PF/KEKでは蓄積リング型放射光施設の限界を超えると同時に、多くの放射光科学の展開を可能とする立場から将来光源の方向性をERL(エネルギー回収型リニアック)に定めて昨年度ERL計画推進室を機構内に設置しました。この推進室を中心として、KEKの加速器研究施設、日本原子力研究開発機構、東京大学物性研究所、UVSOR、SPring-8
等の加速器研究者との協力のもと、光源加速器としてのERLの実現性、開発項目の検討と試作を進めています。昨年7月にはERL研究会「コンパクトERLが拓く世界」を開催し、報告集(PDF)をWebでも公開しています。また、現状に関しては現在Web上で公開しておりますアクティビティーレポート2006のERLプロジェクトの記事を参照していただければ幸いです。
上記Web記事にもありますように、ERLは蓄積リングでは無く基本的にリニアックですので、蓄積リング型加速器において定常(平衡)状態で形成される電子ビームの広がりが無く、5GeV-ERLではエミッタンスが10pmrad,
バンチ幅は0.1〜1psecが実現できることが期待されます。すなわち、現状の第3世代光源と比較して輝度で約2〜3桁の増大、光パルス幅で約2〜3桁の短パルス化という非常に高品位の電子ビームを得ることが出来ます。その結果、軟X線、X線領域における回折限界光が可能であると同時に、サブピコ秒の短光パルスの定常的に利用が可能となり、ダイナミクスを始めとする従来の第3世代光源の延長線上の研究だけではなく新たな展開が大きく期待されます。一方既に進行しているSASE-FELと比較いたしますと、著しい違いはその繰り返し周波数とピーク輝度にあります。SASE-FELは100Hz程度の繰り返し周波数であるのに対してERLでは1.3GHzと通常の蓄積リング型放射光源(概ね500MHz)と同程度の繰り返しであり、ある意味でCWの光源です。SASE-FELは基本的にパルス光源ですがピーク輝度が1033に達し、1ショットで実験データを取る実験に対して非常に威力を発揮することが期待されています。一方その高いピーク輝度のために試料のクーロン爆発のため試料を常に交換することが基本となります。逆にERLでは基本的に1ショットにおけるクーロン爆発は無く、非破壊的な繰り返し実験が可能となり、試料環境を十分にコントロールした状態での測定が可能となります。この観点で、SASE-FELとERLは相補的な関係にあるものと理解できます。また、少し遠い将来ですが、ERLで開発された超伝導リニアックは高繰り返しの運転が可能ですので、高繰り返しのSEEDED-FELへ向けての展開もERLの技術開発によって可能となるものと考えています。
このようなERLの特徴ある光を用いた新たな研究のブラッシュアップの第一歩として3月16日、17日に第1回のERLサイエンス研究会を開催し、広く皆様の提案を頂く場を持ちたいと考えております。年度末、および日曜日にかけてのスケジュールでまことに恐縮ですが、ERL実現に向けてサイエンスのブラッシュアップにご協力いただければと思っております。よろしく御願い申し上げます。
また、18日、19日は引き続き第25回PFシンポジウムを行いますので、そちらにも御出席頂ければ幸いです。
3月16日(日) |
13:15〜 |
受付開始 |
13:45-13:50 |
所長挨拶 下村 理(KEK, IMSS) |
13:50-14:50 |
イントロダクション [座長:春日 俊夫(KEK,PF)] |
13:50-14:20 |
「ERLプロジェクトのビジョンとその位置付け」 河田 洋(KEK,
PF)
“Status of the ERL project from the view point of future light source” Hiroshi Kawata (ERL Project Office, KEK) |
14:20-14:50 |
「ERL放射光源の概要と加速器の開発状況」 坂中 章悟(KEK,
PF)
“Outline of the ERL-based Synchrotron Light Source
and Status of R&D Efforts”
Shogo Sakanaka (Light Source Division, High Energy Accelerator Research Organization) |
14:50-17:50 |
方法論 [座長:飯田 厚夫(KEK, PF)、河田 洋(KEK,PF)] |
14:50-15:20 |
「硬X線ミラーの現状とその応用」 松山 智至(阪大・工学研究科)
“Current status of hard X-ray mirror fabrication and X-ray nanobeam application” Satoshi Matsuyama (Department of Precision Science and Technology, Graduate School of Engineering, Osaka University
) |
15:20-15:50 |
「X線顕微鏡開発の流れ」 青木 貞雄(筑波大・物理工学系)
“Recent development of X-ray microscopy” Sadao Aoki (Institute of Applied Physics, University of Tsukuba) |
15:50-16:10 |
休憩 |
16:10-16:40 |
「コヒーレントX線回折によるナノ構造解析」 西野 吉則(理研・播磨)
“Nanostructure analysis using coherent X-ray diffraction” Yoshinori Nishino
(RIKEN SPring-8 Center) |
16:40-17:10 |
「電子回折イメージング」 郷原 一寿(北大・工学研究科)
“Electron Diffractive Imaging” Kazutoshi Gohara (Division of Applied Physics,
Graduate School of Engineering,
Hokkaido University) |
17:10-17:50 |
「ERLを用いた時間分解X線測定 〜サブナノ秒からサブピコ秒へ〜」 足立 伸一(KEK,
PF)
“Toward sub-picosecond time-resolved X-ray experiments
