特性・サイエンス
持続可能な社会の実現のために
加速器から生まれる明るい光「放射光」は,様々な物質 の構造や機能を解き明かし,新しい物質を創るための 有用な情報を生み出してきました。 ERL(Energy Recovery Linac; エネルギー回収型ライナック) は, これまでの放射光を凌駕する高輝 度性,短パルス性をもつ放射光を 生み出す次世代放射光源です。 再生可能エネルギー,新素材,医薬品, 環境浄化技術などを開発するための光として期待されています。
エネルギー回収型ライナック(ERL)とは?
平均輝度 | ピーク
輝度 |
繰り返し 周波数(Hz) |
コヒー レント比 |
パルス幅 | ビーム ライン数 |
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ERL | 〜1022-23 | 〜1026 | 1.3G | ~20% | 0.1~1 | ~-30 |
XFEL-O | 〜1027 | 〜1033 | ~1M | 100% | 1 | ~1 |
SASE- FEL |
〜1022-24 | 〜1033 | 100~10K | 100% | 0.1 | ~1 |
第三世代 放射光 |
〜1020-21 | 〜1022 | ~500M | 0.1% | 10~100 | ~30 |
超伝導加速器で加速した電子を利用して,超高輝度の放射光を発生する装置です。放射光を出し終えて不要になった電子 ビームのエネルギーは,超伝導加速器を通して回収され,次の電子ビームを加速するために利用されます。 さらに,ERL の超高輝度電子ビームを用いることにより,現在各国で建設が進められているSASE-XFEL(X線自由電子 レーザー)をはるかに超えた共振器型XFEL (XFEL-O) も本計画では射程に入れています。
ERLが作る光の特性
ERLは、これまでの放射光を凌駕する高輝度性、短パルス性をもつ放射光を生みだす次世代放射光光源。電子銃から入射された電子は超伝導加速空洞で加速され、放射光をだしながらリングを回ります。一周して戻った電子はエネルギーが回収された後に廃棄され、リングには常に新しく高品質の電子が周回します。
- 現在の放射光
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リングを何度も周回する蓄積型リングから作られる放射光は、電子が有限の広がりを持ち、放射光の向きも不揃いになります。
- ERLが作る次世代の放射光
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ERLでは従来の蓄積型とは違い、常に新品の電子を使い放射光を作り出します。その光の輝度は現在の放射光より2~3桁高くなります。またERLが作る波面の揃った波は回折限界まで集光でき、ナノビームを可能にします。
- XFEL-Oが作る人類未踏の放射光
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X線の波長領域(約0.1nm)で波面の揃ったX線レーザー光は空間的・時間的コヒーレンスを持ちます。このX線レーザー光は高いエネルギー分解能を持ち、1パルスあたり109個のフォトンが放射されるため、きわめて高い輝度を持ち、その平均輝度は現在の放射光を6〜7ケタ上回ります。
PEARLが拓く新しいサイエンス
- ナノビーム
- 空間コヒーレンス
- 短パルス
- 地球・惑星科学
不均一な物質の測定に最適 ナノビーム
X線領域で回折限界に当たるするPEARLの放射光は、原理的に波長0.1ナノメートルまで集光できます。現在の放射光より2〜3桁高井輝度の光を集光したナノビームになります。
局所的な構造を見る 変化のその場を観察 |
新しい材料の創成へ | |
排気ガスの分解・浄化などに利用されている触媒は、物質に触媒活性点となる金属を分解させた不均一な構造をしています。触媒の活性点をピンポイントで調べるにはPEARLの高輝度光を集光したナノビームが必要です。また、時間を追って反応を調べることも可能になります。
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不均一触媒の活性点と ナノビームの大きさ
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物質開発はナノマテリアルへと移行し、マイクロビームからナノビームへ、より微小な光が必要とされています。ナノスケールに特異的な構造や電子状態を知り、制御することは、新しい材料の創成へつながります。 |
エピタキシャル成長したLaTiOXフィルムの電子構造 A. Ohtomo et al., Appl. Ohys. Lett.80, 3922(2002) |
わずかな違いを検出 空間コヒーレンス
そろった波面(空間コヒーレンス)を持つPEARLの光は、物質に照射すると鮮明な干渉を起こします。波長が短いほど得られる情報の空間分解能が向上します。PEARLでは回折限界の約0.1ナノメートルを目指しています。
わずかな違いを検出 X線ホログラフィ・イメージング |
細胞の中身を原子レベルで観る | ||
紙幣のホログラフィ
紙幣などにも利用されているホログラフィは、光の干渉像の波面のそろったコヒーレント光を照射して、画像を再生する技術です。干渉パターンによってとらえられる大きさは波長の長さに依存するため、波長の短いX線では原子レベルの3次元像をホログラフィで再生することが可能になります。 ・平面波による干渉 |
タンパク質の複雑な立体構造は結晶化と放射光によって解明が飛躍的に進み、生命現象の理解や創薬に役立てられています。PEARLの空間コヒーレンス特性を利用すれば、結晶化が困難な立体分子の複合体や膜タンパク質、細胞内小器官や細胞自身の立体構造をナノメートルサイズで観ることが可能になります。個々の生体分子にとどまらず、細胞や構造体全体の解明は、生命学、医学、薬学の分野を大きく発展させるに違いありません。 | ||
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左の回折像から構築した酵母菌細胞のイメージ |
・イメージングPEARLで空間コヒーレントX線のフォトン数を向上させることにより、さらに高分解能なイメージングが可能になります。 |
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D. Shapiroet al.,PNAS, 102, 15343(2005) |
超高速のスナップショット 10兆分の1秒 短パルス
1周ごとに新品の電子を使うPEARLでは、良質な電子ビーム性能がそのまま保たれます。電子のかたまり(バンチ長)がちいさいほど、得られる放射光のパルス幅も短くなります。PEARLでは、現在の放射光より3桁短い100フェムト秒(10兆分の1)のパルス幅を実現できます。
時間分解能 |
光エネルギーの有効利用へ | |
ハードディスク 現在のハードディスクの書き込み速度は、1ビット当たり約2ナノ秒です。情報処理や通信速度の向上には、より速い素子が必要です。PEARLのフェムト秒パルス特性は、超高速に変化する分子構造を電子状態を、時々刻々と追跡することに威力を発揮します。 |
持続可能な社会の実現に向け、自然エネルギーを効率的に利用することが喫緊の課題です。例えば、フェムト秒オーダーで光エネルギー化学エネルギーに変換する植物の光合成反応、サブピコ秒〜フェムト秒で光励起から電気エネルギーを作り出す式ぞ増感型太陽電池、これらのしくみを捉え、発展させることでエネルギー問題の解決に貢献します。 | |
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・光合成反応 葉に存在する光合成反応中心タンパク質は光を100フェムト秒で吸収し、光エネルギーから科学エネルギーに変換します。 |
人間が到達できない超高圧・超高温の世界 地球・惑星科学
地球や惑星の中心部と同じ超高圧・超高温条件を地上で再現し、そこでの物質の状態構造を調べます。ERLの高輝度ビームは、極微小領域でなければ地上では実現できない極状態、構造を解明します。
木星や土星のような巨大惑星は、主に水素とヘリウムからできていて、深部には金属水素が存在するとされいます。金属水素は、室温超伝導体であると予想されていて、その性質にも注目が集まっています。 |