2007年9月の前回のお知らせ以後も、ビームラインの改編、統廃合が進められています。これらの作業の進捗状況を含めて報告します。計画が固まる前にユーザーの方々に情報を流して、議論を行うようPF懇談会からも要請されていますので、未だ十分に固まっていない計画についても記します。
● 基本方針
PFでは2005年に行ったリングの直線部増強改造を生かし、PF(2.5GeV)リングにある挿入光源を設置できる7本の5〜9m級の中長直線部の内BL-5、14を除く5本をVUV・SX専用とする整備を進めています。ここでは従来、MPWを光源とするX線利用研究と相乗りであった問題を解決し、実験目的に適した実験ステーションの整備を目標としています。このためには、MPWを利用していたX線のアクティビティをPF-ARの直線部や、新たに生まれた4本の短直線部のアンジュレーター光利用に移設することが必要であり、X線・軟X線領域の研究展開のためにもこれらのビームライン整備を進めています。これらに関連する偏向電磁石を光源とするビームラインの移設等も進めています。同時に、2006年の国際外部評価でも指摘を受けた、職員数と比較して多すぎるビームラインの統廃合を進めています。
● BL-16の立ち上げ状況
BL-16は2007年夏にビームラインを更新し、従来のアンジュレーターを光源として、ビームラインの調整作業を進めてきました。その結果、初期の性能をほぼ実現することが確認されました。2008年春の停止期間中にApple-II型のアンジュレーターおよびキッカー系の設置作業が進められており、5月の連休明けから本格的な立ち上げ作業が進められます。
● ターゲットタンパクプロジェクトによるBL-1の建設
ターゲットタンパクプロジェクトにより、BL-1にShort Gap Undulator(SGU)を光源とし、重原子置換することなく、イオウの異常散乱を利用して微小タンパク試料を測定対象とする高性能の構造解析用ビームラインの建設提案が2007年7月の放射光戦略ワーキンググループで認められ、その建設準備が進められています。現在BL-1ではA、B、Cの3ブランチで偏向電磁石を光源とする放射光利用実験が行われており、構造物性関連の研究が行われているBL-1AとBのアクティビティはBL-8へ移設することとなっています。既存のBL-8A/B/Cは2007年末に閉鎖し、従来BL-8で行われていたアクティビティは既存のビームラインで吸収する方向で調整されています。現在BL-8ではビームラインの撤去が終了し、すでに新メインハッチ、8Aと8Bの実験ハッチの建設がほぼ完成しています。
BL-1Bの移設は2008年夏に、またBL-1Aについては2008年12月から2009年4月にかけて移設を行い、それぞれ2008年10月、2009年5月にBL-8Bおよび8A
として光導入、ビームライン調整を開始する予定です。またBL-1Cは2009年春に撤去します。
新BL-1Aは2009年夏期シャットダウン中に建設する予定で準備が進められています。BL-1Cは1990年後半に建設されたVUV-SX領域の分光ラインであり、移転先については、VUV-SX領域の挿入光源ビームラインの整備に目処がついた時点で再考することとなっています。
● BL-14Cの整備 (未定)
縦型超伝導ウィグラーを光源とするBL-14Cにはタンデムに二つの実験ステーションがあり、BL-14C1では位相コントラストイメージング、14C2では高圧プレスMAX-IIIを用いた回折実験が行われています。分離型干渉計を用いる位相コントラストイメージングは非常に繊細な実験装置ですが、BL-14C2で実験する時や14C1で別のイメージング実験を行う時は撤去することが必要でした。
BL-14C2を分離型干渉計を用いた位相コントラストイメージングに、14C1を分離型干渉計を用いない位相コントラストイメージングのステーションにしようという計画で、去る4月3日に関連するPF懇談会のユーザーグループとの話し合いがもたれました。この計画を進める時には高圧プレスの移転先が問題になり、後述するようにPF-ARのNE7(9)が候補地となっています。この計画については2月の放射光戦略WGで議論を頂き、基本的方向としてはご了解を頂いていますが、現在は移転先の調整やステーションに要求される仕様を詰めている段階です。
● PF-ARのNE棟実験ホールの整備
PF-ARの北東棟では春の停止と同時に大規模なビームライン建設作業が進められています。既に、NE3の実験ハッチ、NE1およびNE3のデッキが解体されています。同時に長年の要望であったエレベータの建設作業も進められています。
まず、NE1ではコンプトン散乱・磁気コンプトン散乱の先端的開発を行ってきたNE1A1、医学応用を行ってきたNE1A2、軟X線MCD実験を行ってきたNE1Bを閉鎖し、レーザー加熱高温・高圧X線回折実験のアクティビティ用のビームラインを整備することが2007年7月の放射光戦略ワーキンググループで承認され、作業を進めています。これはBL-13をアンジュレーター利用専用化するための準備作業の第一段階です。コンプトン散乱についてはより適した他施設へアクティビティを移します。MCDについては上記の新BL-16でアクティビティの発展を図り、医学応用については医学界のニーズに応じて地上に診療施設を建設出来るように新NE1の設計を考慮してあります。また、新NE1では高温・高圧の回折だけでなく、同条件下での核共鳴実験も行なう計画です。NE1は、2008年秋光導入の予定で作業が進められています。
製薬会社からタンパク質の構造解析用ビームライン建設提案を受け、設置場所等を検討の上、2006年10月の放射光戦略ワーキンググループで承認され、AR-NE3に新ビームラインの建設がスタートしました。NE3ではシングルバンチ特性を生かした核共鳴の先端的な研究がなされましたが、近年ではシングルバンチを生かした実験の比重が低下し、今後はより適した他施設を利用していただきます。一方、上述のようにNE1での高温・高圧実験と核共鳴を組み合わせて、構造・電子状態の双方からの研究展開が可能となります。新NE3は9月に竣工、10月に光導入試験を行う予定で作業が進められています。
NE5Aは主に医学イメージングの基礎実験に利用されてきましたが、新AR-NE3建設作業と干渉し、また更なる展開を図るためにNE5Bと共に2008年3月で閉鎖しました。NE5Aのアクティビティは、新規に建設される予定のAR-NE7あるいはNE9およびBL-14C1に移していくことが考えられています。NE7(9)にはBL-14C2で行われていた大型プレスMAX-IIIを用いた高圧研究も包まれます。
PF-ARは4月14日から6月末まで運転されますが、NE棟実験ホールのビームラインは、これらの作業を円滑にまた最短で進めるために全て閉鎖させていただくことで関連のユーザーグループにご了解を得ています。
● 今後の予定
BL-13は、中長直線部の一つであり、VUV-SX専用化を進めることで検討が行われています。上述のように、13Aのアクティビティは新AR-NE1に移転され、13Bについては既存のXAFS−BLに吸収されていくことが検討されています。