フォトンファクトリーの次期光源計画

物質構造科学研究所 副所長 松 下 正


1.フォトンファクトリー次期光源の必要性
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所放射光科学研究施設の2.5GeVリングは放射光専用リングとして1982年から23年間稼働しており、PF-ARリングとあわせ約2900人のユーザーをもつ大学共同利用施設として機能している。2.5GeVリング直線部増強などの改造により、現在および近い将来に亘って多くのユーザーのニーズに応えてゆくことは可能であるが、今後20年〜30年にわたって時代に応じて進歩してゆく放射光ユーザーのニーズに十分応えるには、基本となる光源を時代のニーズにあった新たなものとすることが必要な時期が迫ってきている。

2.フォトンファクトリーが今後果たすべき役割 −汎用性と先端性、連続性と飛躍−
放射光は、これまで物質・生命科学研究分野に対してふたつの役割を果たしてきた。すなわち(1)それまでには他の手法では見ることができなかったものを見えるようにするという極めて先端性の高い研究・解析・分析ツールとしての役割、と(2)それまでには存在しなかった新しい機能をもつ新物質、新材料について放射光だからこそ得られる原子・電子レベルの静的・動的構造情報をタイムリーに提供するという高度な汎用的ツールとしての役割、である。フォトンファクトリーは、大学共同利用施設という使命を認識しつつ、上述の二つの役割の両方をバランスよく果たして行くことを目指すべきと考えている。(1)のような視点は、PFの出現によりそれまで実験室X線源を利用する場合にくらべ達成された大きな飛躍や、PF稼動の15年後に稼動し始めたSPring-8のアンジュレータービームラインを利用することによりそれまでPF のビームラインではできなかった実験が実現できたというような飛躍と、同様な飛躍をフォトンファクトリーの次期光源でももたらすことができることを目指すということである。(2)のような視点は、年間3000人近くのユーザーが繰り返しPFを訪れ物質科学、生命科学分野の多種多彩な研究を行っている現状をさらに継続・発展させる方向性を目指すものである。

3.フォトンファクトリーが持つ資産と環境の有効利用
フォトンファクトリーでは、現在2.5GeV リングに挿入光源用直線部を7から13に増加させるための改造を行っている。これが実現すると2.5GeVリングの性能は最近稼働し始めたCanadian Light Source, SPEAR-3 あるいは現在建設中のAustralian Synchrotron に近いものとなる。また、PF-AR は、世界でもユニークなパルスX線源として活動している。このような施設を利用して現在のアクティビティーをより高めると同時に、次期光源において必要とされるビームライン、測定技術のR&Dを行うことが可能である。また、KEKの加速器研究者・技術者集団との共同作業を行うことが可能な環境を積極的に生かした計画推進を目指す。

4.次期光源で目指すサイエンス
PFでは、2003年3月に、「放射光将来計画検討報告−ERL 光源と利用研究」を、2005年3月には、「放射光将来計画検討資料2004 −今後の将来計画検討のために−」を出版して、次期光源で目指すサイエンス、光源の仕様について検討を行っている。そこで挙げられている研究課題の例を示すと、(a)これまでの光源では困難であった種類の研究としては、サブピコ秒X線パルスによる物質構造変化・化学反応のミクロな解明、空間的コヒーレンスの高いX線ビームによる単分子イメージング、励起状態の分子内移動の観察などが、(b)第2世代、第3世代光源で行われてきた研究の飛躍的発展と位置づけられるものとしては、ミクロン〜サブミクロンサイズのタンパク結晶構造解析、超希薄試料内の原子・電子分布、弱い散乱プロセスを利用した物性研究、PEEMの空間分解能の向上、発光分光におけるエネルギー分解能の飛躍的向上、短寿命メスバスアー核における時間軸メスバウアー分光、顕微メスバウアー分光、ポンププローブメスバウアー分光、光電子分光における高速化、高分解能化、小角散乱における運動量、時間分解能の飛躍的向上、などが挙げられている。

5.求められる光源の特性
2.に述べた二つの役割を果たし、4.に挙げたような研究を可能とするための光源は、次のような条件を満たす必要がある。
(a)VUV-SX-X 波 長領域をカバー:10eV〜60KeV 、 主には、30ev〜30KeV 、
(b)Brilliance = 〜1021〜22 (phtons/s/mm2/mrad2/0.1%bw)、
(c)コヒーレントX線が不可欠 (xおよびy方向のエミッタンス〜10pmrad)、
(d)短時間パルス放射光が不可欠 (サブピコ秒以下)、
(e)多数の実験ステーション:挿入光源ビームライン(normal + long) 〜30、
   偏向電磁石光源ビームライン 〜10 〜20。

6.要求を満たす光源の検討と今後のスケジュール

5.に述べた要求を満たすことができる光源として、(a)エネルギー回収型直線加速器(b)スーパーストレッジリング(仮称:超低エミッタンスリングの長直線部に特殊なデバイスを配置し、サブピコ秒X線パルスの発生と、空間コヒーレンスの高いX線源の実現を目指すもの)の可能性の検討を行っている。これらの加速器に関連した技術は、他の目的のための加速器に関して開発努力が行われているものもあるので、高エネルギー加速器研究機構からの、とくに加速器研究施設の協力を得て、最近および今後の加速器技術の進歩を十分に取り入れた光源の実現を目指している。タイムスケジュールとしては、2007年度の早い時期までに、詳細なデザインレポートの作成と必要なR&Dを行い、2008年度ごろから予算要求を行い、早ければ2013年ごろから新光源が稼動することを目指す。新光源の稼動に伴い、2.5GeVリング、6.5GeVリングの運転は停止する。

 


出版物

放射光将来計画検討資料2004(pdf)
(2005年3月発行)

将来計画検討報告−ERL光源と利用研究−(pdf)
(2003年3月発行)


PFニュース掲載記事

「PF次期光源検討の現状」(河田 洋)
(Vol.23 No.3 Nov. 2005)

「PF将来計画検討の状況」(河田 洋)
(Vol.22 No.4 Feb, 2005)


フォトンファクトリー次期光源検討委員会中間まとめ(2005年12月)


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Last modified 2010-09-29 by