光源性能 of ERL情報サイト



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エネルギー回収型ライナック光源(Energy Recovery Linac)情報サイト

ERLの光源性能に関する質問

フォトンフラックス

Q: PFで使えるフラックスと、ERLを比較すると? (構造物性ユーザーグループ)
Q: X線を集光して直径50ミクロンに切り出した場合、ERL のフラックスはどの程度になりますか?(高圧ユーザーグループ)
Q: エネルギー領域は問題ありませんが、トータルフラックスは10**9~10**10 photons/sは得られるのでしょうか?(酵素回折計ユーザーグループ)
A: PFの光源パラメータ、ビームラインの光学素子の仕様やエネルギー分解能などを特定しないと定量的なフラックスの比較ができませんので、ここでは放射光スペクトル計算による結果を元に、定性的にお答えします。PFのパラメータを用いて、アンジュレータ1次光のピークでのフラックスを計算すると、10の14乗(photons/sec/0.1%b.w.)程度です。これに対して、ERLのアンジュレータ1次光のピークでのフラックスを計算すると、10の15乗(photons/sec/0.1%b.w.)程度ですので、全フラックスという比較では、ほぼ同等と言えます。
しかし、PFとERLの大きな違いは、その輝度の値です。PFのアンジュレータ1次光のピークでの輝度は、10の17乗(photons/sec/mm2/mrad2/0.1%b.w.)であるのに対して、ERLのアンジュレータ1次光のピークでの輝度は、10の22乗(photons/sec/mm2/mrad2/0.1%b.w.)となり、ほぼ5桁の差があります。この違いを実感していただくために、光源から100m離れた場所でのビームサイズを考えてみます。
たとえば、PFのアンジュレータBL3を例に取って考えてみます。BL3の光源サイズは600μm(横)x12μm(縦)で、発散角は92μrad(横)x40μrad(縦)です。(いずれもガウス分布を仮定したときの標準偏差。)したがって、光源から100m離れた場所でのビームサイズは、約9.8mm(横)x4.0mm(縦)となります。
これに対して、ERLの場合は、光源サイズは7.5μm(横)x7.5μm(縦)で、発散角は3.5μrad(横)x3.5μrad(縦)です。したがって、光源から100m離れた場所でのビームサイズは、約358μm(横)x358μm(縦)となり、PFの放射光に比べて、非常に平行性の高い光であることが分かります。極めて大雑把に比較すると、ERLのビームサイズと発散角は、PFに比べてそれぞれ約2桁ずつ小さく、またERLのフラックスが約1桁高いので、その結果、輝度で比較すると5桁の差があることになります。
また空間コヒーレント長の見積から、光源から100m離れた場所で、光の波長0.1nmのX線について、このビームの200μm(横)x200μm(縦)の領域が空間的にコヒーレントな領域となります。


スペクトル、エネルギー範囲、エネルギー幅

Q: 各BLである程度自由に光子エネルギーが選択できるのかどうか。光子エネルギーの幅、あるいは DeltaE/E はどのくらいか。 (構造物性ユーザーグループ)
Q: 共鳴散乱などに関連して、エネルギー可変性とエネルギーの幅、高調波の有無が気になります。 (構造物性ユーザーグループ)
Q: アンジュレータのスペクトルが細かく振動しているようですが、実際に振動するのでしょうか?安定性に問題はないですか? (軟X線発光ユーザーグループ)
Q: ERLの場合、高エネルギーX線はどれくらいのエネルギーまで利用できますか?(高圧ユーザーグループ)
Q: ERLで白色光は利用できますか?(高圧ユーザーグループ)
Q: ERLのビームはコヒーレント光と言うことですが、スペクトルはどのようなも のでしょうか?白色ビームは使えるでしょうか?また、適度に波長幅の広いピ ンクビームを作ることは可能でしょうか?また、波長はどの程度まで短いもの が使えるのでしょうか?(X線トポグラフィーユーザーグループ)
A: ERLのエネルギースペクトルやエネルギー幅については、「光の特徴(2)」をご覧ください。アンジュレータ1次光は0.3%程度のエネルギー幅を有しています。
アンジュレータのスペクトル形状は、本来sinc関数であり、振動構造を持っています。ERLでは、有限のビームサイズによるスペクトル広がりの効果がほとんどないために、本来のアンジュレータスペクトル形状がそのまま現れます。
アンジュレータスペクトル形状からお分かりになる通り、ERLは高次光についても、ピーク輝度はゆるやかに低下します。従って、高エネルギーX線の有効な利用が可能です。逆に高次光の混入を避けたい場合には、別途、高次光除去機構を検討する必要があるでしょう。
アンジュレータスペクトル形状からお分かりになる通り、白色X線をERLのアンジュレータで実現しようとするのは、あまり得策ではありません。テーパードアンジュレータやマルチポールウィグラービームラインの利用が良いと思われます。

