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ERLから得られる光の特徴 (5)時間コヒーレンス

ERLから得られる光の時間コヒーレンス


「(3)空間コヒーレンス」で、ERLの空間コヒーレンスは、レーザー光源のもつコヒーレンスとは異なると述べました。その違いについて、もう少し深く考えてみましょう。

 蓄積リング光源とERL光源の違いを模式的に表わすと、以下のようになります。左側の青の丸が光源を表わしており、光源から放射される光を、右側の色のついた波面で表わしています。

図8M.png
1.インコヒーレント光源:第3世代までの放射光源

図9M.png
2.空間コヒーレント光源:回折限界光源:ERL、SASE-XFEL

図10M.png
3.時間コヒーレント光源:回折限界・フーリエ限界光源

1に模式的に示す第3世代までの放射光源は、波面の揃っていない光源で、インコヒーレント光源と呼びます。ERL光源は、2に相当する光源であり、光源のサイズと発散角が小さくなることによって、進行方向と垂直な方向(横方向)には波面が揃っていますが、進行方向(縦方向)には波面が揃っていません。このような光源を空間コヒーレント光源と呼びます。SASE(Self-Amplified Spontaneous Emission; 自己増幅自発放射)方式のX線自由電子レーザーはレーザー増幅機構を利用していますが、元々ノイズ状に発生した光を増幅しているために、こちらも進行方向にはコヒーレントではありません。SASE方式のXFELで、進行方向のコヒーレンスを実現するために、種光を用いる方法(シーディング)の開発が世界各地で進んでいます。

 2のような空間コヒーレント光源に対して、3のように横方向にも縦方向にも波面が揃った光源を、時間コヒーレント光源と呼びます。時間コヒーレントな光源はどのような性質を満たす光源なのでしょうか。光の進行方向に対して、時間コヒーレンスが保証されるためには、光の時間幅に対して、光のエネルギー幅が十分狭いことが必要です。光のエネルギー幅が広ければ、幅広い波長成分を含むということなので、進行方向に波面をそろえることが難しくなります。
 別の言い方をすれば、光の時間幅とエネルギー幅には不確定性の関係があり、その積はある値より小さくはなりません。これは、光のビームサイズと発散角の間の不確定性と同様の関係です。光の時間幅とエネルギー幅の積は以下のような式の関係が成り立ち、その積が最小になる場合を、フーリエ限界と呼びます。フーリエ限界が成立する光源を時間コヒーレント光源と呼びます。

図16s.png

例えば、1ピコ秒の時間幅に対して、フーリエ限界は、1meVのエネルギー幅に相当しますので、1ピコ秒幅の10keVのX線に対しては、10の-7乗のエネルギー分解能が満たされれば、時間コヒーレントな光源であると言えます。ERLの1次光のエネルギー分解能は、0.3%程度でしたので、そのままでは時間コヒーレントな光とはいえません。

 しかし、ERLを基盤として、X線の共振器を組むことにより、時間コヒーレントなレーザー光を発振させるというアイデアが、最近になって提案されました。この装置を「共振器型X線自由電子レーザー:X-ray Free Electron Laser Oscillator:XFEL-O」と呼びます。次のセクションで、共振器型X線自由電子レーザーXFEL-Oについて、より詳しく解説します。