2014S2-003
結晶場解析による新しい量子格子液体系物質の研究

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●基本情報
 ●実験責任者:澤 博(名古屋大学)
 ●課題有効期間:2014/4〜2017/3
 ●実験ステーション:8A, 3A, 4C, 8B

●課題の概要
 物性物理学の分野では、強相関系物質における特異な量子状態について多くの研究が行われているが、我々は量子液体状態に着目して研究を進めている。強相関絶縁体中では、物性に寄与する電子軌道がクーロン相互作用による自発的対称性の破れにより縮退を解き、結晶状態となるのが一般的である。有限な相互作用を有するにも拘らず極低温まで液体状態を保つとされているのは、量子状態が打ち勝つヘリウム、相互作用が弱いスピン液体などである。電子軌道そのものは1eV 程もある強いクーロン相互作用と空間的な異方性を本質的に持つため、液体状態を保てないと考えられてきた。最近、我々が発見した銅酸化物は低温で軌道秩序(軌道固体)、軌道液体状態の二つの平衡状態という特異な電子状態を示す(Science、Nature Commun.)。これらの系の軌道液体状態を実験・理論両面から多角的に解明し、同様な特異な物性を示す物質開発を行うことが主な研究の方向である。
軌道液体を実現するためには、長距離クーロン相互作用を抑え、尚且つ縮退が解ける異方性を軽減することが必要である。この観点から、遷移金属酸化物系の軌道自由度を有する物質群の中で、Jahn-Teller活性なイオンクラスターの変形を抑える特殊なユニットを有する系を基軸として物質探索を行う。一方、三角格子配置ではスピンが液体状態を保つが、軌道は秩序状態を実現することが理論的に分かっている。軌道液体を実現するためには幾何学的な配置に蜂の巣格子が重要であることが理論的に予想されており、これらの指針に基づいた物質探索も行う。
一方、フロンティア軌道が分子全体に広がりを持つ分子性結晶では、そのクーロン相互作用は短距離空間に閉じ込められ、多彩な物性を示すことが明らかになりつつある。遷移金属の軌道液体に対応する分子軌道の分布自由度は、多くの分子性物質の性質を理解して、物質設計するための重要な役割を演じていることが予想される。我々は、スピン液体を示す物質群を手掛かりに軌道自由度の分子性結晶版もターゲットとして研究する。以上の研究方針の中で、軌道の情報を精密に議論するためのプローブは現状では散乱実験でしか得られない。特に液体状態を証明するためには、秩序化していないことを対称性によって議論する必要があり、放射光による解析が必要不可欠である。結晶構造解析と共鳴散乱実験に基づいた研究を行うことが本研究の目的である。

●成果発表
 ●論文


 ●PF Activity Report

 ●PFシンポジウム