BL-11A 軟X線斜入射回折格子分光ステーション
ビームライン担当者: 北島 義典
5641(PHS:4279)
yoshinori.kitajima@kek.jp
[English]
1.概 要
BL-11Aは、偏向電磁石を光源とし、集光鏡と不等間隔平面回折格子を用いた斜入射分光器により、70-1900eVの単色軟X線を利用することができます。カバーするエネルギー領域が重なるステーションも多い(例えばアンジュレータ光源では BL-16B、 BL-13C、 BL-2C、偏向電磁石光源では BL-3B、 BL-11Dなどがあります)ので、特に幅広いエネルギー領域にわたって利用できることを特徴に光学系が設計されており、C,N,O,Fなど軽元素のEXAFSスペクトル測定が可能となっています。
図1. BL−11Aの光学系。
円筒鏡M0およびM0’で反射された放射光(水平方向の取り込みは最大5mrad)は、入口スリットS1と出口スリットS2の間に置かれた球面鏡M1もしくはM2と不等間隔平面回折格子Gで構成される斜入射分光器で分光・収束され、後置トロイダル集光鏡Mfによって試料位置に再集光されます。垂直方向の取り込みを制限することができるスリットS0を用いてビームの中心/非中心を取り込むことにより、直線偏光/楕円偏光を利用することが可能です。なお図中には示していませんが、S2とMfの間に高次光除去用の2枚組平面ミラーを挿入することができるようになっていて、利用する光エネルギーに合わせて入射角を変えながら測定するプログラムを用意しています。
本分光器では、利用するエネルギー領域によって2種類の球面鏡M1/M2および3種類の回折格子(300 l/mm、800 l/mm、1200 l/mm)を真空中で切り替え・調整する機構を備えていて、70-1900eVの利用が可能です。また、本分光光学系の特徴として、比較的長い領域にわたって安定に軟X線を供給するため、サインバーを用いた回折格子の回転のみによってエネルギー走査を行えるようになっています。このように機構が単純であるため、制御系も簡単なものとなっています。
2.性 能
光学系 | 前置集光系+不等間隔平面回折格子斜入射分光器+後置集光鏡 |
エネルギー領域 | 70 eV - 1900 eV |
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分解能 | E/ΔE = 500 ~ 4000 |
ビームサイズ | ~ 2 mm (H) ×0.5 mm (V) |
ビーム強度 | 最大~1012 photons/s |
2000年4月末までに、300 l/mm、800 l/mm、1200 l/mm(全てホログラフィック露光)の回折格子が利用可能となっています(機械切り800 l/mmも控えています)。
図2. 機械切り800 l/mmと球面鏡M2の組み合わせで測定されたAr 2p吸収スペクトル。
図2は機械切り800 l/mm回折格子と球面鏡M2の組み合わせで測定されたAr 2p励起領域における全イオン収量法による吸収スペクトルです。7dへの励起が明瞭に観測されていることから、光学素子と光学調整の精度が良好であることが確認できます。ただし、このスペクトルだけ見るとアンジュレータ光源であるBL-16Bと遜色ないように感じられますが、高分解能を実現するために相当にスリットを絞らねばならず、光強度の点では約2桁小さいことに注意が必要です。
図3. 機械切り800 l/mmと球面鏡M2の組み合わせで測定されたN2 1s吸収スペクトル。
図3は、N2分子の1s→π*励起領域のスペクトルを様々なスリット幅(左上の数値)で測定した例です。各スペクトルの右上に記した数値は、光強度と分解能です。光強度は最高分解能では毎秒7×108個ですが、分解能を落としていけば最大1011が得られていることになります。ホログラフィック回折格子を用いた場合には、到達最高分解能は機械切りに比べてやや低いようですが、得られる光強度は大きくなっています。
図4. ホログラフィック回折格子分光スペクトル。
図4に、ホログラフィック回折格子によって得られた分光特性を示しました。ホログラフィック回折格子は散乱光の混入が少なく、特に800 l/mmホログラフィック回折格子とM1(偏角176.2度)の組み合わせを用いれば、1900eV程度まで散乱光なく利用できることが明らかになりました。Na, Mg, Alなど従来PFでは不可能であった元素のXAFSスペクトル測定が可能になっています(測定データ例を別ページに用意しました)。
3.付属品等
- 分光器制御用計算機一式(Windows PC, 3.5"FDD付き)
- XAFS測定用ソフト(LabView on Windows)
- 光強度モニターシステム一式
- 試料槽用架台(1.5m×1.5m, 1.5m×1.0m各1台、1.5m×0.5m2台)
4.その他
- 現在のところステーションに固有の実験装置はありません。原則として試料槽は持ち込んで下さい。多くのPFの実験装置を連結することが可能です。実験装置の利用に当たっては、各装置の担当者にご相談下さい。
- 試料槽の真空度は10-6 Torr程度以下まで到達できる必要があります。
- 試料位置のビーム高さは床面からは約2.04mですが,架台からは約1.2mになります。高次光除去ミラーを挿入するとビーム高さが8mm上がります。
- 簡単なマニュアルをweb上に用意しています。
5.参考文献
- “BL11再構築デザインレポート” KEK Report 95-4 (1995)。
- K.Amemiya, Y.Kitajima, T.Ohta and K.Ito, J. Synchrotron Rad., 3, 282 (1996).
- K.Amemiya, Y.Kitajima, Y.Yonamoto, T.Ohta, K.Ito, K.Sano, T.Nagano, M.Koeda, H.Sasai and Y.Harada, Proc. SPIE, 3150, 171 (1997).
- Y.Kitajima, K.Amemiya, Y.Yonamoto, T.Ohta, T.Kikuchi, T.Kosuge, A.Toyoshima and K.Ito, J. Synchrotron Rad., 5, 729 (1998).
- Y.Kitajima, Y.Yonamoto, K.Amemiya, H.Tsukabayashi, T.Ohta and K.Ito, J. Elec. Spectrosc. Relat. Phenom., 101-103, 927 (1999).
6.発表論文
発表論文(PF関連出版データベースに登録されているもの)のリストを用意しましたので、ご覧下さい。
Last modified: Jul. 5, 2005.