次元性の変化に伴う金属絶縁体転移の起源を解明 2010年6月4日
金は電気を通しますが、金の最小単位である金原子は電気を通しません。どのくらいの大きさから金は金としての性質を示すようになるのでしょうか? 言い換えると、通常の金(3次元)から金原子(0次元)へと次元性を低下させたときに電子状態がどのように変化するのでしょうか。金属を薄くしていくと、これまで3次元的に自由に動いていた電子は、徐々に2次元的な動きしかできなくなり、次元性の低下に伴った量子効果が見られるようになりますが、一般的な金属は原子一層にしても金属的な伝導は保つことが知られています。 しかしながら、強相関電子系と呼ばれる伝導性酸化物においては、その厚さを薄くしてゆくと、ある厚さから金属的な性質が絶縁体的な性質に変わることが知られていました。東京大学大学院工学系研究科の吉松公平 日本学術振興会特別研究員、組頭広志 准教授、尾嶋正治 教授、および同理学系研究科藤森淳教授の研究グループは、オークリッジ国立研究所の岡本敏史博士のグループと共同で、遷移金属酸化物薄膜を薄くしていったときの電子状態を直接観測することがこの次元性による金属絶縁体転移の起源解明につながると考え、放射光を用いた光電子分光法により、代表的な伝導性酸化物であるSrVO3薄膜の変化を詳細に調べました。 SrTiO3単結晶の上にSrVO3薄膜を一層ずつ丁寧に積み上げるたびに精密な測定を行い、SrVO3薄膜の電子状態の変化を調べました。その結果、本質的には金属であるSrVO3薄膜の膜厚を薄くして二次元状態に近づけると、電子の状態が変化し絶縁体になることを発見しました。さらに、最新の理論計算と組み合わせることで、今回観測された金属絶縁体転移は、二次元状態にすることで電子の運動エネルギーに相当するバンド幅が徐々に小さくなり、ついには電子と電子の間の相互作用よりも小さくなってしまうことがその起源であることを明らかにしました(図)。 この研究は、本研究グループがこれまで開発を進めてきた酸化物結晶育成レーザー分子線エピタキシー-光電子分光複合装置を用いて、フォトンファクトリーの軟X線アンジュレーターステーションBL-2Cで行いました。 この装置は、育成した酸化物薄膜を大気に取り出すことなくその場で観測できる世界的に見てもユニークな装置です。本装置を用いて不純物の影響を極限まで排除した結果、本質的な電子状態の変化を観測することが可能になりました。 本研究の成果はPhysical Review Letters誌2010年4月号に掲載されました。 K. Yoshimatsu, T.Okabe, H. Kumigashira, S. Okamoto, S. Aizaki, A. Fujimori and M. Oshima : Dimensional-Crossover-Driven Metal-Insulator Transition in SrVO3 Ultrathin Films. Phys. Rev. Lett., 104, 147601 (2010).
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