放射光科学研究施設とは

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放射光

現代の科学技術において"光"の果たしている役割は計り知れないほど大きい。X線領域の回折現象を利用すると、物質内の原子・分子の配列状態を調べることができる。また、真空紫外・軟X線領域の光吸収現象及び光電子放出現象などを用いて物質内部における電子状態および化学結合に関する情報を得ることができる。さらに、物質の光照射効果の研究、光を用いた微細加工など、光が主役を担う研究分野は広範囲にわたっている。これらの研究のための理想的な光が放射光である。

放射光は、光速に近い速さで運動する電子が磁場によってその軌道を曲げられる時に発生する光であり、その輝度は従来からの光源からの光に比べて桁違いに高い。しかもその波長は赤外・可視光、真空紫外線からX線にいたる広い領域にわたっている。

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放射光科学研究施設

物理学・化学・生物学・医学・工学などの広い分野の研究者がその実現を望んでいた放射光研究専用施設として、高エネルギー物理学研究所放射光実験施設(現高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光科学研究施設)の建設が1978年に開始された。1982年には、2.5GeV蓄積リング(PFリング)による最初の放射光発生に成功した。その後、装置・機器の性能向上、設備の充実への努力が絶え間無く続けられ、全国の大学・研究機関等の研究者による放射光利用研究は急速な拡大を遂げた。現在では有効課題数は約800件、共同利用研究者数は年間約3500名に達している。また、1987年にはトリスタン入射蓄積リング(AR)の放射光利用実験が開始され、1997年からはトリスタン計画の終了に伴い放射光専用リング(PF-AR)と位置づけられ、特色ある研究成果が生み出されてきた。

放射光利用研究の進展に伴いより高度な要求に応えるために、1996年から1997年にかけて2.5GeV蓄積リングの改造が行われ高輝度化が実現した。さらに「PFリング直線部増強計画」 によって挿入光源ビームラインが増強されている。また、PF-ARを強力なパルスX線源に改造する「PF-AR高度化改造計画」の工事が2002年には完了し、共同利用実験が再開された。

「より精密な構造を見たい」「もっと速い反応を捉えたい」という多くの研究者の要求に応えるため、次世代の光源加速器としてERL(エネルギー回収型ライナック)を開発している。ERLの実証機であるコンパクトERLが建設され、2014年3月にはエネルギー回収運転に成功した。


沿革

1971年11月 高エネルギー物理学研究所設立
1974年 6月 日本学術会議「放射光総合研究所」設置を勧告
1976年 6月 高エネルギー物理学研究所にフォトンファクトリー専門委員会を設置
1978年 4月 放射光実験施設建設開始
1979年 1月 放射光実験施設鍬入れ式(25日)
1982年 2月 入射器で25億電子ボルトで電子ビーム加速に成功、PFリングに入射開始
1982年 3月 PFリングに25億電子ボルトで電子ビームを蓄積、放射光の取り出しに成功
1982年10月 放射光研究棟が完成
1983年 2月 縦形ウィグラー、アンジュレータの試運転に成功
1983年 6月 放射光共同利用実験を開始
1985年10月 入射器で25億電子ボルトの陽電子ビーム加速に成功
1987年 2月 PFリングの低エミッタンスモード(130nmrad)の共同利用実験開始
1987年 4月 PF-ARで放射光共同利用実験開始
1987年11月 PFリングでマルチポールウィングラ運転開始
1988年 3月 PFリングで350mAの陽電子ビームの蓄積に成功
1988年 8月 第3回シンクロトロン放射光装置技術国際会議(SRI−88)を主催
1988年10月 AR円偏光ウィグラー・アンジュレータから高輝度楕円偏光X線の取り出しに成功
1989年 4月 総合研究大学院大学・放射光科学専攻を設置
1990年 1月 PF光源棟の屋上断熱工事完成
1990年 4月 PFリングで単バンチ運転の共同利用実験を開始
1991年 3月 PFリングで3GeV運転開始
1992年 8月 放射光実験準備棟の建設開始
1993年 3月 放射光実験準備棟完成
1993年10月 オーストラリアとの協定ビームライン完成
1995年10月 トリスタンMRリングでの放射光実験
1996年 5月 ARにおいて心臓の冠状動脈造影診断システムの臨床応用を開始
1996年12月 PFリングにおいて773mAの大電流蓄積に成功
1997年 4月 高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光研究施設に組織変更
1997年 9月 PFリング高輝度化(36nmrad)完成
2001年 4月 構造生物学実験棟完成
2002年 1月 PF-AR高度化(大強度パルス放射光源)改造完了
2003年 5月 構造生物学研究センター設立
2004年 4月 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構発足(放射光科学研究施設に名称変更)
2005年 9月 PFリング直線部増強改造工事 完了
2006年 4月 次世代放射光源・ERL計画推進室発足
2009年 1月 PFリングのトップアップ運転開始
2009年 4月 放射光源研究系が加速器研究施設・加速器第七研究系に組織変更
2009年 4月 構造物性研究センター設立
2009年 4月 インドビームライン開設
2009年10月 Ada Yonath博士にリボソームの結晶構造解析でノーベル化学賞
2010年 4月 コンパクトERL建設開始
2014年 3月 コンパクトERLエネルギー回収運転に成功