HOMEトピックス一覧2010年のトピックス_2010.02.18

topic_20100218

超伝導空洞開発の進捗状況

 ERL(エネルギー回収型ライナック)の心臓部である、エネルギーを回収する超伝導空洞開発は、KEK加速器(古屋貴章氏、梅森健成氏、阪井寛志氏、高橋毅氏、坂中章悟氏)、東大物性研(篠江憲治氏)、原科研ERL(沢村勝氏)の7名の混成チームにより、9連超伝導空洞、入力結合器、高調波減衰器などの要素開発を2006年から進められてきたが、今年度はさらにそれらを集約するモジュール設計に着手した。

1.空洞開発
 リニアコライダー(LC)が開発中の1.3GHz・9連空洞を基本にして100mA、CW運転に適応できるように発展させたERL-model2と呼ばれるこの空洞には、高調波対策を施し、これまでにない4極モード対策を有する9連空洞を設計した。アイリス径を大きくしたことによる電場の集中とそれに伴う電子放出の影響で起きる問題への原因究明のために空洞診断技術の開発も積極的に進めてきた。
 計測中の空洞外面に沿ってセンサー群を周回させる低温下での放射線観測は8-9セル間のアイリスでの電子放出を示唆した(図1)。昇温後の内部観察で該当箇所に図2に見られる小突起が発見され、電子の軌道シミュレーションはこの場所が電子放出源である可能性を示した。これを機械的に除去し、その効果を見るための低温測定を進めている。

2.入力結合器
 ERLでは20kW級のCW電力が全反射状態で供給されるため、結合度とともにセラミック窓やベローズの定在波に対する位置が冷却対策として重要な意味を持つ。試作部品を使って冷却条件などの試験を進める中、ある定在波条件下ではセラミック窓が昇温・破損する事態が発生した(図3)。冷却対策として行った窓周辺の寸法変更により窓周辺の寸法変更により、セラミック部に1.3GHzの共振モードが出現したために生じた発熱が原因であることが判明した。その対策としてセラミック厚みを6.2mmから5.4mmへ薄くした改良窓を製作し、その共振周波数を30MHz上昇させた。現在はその電力試験の準備を進めている。

3. 高調波減衰器  
 広帯域の確保とCWビームによる150W高調波電力を考慮した結果、フェライトを用いたビームライン型減衰器を採用した。フェライトは70Kに冷却され、2K空洞への熱侵入を減らすためにクシ歯型のRFコンタクト付きベローズで熱絶縁される。このため70Kでのフェライトの減衰特性の計測を進めるとともにフェライトなしのベローズ構造を試作し、切削油や製作手順などフェライトを保護する製作手法の確立、両フランジ間の自由度計測、冷却方式の検証などの試験を続けている(図4)。他方、フェライト付きダンパーの試作を進めており、来年度はそれを用いて70Kの低温試験を行う予定である。

4.モジュール設計
 ERL空洞1台当たりの2KへのRF損失が40Wになる。このため冷却能力の増強が必要であり、直径300mmのヘリウムジャケットに収納された9連空洞2台が上述の各要素とともにチタン枠に固定されるクライオスタット構造の設計を進めている(図5)。また設計に必要な情報として、チタンフランジやガスケットの組合せ、チューナー用ロードセルや高周波コネクターなどの極低温への適応性や熱伝導率の計測などを行っている。

来年度の予定
 モジュールの高圧ガスの申請とともに空洞の製作が開始されるが、現在進めている製造確認空洞の計測を通じて各種治具などの本機受け入れの準備を進める。他方入力結合器については改良したセラミック窓の効果を検証し設計を完成させ、高調波減衰器については試作機の吸収特性と冷却試験を実施して、製作方法を確立することを目標とする。

図1 9連空洞の放射線分布。横軸は回転角度。150度の○印位置に図3の突起が発見された。

図2 8セルと9セルの間のアイリス溶接シ―ム脇に小突起が見つかった。
図3 破損したセラミック窓(上)とHFSSによる共振モード計算結果(下)。
図4 オフセットを計測中の試作ダンパー(フェライトなし)。 図5 ERL用9連空洞が2台収容されたモジュールの断面。

*ERL計画推進室報告 (2010年2月17日、機構会議)加速器施設第3系の古屋貴章教授からの報告」より抜粋

このページのTOPへ

 

このページのトップへ