with Energy Recovery Linac” Shin-ichi Adachi (KEK PF, JST ERATO) |
18:30-21:00 |
懇親会 |
|
3月17日(月) |
09:00-10:30 |
コヒーレンス(ナノビーム)&生命科学 [座長:若槻 壮市(KEK, PF)] |
09:00-09:30 |
「分子分解能電子顕微鏡イメージング」 岩崎 憲治(阪大・蛋白研)
“Molecular resolution imaging method by electron
microscopy” Kenji Iwasaki (Institute for Protein Research, Osaka University) |
09:30-10:00 |
「膜超分子モーター(V型ATPase)のX線結晶構造解析とその展望」 村田 武士(京大・医)
“Challenges in structural/functional analysis of membrane rotary motor, V-ATPase” Takeshi Murata
(Faculty of Medicine, Kyoto University) |
10:00-10:30 |
「高輝度放射光をもちいたヒト染色体の構造解析」 前島 一博(理研・細胞核機能研究室)
“Nano-resolution imaging of human chromosomes by synchrotron radiation” Kazuhiro Maeshima (Cellular Dynamics Laboratory, RIKEN) |
10:30-10:50 |
休憩 |
10:50-12:20 |
コヒーレンス(ナノビーム)&物質科学 [座長:村上 洋一(東北大・理学研究科)] |
10:50-11:20 |
「界面における電子状態 - 酸化物で何を測りたいか - 」 大友 明(東北大・金属材料研究所)
“What we have learnt from electronic properties at oxide heterointerfaces
” Akira Ohtomo (Institute for Materials Research, Tohoku University) |
11:20-11:50 |
「界面における電子状態 - 何が測れるようになるか - 」 尾嶋 正治(東大・大学院工学研究科)
“Electronic Structures at interfaces” Masaharu Oshima (Synchrotron Radiation Research Organization, School of Engineering, The University of Tokyo) |
11:50-12:20 |
「高圧地球科学におけるERL光源の活用」 近藤 忠(阪大・理)
“Applications of ERL in High-pressure Earth Science” Tadashi Kondo(Graduate School of Science, Osaka University) |
12:20-13:30 |
昼食 |
13:30-15:00 |
ダイナミクス&生命科学 [座長:足立 伸一(KEK,PF)] |
13:30-14:00 |
「V-ATPase の回転触媒機構」 横山 謙(科学技術振興機構、東工大)
“Rotary mechanism of V-ATPase” Ken Yokoyama
(Japan Science and Technology agency, Tokyo Institute of technology ) |
14:00-14:30 |
「時間分解共鳴ラマン分光法によるタンパク質ダイナミクスの観測:構造変化と機能」 水谷 泰久(阪大・院理)
“Protein dynamics revealed by time-resolved resonance Raman spectroscopy:
structural change and function” Yasuhisa Mizutani (Osaka University) |
14:30-15:00 |
「時分割X線小角散乱によるシアノバクテリア時計タンパク質の離合集散ダイナミクス計測」 秋山 修志(理研播磨・さきがけ)
“Real-time SAXS Observation of Assembly and Disassembly Dynamics of
Cyanobacterial Circadian Clock Proteins” Shuji Akiyama
(PRESTO, Japan Science and Technology Agency; RIKEN SPring-8 Center, Harima Institute)
|
15:00-15:20 |
休憩 |
15:20-16:50 |
ダイナミクス&物質科学 [座長:腰原 伸也(東工大)] |
15:20-15:50 |
「X 線スペックルによるBaTiO3の分極クラスターの観察」 並河 一道(学芸大)
“Observation of Polarization Clusters in BaTiO3 by Use of X-Ray Speckle” Kazumichi Namikawa (Tokyo Gakugei University, JAEA, JST-CREST) |
15:50-16:20 |
「時間分解XMCD-PEEM 磁区のダイナミクスからスピンのダイナミクスへ」 木下 豊彦(JASRI)
“Time-resolved-XMCD-PEEM: From magnetic domain motion to spin dynamics” Toyohiko Kinoshita (JASRI/SPring-8) |
16:20-16:50 |
「フェムト秒パルスレーザー光によって引き起こす超高速相転移」 岡本博(東大新領域)
“Ultrafast phase transitions induced by femtosecond laser pulse”
Hiroshi Okamoto (Department of Advanced Materials Science, The University of Tokyo) |
16:50-17:20 |
総合討論 [座長:並河 一道(学芸大)] [まとめの報告:河田 洋(KEK,PF)] |