ビームサイズ

Q: 光は、どの位のサイズと発散角になるのでしょうか?(酵素回折計ユーザーグループ)
Q: ERLで水平方向10mm、鉛直方向4mm程度の「大きな」ビームは使えますか?(高圧ユーザーグループ)
Q: ビームをどの程度広げることができるのでしょうか?単純には、光源 でのビームの発散角がどのくらいか、および、実験ステーションを光源からど のくらいの距離のところに作る予定か、ということだと思います。また、その ときのフォトン密度はどのくらいになるでしょうか?(X線トポグラフィーユーザーグループ)
Q: 溶液試料の場合にはradiation damageを避けるため、一端、ビームサイズを(一桁程度)拡げて輝度を落とすのが望ましいのですが、発散角から見て実質上無理でしょうか?(酵素回折計ユーザーグループ)
Q: 光源スペックに対する集光光学系は現状の技術では難しいのでしょうか?(酵素回折計ユーザーグループ)
A: 現状の光源パラメータでは、ERLのアンジュレータ光源のビームサイズは7.5μm(横)x7.5μm(縦)で、発散角は3.5μrad(横)x3.5μrad(縦)です。
ERLのビームを広げる方向性について、原理的には光源から離れるのが最も確実な解だと思われます。ただし、光源から100m離れた場所でのビームサイズが縦横方向ともに360μm程度ですので、ビームサイズをミリオーダー以上に広げるためには、別の工夫が必要になると思われます。
表面加工精度等の問題から、これまで一般に使用されてきた集光光学素子を使って、X線領域での回折限界集光を実現することは不可能であり、回折限界集光を行うための光学素子の開発は、非常に重要な開発要素です。現在、世界中の様々な拠点で、ナノメートルオーダーの集光技術の開発が進められています。

空間コヒーレンス

Q: 光源と実験ハッチとの間にベリリウム窓を置くことが可能なのかどうか。ベリリウム窓のために、どれくらいコヒーレンスが劣化するか。(構造物性ユーザーグループ)
A: ベリリウム窓に限らず、空間コヒーレンスを保持するための光学素子の開発は、非常に重要な開発要素です。

時間構造、ジッター、安定性

Q: バンチに構造は作れるのかどうか。例えば1μ秒の連続バンチの後に4μ秒電子無しとか、逆に完全な均等バンチ運転ができるかどうか?(構造物性ユーザーグループ)
Q: 各バンチの時間軸の揺らぎ(ジッター)はあるのか。各バンチの強度の揺らぎはあるのか?(構造物性ユーザーグループ)
Q: ERLからのビームの時間的な安定性はどのようなものでしょうか?PFのトップ アップ運転時のように安定でしょうか?(X線トポグラフィーユーザーグループ)
A: ERLの運転モードとしては、高コヒーレンスモードやショートパルスモードなどいくつかのモードが想定されており、運転モードによって、異なるバンチ構造が採用される可能性があります。
ERLのバンチ間のタイミングジッターについて、現状では定量的に把握されていません。これまでに線形加速器ベースの放射光源で行われた、パルスレーザーと放射光の同期実験では、数百フェムト秒程度のタイミングジッターがあることが報告されています。
ERLのビーム強度の時間安定性について、現状では定量的に把握されていませんが、SASE-XFELとは異なり、原理的に強度の不安定性を作り出すような要因はなく、現在の蓄積リングと同等以上の強度安定性が実現可能であると予想されます。

その他

Q: 超低エミッタンス蓄積リング光源と、ERLとの違いは何ですか?
A: どちらの光源も回折限界光の発生、高輝度、高繰り返し(連続光利用)を目指した光源といえます。
最も大きな違いは、ERLが線形加速器をベースとしている点であり、低エミッタンス性、短パルス性について、蓄積リング光源が実現できる性能を上回っています。



Q&Aの最終更新日 : 2011-07-15