である地球外物質(帰還試料や隕石試料)へのSTXMの応用に必要な基盤構築も進める。これまでの地球外物質科学は、地球に降下する隕石や宇宙塵の化学分析により発展してきたが、これらの地球外物質はどの天体を起源とするのか、天体におけるどのような地形・地質に由来するのかが不確定であるという問題を残してきた。この問題を克服するために、研究対象の「母天体・地質・物質組成」を明確に対応づけた上で、太陽系の起源と進化や惑星環境を解明するのがサンプルリターンに代表される惑星探査である。このアプローチは、最新の太陽系科学の世界的な潮流であり、得られた試料の分析において、非破壊で有機物まで対象にできる高空間分解能顕微鏡であるSTXMは、その分析において極めて重要な位置を占めている。
 そこで本課題により、地球外物質のSTXM分析の基盤構築を行うと共に、その応用研究を強力に推進する。具体的には、日本が進める代表的なサンプルリターン計画である「たんぽぽ計画」や「はやぶさ2」ミッションで直接採取された地球外物質の帰還試料の分析を軸とし、火星隕石などのその他の地球外物質を対象にして、cSTXMの応用を進める。この他、(i) 過去に水が存在したことが確実な火星を起源とする火星隕石のSTXM分析、(ii) STXMによる固体分析から得られる情報に基づく過去の水環境の推定方法の開発、(iii) 惑星の気候変動に関わるエアロゾル中の吸湿性物質の特性評価、(iv) 生命の起源に関わる微生物分析へのSTXMの応用法開発、などの地球外物質や関連研究へのSTXM研究も推進する。
 このように本S1課題では、新BL-19の建設とBL-19におけるSTXM分析拠点の構築を推進すると共に、「水惑星学」への応用のための基盤形成とそれによる応用研究を推進する。特に帰還試料へのSTXM分析の適用は、地球惑星科学分野における世界的潮流であり、こうした社会的関心が高い分野の拠点を形成しインパクトある研究成果をあげることにより、本課題は学術成果だけでなく、放射光科学の重要性を広くアピールすることにも寄与すると期待される。また、それにとどまらず、本STXM拠点の形成は、日本の関連分野(物性科学、基礎化学、高分子化学、環境科学、農芸化学、生物学)の発展にも大きく寄与するものであり、そうした大きな波及効果を生み出すことは、元より新学術領域研究でも重視されている。さらに新BL-19では、従来のBL-13Aよりも高いコヒーレンスの光が利用できる見込みで、コヒーレンス光の回折現象を利用し、STXMよりさらに空間分解能が高いX線ptychographyへの展開も期待できる。このような次世代分析法の開発につながる点も、新BL-19建設の大きな意義である。
 このように、本S1課題によるSTXM拠点形成は、日本における放射光科学の発展と関連分野への展開を進め、世界的に優れた研究を多数生み出していくためのマイルストーンになると期待される。

●成果発表
 ●論文


 ●PF Activity Report

 ●PFシンポジウム

●その他