ERLから得られる光の特徴 (1)回折限界X線
ERLのエミッタンスと光源サイズ・発散角
ERLの電子ビームから得られる光の特徴は、X線領域で回折限界に到達するという点です。回折限界X線は、原理的には波長オーダーまで集光が可能であり(同時に光学素子の性能向上も重要です)、これまでに増して、輝度を活かした測定が可能になること、そして空間コヒーレンスを利用した測定が可能になることが期待されます。
では、ERLの光がどのようにして回折限界X線となるのか、電子ビームの性質から順番にたどってみましょう。ERLの電子ビームの標準的なパラメータを、PF、SPring-8のパラメータと比較して、下の表にまとめました。電子ビームのサイズと発散角は、直線部の中心の値をそれぞれ用いています。PFやSPring-8の電子ビームが、水平方向に扁平なビームになっているのに対して、ERLでは丸いビームになっており、水平・垂直方向ともに、電子ビームサイズと発散角が小さくなっていることがわかります。
elecrton beam parameters | PF | SPring-8 | ERL |
Energy (GeV) | 2.5 |
8.0 |
3.0 |
Ring Current (mA) | 450 | 100 | 100 |
Bunch length (psec) | 33 |
20 |
0.1~1 |
natural emittance (nmrad) | 34.6 | 3.4 | 0.014 |
energy spread | 10-3 |
10-3 |
5x10-5 |
RF frequency (MHz) | 500 | 508 | 1300 |
horizontal beam size (μm) |
600 |
298 |
7 |
vertical beam size (μm) |
12 |
6.17 |
7 |
horizaontal beam divergence (μrad) |
88 |
12.3 |
1.4 |
vertical beam divergence (μrad) |
29 |
1.1 |
1.4 |
このような電子ビームから得られる光のサイズと発散角を下の表にまとめました。光のサイズと発散角は、電子ビームのサイズ・発散角と各電子から放射されるアンジュレータ放射光のサイズと発散角の畳み込みによって与えられます。
SR beam parameters |
PF | SPring-8 | ERL |
BL-3A | BL09XU | 5m undulator | |
horizontal beam size (σx) (μm) | 600 | 298 | 7.5 |
vertical beam size (σy) (μm) | 12.1 |
6.6 |
7.5 |
horizaontal beam divergence (σx') (μrad) | 92 | 12.7 | 3.5 |
vertical beam divergence (σy') (μrad) | 39.6 | 3.5 |
3.5 |
さて、光のサイズと発散角は不確定性の関係がありますので、2つの積はある値を下回ることはありせん。その積が最小になるときを、回折限界といいます。光の空間分布がガウス分布に従う場合、光のサイズと発散角との間には、光の波長λを用いて、以下のような関係があります。
回折限界を達成するためには、波長が短くなればなるほど、より小さな光のサイズと発散角が必要となります。この式に、ERLから得られる光のサイズと発散角を代入すると、波長約0.3nmで回折限界が達成されることが分かります。