ERLから得られる光の特徴 (4)短パルス性能
ERLから得られる光のパルス特性
ERLは、ライナックを基盤とすることで、蓄積リングで達成できる電子ビーム特性限界をはるかに超える性能を実現できると述べました。この点は、ERLから得られる光のパルス特性にも強く反映されます。
蓄積リングでは、電子ビームが蓄積リング内を何度も周回することにより、電子のエネルギー広がりに起因する進行方向の振動(シンクロトロン振動)が生じ、定常状態では、バンチ長がある一定の広がりを持ってしまいます。典型的には、蓄積リングでは50ピコ秒程度の時間幅となります。これに対して、ERLでは、電子ビームが加速されて、リング1周後に廃棄されますので、ライナックでの良質な電子ビーム性能がそのまま保たれます。これによりフェムト秒オーダーのパルス幅が実現できます。
ERLは、1.3GHzで運転される高繰り返し光源ですので、1個の電子バンチあたりに放出される全光子数はそれほど多くはありません。このような特徴は、何度も繰り返し積算することによりデータの精度を向上させることができる、ポンプ・プローブ測定に特に適しています。例えば、1.3GHzを分周した繰返し周波数で駆動できる外場励起源(パルスレーザーなど)と放射光を同期させることにより、様々な時間分解精密測定が可能になると期待されます。上の図は、フェムト秒赤外レーザー光の励起によって、ペロブスカイト型マンガン酸化物薄膜の結晶構造が高速に変化する現象をPF-ARの60ピコ秒幅のX線で捉えた実験例です。この試料では、フェムト秒~ピコ秒オーダーにおいて進行する構造変化に、より大きな興味が持たれており、ERLによるポンプ・プローブ測定が重要な鍵を握っています。
ERLのポンプ・プローブ測定はサブピコ秒からナノ秒オーダーの超高速現象を追跡するのに適していますが、さらに時間の長いナノ秒オーダー以上の時間領域では、ERLは連続光のように扱うことができます。この特長を生かせば、サブピコ秒から時間オーダーまで、非常に広い時間領域をカバーすることができ、物質のダイナミクスにおける時間領域の階層性の研究に役立つと期待されています。