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エネルギー回収型ライナック光源(Energy Recovery Linac)情報サイト


ERLって何? (2)

なぜライナック?


第3世代放射光源では、蓄積リングが標準だったのに対して、次世代放射光源では、ライナック(線形加速器)を基盤としているのはなぜでしょうか。その最大の理由は、ライナックを基盤とすることで、蓄積リングの電子ビーム特性の限界をはるかに超える性能を実現できるからです。

 蓄積リングでは、電子ビームが蓄積リング内を何度も周回することにより、定常状態に達して、エミッタンス、バンチ長、エネルギー幅などの電子ビーム特性が、蓄積リングによって決まる、ある一定の広がりを持ってしまいます。これは蓄積リングの宿命です。それに対して、ライナックでは、電子ビームが一回加速されて、そのまま廃棄されますので、ライナックでの良質な電子ビーム性能がそのまま保たれるのです。これは最近の加速器技術の進歩によって、初めて可能になったのです。

なぜERL?


ライナックを基盤とする光源では、電子ビームが一回加速されて、そのまま廃棄されると述べました。しかしERLはリング状になっていて、電子ビームが周回しているように見えます。これはどういうことでしょうか。ERLのからくりをのぞいてみましょう。

 下のアニメーションをご覧ください。これはERLの原理を模式的に表わしたものです。入射器(緑の四角)から、電子ビームがリングの中に入射されます。青色の丸は加速エネルギーの低い電子、赤色の丸は加速エネルギーの高い電子をそれぞれ表わしています。白抜きの四角い箱がライナックです。入射された青色の電子はライナックの中の赤色の波で示した加速電場に乗って加速され、ライナックの終端で赤色の電子になります。赤色の電子はリングを一周してライナックに戻ってくると、今度はライナックの中の青色の波で示した減速電場に乗って減速されます。そして、最終的に青色の電子になって、ビームダンプ(黒の四角)に導かれます。このように、ライナックで加速された電子がリングを1周だけ周回したのちに、加速に使われたエネルギーが減速によって「回収」されて、電子が廃棄されるので、この加速器のことをエネルギー回収型ライナック(Energy Recovery Linac; ERL)と呼ぶのです。

 このように、あたかも蓄積リングのように電子が周回することで、周回部に蓄積リングと同様にビームラインを多数設置することができ、しかも、それらすべてのビームラインでライナックの良質な電子ビーム性能が利用できるというのが、ERLの大きなメリットです。

参考:放射光ビームライン光学技術入門 第2章 光を作る(挿入光源と次世代光源) (田中隆次)

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ERL動画作成 本田洋介(KEK加速器第7研究系)