2012年10月30日
1年ぶりにビームライン再編・統廃合のお知らせをします。前回(No.9 2011年10月18日)のお知らせでは、新BL-15建設予定についてお伝えしました。今回は、この件に関する最終的なスケジュールに加えて、これまで懸案でしたVSX領域の挿入光源BLに関する更新計画についてもお知らせします。
1.新BL-15建設について
PFリングには、2005年の直線部増強により4か所の短直線部が作り出されました。すでに、3か所(BL-1、3、17)にはSGU(short period and small gap undulator)を光源とするX線ビームラインが建設され、放射光利用研究が繰り広げられています。最後の短直線部を利用するBL-15には、高分子フィルムや生体膜などの多様な膜構造、天然物や工業材料など不均一な分布をもった物質構造を複合解析手法(SAXS やXAFS/XRF など)により解明するSGUビームラインを建設することが検討され、2012年3月16日と6月13日の放射光科学研究施設戦略会議でご検討いただき、さらにPF−UAからもご了解をいただきました。最終的に、周期17.6o、周期数27のSGUにより、XAFS/XRF実験で要求される2-15keVまでの広いエネルギー範囲、および小角散乱実験に必要な高輝度ビームを実現することが可能となりました。新BL-15の建設のためには、偏向電磁石からの放射光を光源とするビームラインを移設する必要があります。X線小角散乱ビームラインBL-15Aは2011年夏のシャットダウン中にBL-6Aへの移設がすでに終了しています。BL-15B1の白色X線トポグラフィはBL-20Bに移転されます。BL-15B2の表面界面X線回折実験はBL-18Bステーション、そしてBL-15Cの精密X線回折実験はBL-14Bへ移行される予定です。これらの移行をできるだけスムーズに行うよう調整を進めます。なお、新BL-15の建設作業は主として2013年夏のシャットダウン中に行われ、同年秋以降のビームタイムでBLの立ち上げ調整を行います。
2.VSX領域の挿入光源BL整備について
PFではここ数年間、主として挿入光源ビームラインにリソースを集中し、ビームラインの再編・統廃合を進めてきました。そのなかでも、PFリングの5か所の中長直線部はVUV-SX領域に専用化することにより、既存加速器を有効活用した高度な研究成果の輩出を目指しています。PFリングには9mの長直線部が2か所(BL-2とBL-16)あります。BL-16では、タンデム設置された2台のAPPLE-II型アンジュレータを光源とする高速スイッチング可変偏光SXビームラインが2010年に整備され、種々の二色性分光測定や化学反応の実時間測定による表面科学の研究が行われています。
一方で、BL-2はPF創設時からSX領域の挿入光源ビームラインとして整備されてきましたが、必ずしも9mの直線部を最大限に活かし切れていませんでした。このような状況下で、BL-2のアップグレードについてユーザーの方々と検討を進め、長直線部を有効活用してアンジュレータ2台をタンデムに設置することにより、広いエネルギー範囲をカバーするVUV-SXビームラインを建設することになりました。具体的な要点は、1)新規にVUV領域用アンジュレータ(30-300 eV)設置、2)下流側には、BL-2AとBL-2Bの2ブランチを持つ新規VUV-SXビームライン設置、です。図1に示すように、BL-2Aは、高分解能光電子分光装置を常設し、光エネルギー30-1500 eVの高分解能(角度分解)光電子分光・X線吸収分光専用ステーションとして整備します。このことにより、表面・界面物性研究の高効率化を実現します。BL-2Bでは上記のエネルギー範囲に加えて2結晶分光器を組み込むことで、さらに広いエネルギー範囲30-4000 eVの放射光利用が可能になります。上流側では日立製作所の分析装置により産業利用・共同研究が行われ、下流側はPFが管理運営するフリーポートとして、現在BL-2で行われている発光測定装置、そのほかのユーザー持ち込み装置による利用研究に提供されます。このように、新BL-2では、高分解能・高強度を保ちながら、広いエネルギー領域の光を利用することが可能です。これにより、軽元素から希土類まで幅広い元素の元素選択的な分光評価が可能になり、機能性材料の表面・界面研究に貢献できると考えております。具体的には、Liイオン電池等のエネルギー変換材料、ユビキタス元素からなるグリーンデバイスなどの環境材料、元素戦略に基づいた革新的電子材料、酸化物ヘテロ構造などの新機能性材料、の研究を推進します。ここで提案させていただている新BL-2は既存BL-2のエネルギー範囲をカバーしております。すなわち、新BL-2建設計画は「BL-2の更新計画」であると位置づけ、全国共同利用施設として高性能の光を出来る限り早くユーザーに供給することが重要と判断し、既存のBL-2を2013年3月でシャットダウンし、新BL-2の建設作業に着手する予定です。さらに、2013年10-12月に既存のSX用アンジュレータ光による分光光学系および測定装置の調整を進め、速やかにSX領域での共同利用実験を再開する予定です。なお、VUV領域用のアンジュレータは2014年3月に設置し、2014年4月以降早い時期にVUVからSX領域全体における利用実験の実施を予定しています。
BL-13は、角度分解真空紫外光電子分光、高分解能内殻光電子分光、高分解能軟X線吸収分光を駆使して、有機薄膜・分子吸着系の表面科学、有機デバイス科学、触媒化学に関する研究を行うために、分光ビームラインの整備を行ってきました。また、BL-28は高性能角度分解光電子分光により、強相関物質の3次元フェルミオロジー、軌道選択的バンド構造決定、トポロジカル絶縁体の探索などの研究を推進するために整備されてきました。しかしながら、これらのBLでは、X線利用との共生をベースに設計された挿入光源を使用しており、必ずしもVUX-SX利用にマッチしていません。PFでは、二つのBL用アンジュレータの仕様について検討を重ね、BL-13では50−1500 eV、BL-28では30−300 eVをカバーする可変偏光アンジュレータを2014年夏のシャットダウン中に設置することになりました。
BL-2、BL-13およびBL-28のアップグレードについては、2012年9月5日の放射光科学研究施設戦略会議でご了解いただき、またPF-UAからもご支援いただきました。
図1 新BL-2の概略図
<<ビームラインの再編・統廃合に関するこれまでのお知らせ>>
2011年10月 お知らせ9
2011年1月 お知らせ8
2010年5月 お知らせ7
2009年2月 お知らせ6
2008年4月 お知らせ5
2007年9月 お知らせ4
2007年2月 お知らせ3
2006年7月 お知らせ2
2005年6月 お知らせ1
関連ページ
◆戦略ワーキンググループ会議議事要録のページ
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