HOMEトピックス一覧2010年のトピックス_2010.07.16入射器

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cERL入射器グループの進捗状況

 cERL入射器グループでは、フォトカソードを用いたDC電子銃システムの開発(電子銃本体、レーザーシステム)と、超低エミッタンスを持つビームの診断法の開発、そして、ビーム調整法の開発を進めている。このための開発拠点として主にAR南棟において、500 kV第二電子銃の開発、フォトカソード励起用のレーザーシステムの開発、ビーム診断用ビームラインの開発、そして電子銃を用いたビーム試験が進行中である(図1)。 まず、電子銃開発については、JAEAを中心に進められている500 kV第一電銃開発と並行して、KEKでは2009年度から500 kV第二電子銃の開発を進めている。500 kV第二電子銃開発では、カソードの長寿命化のために極高真空を達成することを第一の目標として機器の設計を行い、チェンバー材質としてガス放出速度の低いチタンを用い、高い排気速度を実現するためにクライオポンプを採用している。2009年度末までにチタン製の電子銃真空チェンバーや絶縁用セラミックチェンバなどの電子銃本体の主要な機器が納入され、2010年4月から各機器の真空試験および組み立てを進めている(図2)。極高真空を達成する上では、各機器の真空試験や圧力の測定法が非常に重要となり、細心の注意を払って試験を進めている。また、第二電子銃の特徴の一つであるクライオポンプシステムの立ち上げもこの夏から開始する。電子銃に高電圧を供給するための高圧電源については、2010年7月に入札が行われ、今年度中に納入される。 励起用レーザーシステムの開発は、greenのレーザーで700 mWの出力を達成している。これは、カソードの量子効率を3 %としたときコンパクトERLの第1目標であるビーム電流10 mAに対応する。
図1: AR南棟概略 図2: 500kV第二電子銃の現状
電子銃から生成されたビームの性能を診断するためのビームライン開発では、2009年度中にビュースクリーン、ビーム位置モニタ、ダブルスリットシステム、偏向空洞システム等の主要な診断装置及び真空チェンバーの製造が終了し、2010年4月から各機器の試験およびビームラインの組み立てを開始している。ビームラインは、入射部(cERL実機のビームラインと共通)、診断部(図3)、ビームダンプ部の3つから構成されるが、電子銃のカソードの寿命を保つために高い真空度が要求されるが、ビームライン組み立てに細心の注意を払った真空試験を実施し、目標としている圧力に到達しつつある。8月初旬には各ビームラインのベーキングを終了して、NPES3 200 kV電子銃に接続し、ビーム試験を開始する予定である。
ビーム試験では、次の3つのフェーズを予定している。最初フェーズでは名古屋大学から移設されたNPES3 200 kV電子銃の性能を確認するための200 kV電子銃+NPES3 オリジナルのビームラインでの試験、2番目のフェーズではカソードの性能評価およびビーム診断法の開発を目的とした200 kV電子銃+新たな診断用ビームラインを用いた試験、そして3番目のフェーズとしてcERL入射部前半のビーム調整法確立のための500 kV電子銃+診断ビームラインを用いたビーム試験を行う予定である。2010年4月から最初のフェーズであるNPES3 200 kV電子銃を用いたビーム運転を開始した。ビーム試験の目的は、移設による機器の損傷がないかチェックすること、及びフォトカソードから生成された低エネルギービームの調整法を確立することである。ビーム試験では、電子銃に100 kVの電圧を印加し、100 keVのビームを生成しビームダンプまで輸送している。ソレノイド及び補正電磁石を調整した後、カソードから生成されたビーム31.5 nAの95%をビームダンプまで輸送できるようになっている。また、スクリーン上でのビームプロファイル測定とソレノイドスキャンも実施し、シミュレーションとほぼ同じ傾向を示すビームを得ることができている(図4)。今後は、ビームラインのより詳細な調整を行い、本番用の新たなビーム診断ラインを接続した後の運転を睨んでエミッタンス測定法の検証等を進めていく予定である。また、カソード開発については、カソードを製作する名古屋大学のグループとの会合を持ち、カソード開発のフェーズとして、比較的小電流で低エミッタンスビームの生成をターゲットとしたカソードを開発した後に、カソードの大電流化を行うという方針を定めるとともに、超格子を持つカソードが示す低エミッタンス特性についても、テストすることを議論している。
図3: 組み立て調整が進む診断部の写真 図4: 第一フェーズ(NPES3-ARビームライン)でのビーム試験の結果上図:ビーム測定結果、下図:シミュレーションによる結果

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